2013年9月アーカイブ

 
 私がBPDと診断されたのは22歳のときです。
 数々の症状を包み込んでくれる名前の付いた入れ物があるというのは、安心させてくれることだと感じました。

 私に同一性の感覚を与えてくれたのです。
 死を望んでいるというより癇癪といったほうがいい自殺企図,温かくにぎやかな群衆の中にいても自分を封鎖してしまう漫然とした空虚感、これらが全てこの障害の一部だと明らかになったのです。

 私がすることは全て度を越していました。
 食べきれないほど多くのトリュフを食べることができないなら、トリュフは一切いらない、と言うようなものです。

 私は自分が何者であるか、何を望んでいるのか、回復したいために長く生きたいと望んでいるのかも分かりませんでした。

 治療の先に全く光のないトンネルを進んでいくような、限りない曖昧さや不確かさに対して、私は物を蹴ったり引き裂いたりしたくなりました。

 私の中には生きたいと望む不完全な薄い層がありましたが、それとは別の強力な声が高波のように頭を満たし、急いで薬を飲みなさいと言って、ホテルの部屋へと急がせました。

 同一性障害は、BPDの子供に認められるが、神経症の子供には存在しないと言われ、子供の時からBPDだったと認識せざるを得ませんでした。
 私は年1回の割合で自分の呼び名を変えていました。

 他の子のお弁当を盗んで、嘘をついて信じてもらえないと分かっていながら、嘘をつき通せば私は大丈夫だと考え、嘘に包まれて保護されているように感じたことを覚えています。

 あれは本当の私ではありませんでした。
 私はひょうきんで、多くの突飛なことを思いつき、向こう見ずでした。
「私を見て。私がした楽しいことを聞いてちょうだい」とよく言ったものです。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本
                    
(次の記事に続く)
 

境界性パーソナリティ障害の長期経過

 
 BPDの人の長期的な転帰や、どの人が改善するのか、またはしないのかについて、ほとんど分かっていません。
 統合失調症や双極性障害は、長期経過を検証した研究が多数ありますが、BPDの経過を追った研究はごくわずかです。

 後方視的(回顧的)研究〔*注1〕では、BPDの経過が非常に変化しやすいことが分かりました。
〔*注1:診療記録によって対象患者を特定し、現在の時点から過去を振り返って、その診断に関係のある事項を調べていく研究〕

 患者によっては職場や社会的状況でうまく機能できますが、苦しみの続く人もいます。
 3%から10%の人が自殺によって亡くなっています。

 前方視的研究〔*注2〕はふたつ行なわれています。
〔*注2:時間の経過とともに、被験者の集団を観察していく研究〕
 マクリーン病院成人発達研究では、BPDの症状の改善は一般的に見られものの、感情症状は衝動性と比べると軽減のスピードが緩やかでした。

 一方、パーソナリティ障害経過共同研究では、BPD患者で比較的早く改善が訪れていることが分かりました。
 1年後の追跡調査で、患者の半数以上がBPDの診断基準を満たさなくなっていました。

 これらの研究からは、BPDの人とその家族にとって、従来より肯定的な見通しが明らかになっています。
 研究が重ねられれば、改善の要因が明らかにされ、回復の新たな希望が見えてくるでしょう。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本
 

衝動的な行動症状に対する薬物療法

 
 BPDの衝動的な行動症状には、自他や物に対する衝動的な攻撃が含まれ、自殺関連行動の主な危険要因です。
 浪費,むちゃ食い,薬物使用,性行為に現れることもあります。
 軽はずみな判断をするといった認知的側面に影響があるかもしれません。

〈SSRI抗うつ薬〉
 衝動的行動に対する治療の第一選択となる薬です。
 効果が不充分な場合には、MAOI抗うつ薬,気分調整薬が検討されます。

 暴力など性急な効果が必要な場合には、期限を限って低用量の抗精神病薬の筋肉注射が必要かもしれません。

〈気分調整薬〉
 炭酸リチウムは投与量が多すぎると重大な副作用を引き起こす恐れがあり、過量服用が致命的となりかねません。
 定期的な血液検査で血中濃度をモニターする必要があります。

 カルバマゼピンは感情統制不全と行動面の症状の両方に用いられる抗けいれん薬です。
 ディバルプレックスは、不安定な気分と攻撃的行動に対して有効です。
 共に定期的な血液検査が必要です。

○薬物療法の継続期間
 認知-知覚的症状に対する低用量の抗精神病薬は、短期的使用(数週間~数ヶ月)が現実的でしょう。
 感情統制不全と衝動的行動の治療の場合、患者がストレスにうまく対処できるようになるまで、薬を続ける必要があります。

○結び
 BPDの薬物療法は試みの段階です。
 混乱した対人関係を治療するものではありませんが、精神療法の効果を増す治療法です。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本
 

感情統制不全に対する薬物療法(2)

 
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〈モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)抗うつ薬〉
 MAOI抗うつ薬は、感情統制不全に対する効果が実証されていますが、使用には危険が伴います。

 チラミンを含む食物を多く取ると、血圧上昇を引き起こします。
 鼻づまりの薬や、幾つかの降圧薬,鎮静剤(メペリジン)も服用できなくなります。
 不法なドラッグは特に危険です。
 服用中に避けるべき食物と薬をよく理解していることが不可欠です。

 MAOI抗うつ薬は過剰に服用すると極めて有害ですが、SSRI抗うつ薬が効かない場合に考慮すべきです。
 非定型の抑うつ症状には極めて有効なことが多いのです。

〈抗不安薬〉
 アルプラゾラム,クロナゼパムなどの薬剤は、BPDの急性・慢性の不安にしばしば用いられます。
 これらはベンゾジアピン系薬剤であり、乱用されがちで、依存する可能性があります。
 突然使用を中止すると、けいれん発作などの離脱症状(禁断症状)が生じる恐れがあります。

 アルプラゾラムは、自己破壊的行動や他人への暴力といった、重大な脱抑制行動が認められます。
 クロナゼパムは、重症患者の興奮や攻撃性に有効であるという報告があります。

〈気分調整薬〉
 感情統制不全と衝動的行動の両方に使用されます。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本

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感情統制不全に対する薬物療法(1)

 
 感情統制不全は、気分の著しい反応性,不安定性として現れ、そこから怒り,落ち込み,不安の感情が生まれます。
 自殺関連行動は抑うつ症状よりも怒りによって生じることがよくあります。

 気分の制御の異常によって、拒絶に敏感になり、落ち込んで「気分の崩壊」を招くこともあります。
 これはセロトニンの機能低下が関連しているとされ、SSRIなどセロトニンの機能を高める薬が症状を和らげる作用があります。

〈SSRI抗うつ薬〉
 SSRI抗うつ薬は、気分の落ち込み,怒り,不安など感情の統制不全に対して、最初に使用するべきものです。
 衝動的な攻撃性に対しても明らかに効果があり、自傷行動にも効果的であることがあります。
 衝動的攻撃性への効果のほうが、抑うつ気分への効果よりずっと速く現れるようです。

副作用
 SSRI抗うつ薬は重大な副作用がなく、過量服用の場合でも危険性がずっと低い特長があります。

 副作用としては、一過性の軽い吐き気,口の渇き,便秘または下痢,不眠症または眠気,落ち着きのなさ,四肢の震え,発汗などが挙げられます。
 他に、性的な欲求や行動が減少することがあります。
 落ち着きのなさによって、自殺企図が生じることは重要です。

 あるSSRIを4~6週間服用してさほど効果がない場合は、別の種類のSSRIを試みることが推奨されます。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本

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認知-知覚症状に対する薬物療法

 
 BPDの薬物療法は、(1)認知-知覚的症状,(2)感情統制不全,(3)衝動的行動に効果がありますが、心理社会的治療のなかで補助的なものです。
 性急に多くの薬を導入すると、相互作用や副作用の危険が増します。
 BPDの薬の効果は中程度のものであり、人の性格を変えるものではありません。

 認知-知覚症状には、妄想的観念,離人感,脱現実感,奇妙な信念など、知覚や思考の異常が含まれます。
 神経伝達物質のドーパミンは、軽度の思考障害や、興奮,焦燥感,怒りに関係すると考えられています。
 抗精神病薬(ドーパミン阻害薬)は、これらの症状に最初に使用されるべきものです。

〈抗精神病薬〉
 認知-知覚症状や、それに伴う怒り,焦燥感,敵意に対して最も効果的です。
 数時間から数日で効果が出始めるので、怒りや攻撃性に対して、危機の時期にのみ使用することがあります。

副作用
 筋肉のこわばりや足を引きずるような症状,じっとしていられなくなることや、四肢の震えが挙げられます。
 ハロペリドールやチオチキセンといった力価の高い薬で多く起こります。

〈非定型抗精神病薬〉
 副作用が小さく、低用量なら受け入れやすいもので、オランザピンとリスペリドンはBPDへの効果が研究されています。
 オランザピンは体重の増加や軽い鎮静の副作用があり、高容量のリスペリドンは抗精神病薬による筋肉症状と同じ副作用の可能性があります。

 最も効き目が強いクロザピンは、思考や知覚の重度の混乱を改善させ、衝動的な行動に効き目があることがあります。
 稀ですが、白血球の減少で生命に危険を及ぼすことがあるため、最期の手段とみなされています。

副作用
 旧来の抗精神病薬を長期間使用すると、遅発性ジスキネジアという神経的障害が発生することがあります。
 非定型抗精神病薬はこれを起こさないと考えられています。
 抗精神病薬は数週間から数ヶ月の期間のみ使用するのが一般的です。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本
 

 
 パーソナリティ障害は、生物学的要因と生育環境的要因の相互作用で、知覚,認知,感情,行動に異常が生じる複雑な症候群です。
 学習による側面を性格特性と呼び、先天的な側面を気質と呼びます。

 パーソナリティの成り立ちは、「生まれか育ちか」という対立で論議されがちですが、全て発達の過程と密接に関連しています。
 例えば、衝動的・攻撃的な気質の子供は、回避的・恥ずかしがり屋の子供とは異なる方法で世界と関わり、周囲に対する態度や対人関係を形成していくでしょう。

 幼い頃に虐待を経験すると、脳の神経内分泌系に変化が生じ、成人期にも持続します。
 海馬や扁桃体が小さくなり、セロトニン機能も低下します。
 海馬は記憶,扁桃体は感情(特に怒り)の制御に重要です。
 セロトニン系は感情,衝動,行動の制御に関わっています。

○脳の機能に神経伝達物質が果たす役割
 神経伝達物質は世界ついての見方や考え方,感情体験やその表現,行動を制御します。
 神経回路のバランスが先天的,後天的に失われると、適応不全となるかもしれません。
 これは薬物に敏感に反応すると考えられています。

 BPDはパーソナリティ特性と行動の組み合わせによる症候群です。
 単一の病因を指定できる疾患ではありません。
 衝動性と感情統制不全が中心的な生物学的要素が特徴です。
 神経伝達物質の異常による、思考や知覚の軽度の障害が見られることがあります。

 BPDは症候群なので、薬物療法はそれぞれの精神症状に対して、多くの薬剤が必要となることがあります。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本
 

 
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○危険性の評価と入院必要性の判断
 入院の必要性を決める際に、臨床家は、自殺の危険を重く捉えることと、患者自身が自殺念慮を耐え抜く力を高めることの、バランスを取るのが必要です。
 自殺の意図があるかないかは、多くの場合、患者自身が明確に区別できるものです。

 BPDの自殺念慮と自傷行為は、耐えがたい精神的状況を乗り切り、解放されたいという死に物狂いの願望から生まれたものです。
 それは生き続けるための努力です。

 それを認め、安全に対処するよう支援できれば、頻回の入院を避けられます。
 必要のない入院を繰り返すと、患者は入院でしか自分の辛さを認めてもらえないと思い、入院するような振る舞いを見せるようになります。
 そのような患者の入院の意味を変えていくことが必要です。

 自殺企図を起こす極端に苦しい時期には、入院治療によって自殺企図を阻止したり、患者が落ち着くまで耐えることを援助できます。

○自傷行為のまとめ
 BPDで自殺を試みた人は、自殺の意図が両価的で、自殺企図のたびごとにその意図が変化しているでしょう。

 BPDの人には、自殺の意図のない自傷行為,自殺念慮,自殺をするといって脅す行動が見られます。
 自殺企図と自殺を意図しない自傷行為は全く別のものです。

 人を操作したり関心を集めるために自傷行為をするというより、このような行動を恥じ、隠すことが多く見られます。

 自傷のきっかけで最も多いのは、対人関係を失ったことです。

 自傷行為のプラスの作用としては、緊張を和らげる,辛い気持ちをそらす,精神的苦しみを目に見えるものにする,怒りの感情を行動にするなどで、統制できない感情をコントロールすることです。
 自傷行為によって精神的プレッシャーから解放されると言います。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本
 

 
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 自傷行為の治療では、ふたつの臨床的課題があります。
 自傷行為を減らすことと、入院の必要性の判断を含む危険性の評価です。

○自傷行為を減らすこと
 患者の自傷行為の主観的な体験を包括的に評価し、患者に伝えることで、自傷行為を減らすために使うことができます。
 その際、自殺関連行動の次の側面が評価されます。

1.自傷行為のプラスの作用
 自傷行為は人を操作したり関心を引こうとするのではなく、感情統制,自己懲罰,自己確認といったプラスの作用を理解しいきます。

2.過去の自殺関連行動の意図
 過去の自殺関連行動の意図によって、死ぬ意図の有無が判断されます。
 この意図は、客観的状況からだけでなく、患者の主観的な報告によって確認していかなければなりません。

3.自傷行為の原因となる認知と認知過程
 患者は自傷行為に良い点があるという、歪んだ信念を持っています。
 辛い精神状態に対処するのは自傷行為しかないといったものです。

 それは認知的再構成によって修正することができます。
 臨床家と患者は協力して、感情の高まりがどのようにして外的なでき事に歪んだ認知をもたらすか、理解していきます。

4.自傷行為の影響
 自傷行為を強化するような影響を知り、強化のパターンを変えて、適切な行動を促していきます。
 患者が意図した影響と意図しなかった影響を区別し、対人関係を改善する契機となります。
 

 弁証法的行動療法や認知行動療法では、自傷行為の衝動や歪んだ認知の修正を試みます。
 弁証法的行動療法では、患者の感情や経験を有効なものと認める「有効化」と、価値判断をしない介入によって、感情統制機能の強化と自己非難の緩和も目標とされます。

(次の記事に続く)

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本
 

 
 BPDの人は、自分には価値がないという深い感覚が込み上げて、感情にもてあそばれ、失望と拒絶に耐えられなくなっています。
 彼らはそれを自覚して受け入れるのが極めて苦手なのです。
 自分自身の反応に対して非常に批判的で、自己の「無効化」と自己批判が生じます。

 認知的にも、誤解されている,誰も自分のことを気にかけてくれない,自分はどこか欠けていると感じています。
 彼らは不快感を認識して言語化する能力が未発達です。

 このような経験,感情,信念は、自分が悪いという感覚に通じていきます。
 自分の価値を認識してもらうため、他者に強く頼ろうとします。
 感情の統制を欠いているので、対人関係にすぐ失望して、低い自己評価への攻撃と感じてしまいます。

 彼らは、自分を動揺させた原因と自分自身の両方に対して、制御されない怒りを感じて半狂乱になります。
 自分が悪いという感情,自分への怒り,自己非難が、自殺や自傷行為につながっていくのです。

 自己統制モデルでは、自傷行為と自殺関連行動にふたつのプラスの作用があると考えられます。
(1)自分に身体的な傷をつけること
(2)自己、特に感情を統制し、心のバランスと幸福の感覚を回復する

 患者は耐えがたい感情,思考を制御できないことに、自己非難を伴っています。
 これは極めて惨めで、例え数時間でも永遠に終わらないように感じられます。
 この気持ちを変えるために何かしなくてはならないという強い欲求が高まり、自殺企図や自傷行為が生じるのです。

 それよって感情統制機能を回復し、その後で気分が良くなります。
 従って、自殺企図の後に入院しても何の役にも立ちません。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本

(次の記事に続く)
 

自殺関連行動の伝統的モデル

 
 メディアが描く自殺に至るパターンは、BPDの人に当てはまるとは限りません。
 うつ病の人は何らかのストレスや喪失体験のあと、絶望や孤立を経験し、生きるに値しないと感じて、自殺企図に走ります。
 その試みが失敗すると、動揺するのが通例です。

 このような伝統的な自殺行動のモデルは、BPDの人には当てはまりません。
 BPDの人は多くの場合、自殺企図と自傷のエピソードを同様に語ります。
 自殺企図の後、気分が良くなったと感じる傾向があるので、自傷行為と同じく感情統制機能があると考えられます。

 あるBPDの女性は、大切な人に強い怒りを感じると、罪悪感を覚え、自己嫌悪が生じると言います。
 その状態から逃れるため、自分の体に痛みを与えたり、薬を過剰に服用したりし、辛い感情からの解放感が得られました。
 彼女は、自分の状況に対処するために自分が何かをしたという気持ちになり、「コントロールが戻った」感覚を経験したのです。

 その結果、恐怖感や孤独感が減って、死にたい気持ちが消えました。
 自殺企図の悪い影響は残りませんでした。

 このように、うつ病の自殺関連行動の伝統的モデルとは明らかに異なります。
 BPDの人の自殺関連行動には感情統制機能があるのです。

 BPDの人は自殺を図った後に気分が良くなるので、自殺企図によって人の関心を引いたり人を操作しているという、誤った結論を導く恐れがあります。
 BPDの自殺関連行動には、そのリスクと管理方法を判断するために、別のモデルが必要です。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本
 

自傷行為という体験

 
 対人関係での喪失体験が、それが現実でも想像でも、自傷の引き金となります。
 その体験の解釈(認知)において自責や自己非難が生じ、統制が失われて、自傷行為が起きます。
 激しい辛さが、解離によって感覚麻痺に陥りますが、辛さも感覚麻痺も耐えがたいプレッシャーなので、自傷行為によって解放感を感じたり、感情のバランスを取り戻します。

 痛みを感じると自傷行為をやめる人もいます。
 血を目にすると悪い感情から解き放たれたと感じて、自傷行為が止まる人もいます。
 自傷が不快感を緩和すると言われますが、これは自己懲罰による罪悪感の解放など心理的要素と関係があります。

 ひとつの痛みが別の痛みによって解消するという、生理的メカニズムがあります。
 自傷行為によってエンドルフィンが生じ、痛みを緩和するとも考えられています。

○認知と認知的要因
 自傷行為を行なう人は、自傷行為に良い点があると信じ込んでいますが、これは「歪んだ認知」です。

 彼らは、感情的苦痛より身体的苦痛なら耐えられると思い込んでいます。
 ネガティブな感情を取り除くのは自傷しかないと信じ、それで自分をコントロールできると信じています。

 怒りのために自傷行為する人にとっては、怒りを人に向けるのは悪いことで、自分を傷つけるほうが良いことなのです。
 自分を罰したい人は、自分が苦しんでしかるべきと信じています。

○解離,自傷行為,痛みの経験
 自傷行為の最中に痛みを感じない人は、うつ,不安,衝動性,心的外傷,性的虐待など、障害が重いと考えられます。
 無痛感覚は、神経感覚的要因と心理的要因の両方に関係があるともされます。

○生物学的要因と神経認知的要因
 自殺企図者はセロトニン機能が低下し、衝動性と攻撃性が高まることが知られています。
 また、ストレスに対する神経内分泌系の過剰反応によって自傷行為が起こり、コルチゾンの分泌が高まっています。
 自傷行為をする人の脳脊髄液の中では、脳内麻薬物質の濃度が変化し、痛みの調整に重大な障害が起きているとうかがえます。

 以上のことから、全ての自傷行為に生物学的基盤があると言えるでしょう。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本
 

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