2014年2月アーカイブ

カップルセラピー,入院

 ○カップルセラピー
 治療の対象は、患者自身やパートナー自身ではなく、二人の関係そのものです。

 目的は、カップル間のコミュニケーション・スキルの改善です。
 無効なコミュニケーションをやめ、批判,防衛,愚弄することを減らします。

 BPDの人やパートナーは通常、セラピストが自分の肩を持ってくれることを期待します。
 重篤なBPDで、自分の責任を考慮しない場合、カップルセラピーには限界があります。

 ノン・ボーダーの人が自分を承認してもらえないと感じて、セラピーが状況を悪化させる可能性もあります。
 なのでこのセラピーを始めるには最大限の注意が必要です。

 もうひとつの問題は、多くの人が、危機で切羽詰まったときのみセラピーを始めることです。
 差し迫った脅威がなくなり、ノン・ボーダーの人が再び関係に引っ張り込まれると、ボーダーの人の行動は以前の状態に戻ってしまいます。

 従って最初の目標は、治療のモチベーションを確立することです。
 どちらかでも治療に強制されていると感じるなら、決して一定のレベル以上には進歩しません。

○入院
 BPDの人に他害自傷の危険があったり、重篤な症状がある場合に入院が必要となる可能性があります。

 看護師と親しくなったり、精神科医と話すのが必要なこともあるでしょう。
 重要なのは、本人に毎日会って状態を確かめ、本人と心配事について話をすることです。

 患者の入院は皆さんにとっての休息でもあります。
 入院は誰のせいでもなく、彼らは専門家のケアを受けているのです。

■BPDはよくなります! 
 治療法はひとつではありません。
 タイミングが悪かったり、セラピストとの相性がよくないことはありますが、他でも援助が得られないという意味ではありません。
 希望が存在し、実際によくなるということを知る必要があります。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本

 

STEPPS,スキーマ療法

 《STEPPSグループ治療プログラム》
 STEPPSは、「感情の予測と問題解決のためのシステム・トレーニング」の頭文字です。
(Systems Training for Emotional Predictability and Problem Solving )

 認知行動的なスキル訓練で、特定の感情と行動への対処スキルを学びます。
 家族はチームの重要な参加者となり、患者の手助けをします。

 問題への対処,目標設定,自己ケアのスキルに焦点を当てた面接を行ないます。
 自分の思考,感情,行動の強度を毎日追跡記録し、個人的責任を重視しています。

《スキーマ療法》
 「スキーマ」とは、身に付いてしまった自己破壊的な生活のパターン(癖)です。

 「スキーマ・モード」というのは、瞬間ごとの感情の状態や、対処反応のことです。
 「見捨てられた・虐待された子供」のモード,「怒っている衝動的な子供」のモード,子供を罰する「懲罰的な親」のモード,「よそよそしい親」のモードなどがあります。

 患者は子供時代に感情的に傷を負っており、再養育の有効性が前提とされます。
 混乱した、悲惨な人生から解放され、より深いパーソナリティの変化を起こします。

○個々の治療プログラムを比較する
 この障害は多くの異なった形で現れますが、その相違を考慮に入れた治療研究はありません。
 どの治療が最善かの議論は続くでしょう。
 重要なのは、皆さんと家族の健康と幸福であり、皆さんの愛する人がどの治療に反応するかなのです。

 治療には時間がかかります。
 BPDの人は常に「彼のせいだ」「彼女のせいだ」と思ってます。
 自分の問題を自分のものとして受け入れるのは、とても難しいのです。

*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本

 

弁証法的行動療法(2)

  
(前の記事からの続き)

oプログラム構成
 プログラムの中心は、毎週2時間のグループスキル訓練と、毎週1時間の個人セッション、必要なら電話による危機対応も可能です。
 グループのセッションでは、苦悩耐性,中核的マインドフルネス,感情調節,対人関係という、相互に関連したテーマが取り上げられます。

・苦悩耐性
 惨めなときに、それを悪化させることなく乗り越えることです。
 DBTは、自虐的な方法より、注意をそらす多くの方法を集めています。

・感情調節
 感情の激しさを和らげることが目的です。
 BPDの人のなかには、自分の感情を無視する人もいます。
 彼らは自分がどう感じているかが分かりません。

・対人関係
 この訓練の目的は、対人的混乱を減らし、見捨てられ不安を軽減することです。
 前向きな見通しを学び、建設的なやり方で自分の要求を満たすように他者に頼むこと,自分の境界を主張すること,関係をうまく維持することなどが課題です。

・個人セッション
 週に一度、まず話し合うのは、その週の自傷や自殺行動についてです。
 次に、セラピーを妨げる行動(遅刻や、セラピストに不適切な時間に電話することな ど)についてです。
 それから、うつや物質乱用など、生活の質を低下させる問題です。
 最後に、スキル訓練でどれだけ進歩したかを話し合います。

o弁証法的行動療法の限界
 多くの患者が、弁証法的行動療法で生活が著しく改善したと言います。
 とはいえ、奇跡の治療法ではありません。

・BPDで自殺思考や自傷が減るのは明らかです。
 しかし、うつを緩和したり、幸福な気持ちにさせるわけではありません。

・自分の病気を認め、学びたいと思い、セラピーで努力する患者にのみ適切です。
 高機能のBPDの人には適切ではありません。

・多くの労力を必要とします。
 患者は高いモチベーションを持っていなければなりません。

・経済的負担が大きい場合もあります。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー(星和書店)
 〈監訳:遊佐安一郎〉より

文責・稲本

 

弁証法的行動療法(1)

 ○標準化された療法
 BPDの構造化された療法には、弁証法的行動療法(DBT),STEPPS(Systems Training for Emotional Predictability and Problem Solving),スキーマ療法があります。

《弁証法的行動療法》(DBT)
 
 低機能のBPDの人のための、自傷や自殺の割合が低下する治療法です。
 「弁証法」というのは、ふたつの反対の事柄が同時に真実であることを意味します。
 患者は自分自身のありのままを受け入れる必要があると同時に、自分を変えて新たなスキルを学ぶ必要があります。

 弁証法的行動療法(DBT)の創始者のマーシャ・リネハンは、「自分自身を受け入れなければ、実際に変わることはできない」と言っています。

o基本的な弁証法的行動療法の概念
・患者は動機づけられており、変化しようとする気持ちがある
 BPDの患者は、落伍者だと感じたり、衝動的な行動を取ったりすることにうんざりしています。
 彼らは変わることに強い関心を持っているのです。

・徹底的受容は、回復に必要不可欠である
 徹底的受容とは、今のありのままの自分自身を、判断したり批難したりせずに受け入れることです。
 生涯にわたるプロジェクトであり、BPD以外の人にとっても重要な手段です。

 徹底的受容は、自分自身を嫌う羞恥心から解放するといいます。
 「自分はこのようにできているのだ」と落ち着いて言うことができるでしょう。
 「そうでなかったらよかったが、そうなのだ」。
 いったん自分自身についての判断を手放すと、真に前進することができるのです。

・感情をうまく扱うための鍵は、マインドフルネスにある
 多くの苦しみは、将来について考えたり、過去を反芻することによって起こります。
 マインドフルネスは、一歩下がって、自分の内側や周りのでき事を観察し、その瞬間に生きることを可能にします。

 公園を散歩しながらでも、過去や未来に心を奪われるのではなく、目の前の自然の美しさに浸るということです。
 マインドフルネスはBPDの人だけでなく、全ての人のためのものです。

・BPDの人は承認を必要とする
 承認とは、BPDの人の気持ちを共感的に聞き、評価しないことです。
 BPDの人に「怒るべきでない」と言う代わりに、「君がとても腹を立てているのが分かるよ」と言うようなことです。

 このとき、その怒りの理由が正しいと同意しているのではないことに留意してください。

(次の記事に続く)


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本



力動的精神療法と認知行動療法

 

 不本意なパターンに何度も陥っている人にとって、セラピーは特に有益です。

○臨床的な「アプローチ」
 治療には様々な学派もしくは「アプローチ」があります。
 精神分析,問題解決志向療法,ブリーフセラピー,力動的精神療法,認知行動療法などです。
 ほとんどのセラピーは、様々な学派を少しずつ組み合わせたもので、「折衷的アプローチ」と呼ばれます。

 「標準化された治療」の場合、臨床家は同じような教育と訓練を受けます。

○折衷療法
 多くの折衷主義の臨床家は、力動的精神療法と認知行動療法の学派の技法を用いています。

《力動的精神療法》
 クライアントの感情や過去の経験を明らかにし、それを検討します。
 未解決の葛藤や昔の問題が、クライアントの非生産的な行動を引き起こしているかを調べます。

 セッションから得るのは洞察の経験です。
 これは知的学習とは異なります。
 感じないようにしてきた物事を感じ、避けてきた物事を認識できるようになるとき、気分がよくなり、より機能できるようなるのです。

《認知行動療法》
 思考が私たちの感じ方や行動を引き起こします。
 思考を、より望ましい反応や行動につながる思考に置き換えることが重要です。
 そうして感情を改善することができます。

《折衷的組み合わせ》
 力動的精神療法と認知行動療法を統合した折衷的アプローチは、柔軟な対応を可能にします。
 クライアントは問題に対する洞察(思考)を得ることで、より自信を持ち(感情)、実用的なスキル(行動)を改善できるかもしれません。

 

*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本

 

 


薬物治療

 セラピーはBPDを克服するのに紛れもなく役立ちます。
 薬物も症状の治療に劇的な役割を果たし、セラピーを最大限に生かすために必要です。

 薬によって可能なのは、抑うつ,気分変動,解離,攻撃性,衝動性などの軽減です。
(残念ながら傷ついた心を治療できる薬はありません。)
 脳の神経伝達物質の機能を正常化します。

 同じ量の同じ薬剤が、様々な人に様々な形で影響を与えます。
 最善の結果をもたらす薬剤と、その量を見いだすために試行錯誤する期間があります。
 副作用を最小限に抑えながら、少ない服用量(用量設定)を目指します。

 この期間は楽しいものではなく、長期にわたる可能性があります。
 重要なのは、医師と密接に取り組み、症状を観察することです。
 最終的には、適切な薬物治療がBPDの人の人生を好転させます。

 セロトニンに影響するパキシルやプロザックなどは、効くまでに6週間かかることもあります。
 対照的に、アルプラゾラムのような抗不安薬はすぐに効果が現れます。

 薬剤の目的,用量,服用時間,副作用や薬剤を中止したときの副作用,ジェネリック薬についても、医師や薬剤師に質問しましょう。
 ネット上では、製薬会社はバラ色のイメージを描くかもしれないので、公平なサイトを見るようにしましょう。

 入院するときには、それ以前にあった症状ごとに薬を処方されていますが、それらの診断が正しいという確信がなければ、徐々に薬剤を取り除いていきます。
 

*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本

 


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