2014年7月アーカイブ

境界について話し合いましょう(1)

 
 本人との話し合いは、何カ月にもわたるでしょう。
 境界をイベントとしてではなく、プロセスと考えてください。
 最初はひとつかふたつの境界でゆっくり始めましょう。

○安全第一
 BPDの人を説き伏せようとするのは悪い考えです。
 いつも安全第一です。

 虐待的な振る舞いを大目に見てはいけません。
 境界を設ける方法には幅があります。
 その部屋から出ていくという方法も、救急車を呼ぶという方法もあるでしょう。

 誰かが暴力的になったときには、身の安全を守ることが重要です。
 目をつぶっては、事態をエスカレートさせるだけです。

○DEARテクニックを活用しましょう
 BPDの人とのコミュニケーションのための、一連のスキルが「DEAR」です。
 描写する(describe),表現する(express),主張する(assert),強化する(reinforce)の頭文字です。

 共感的に認め、障害の生物学的理由,BPDの人が感じる羞恥心と恐れなど、すべて心に留めておくことは重要です。

描写(describe):
 事実に基づき、感情的にならず、その状況を目にしたように述べてください。

表現しましょう(express):
 その状況に何を感じているか、どう考えているか、はっきりと表してください。

主張しましょう(assert):
 境界を簡潔に主張してください。
 境界は小規模で、達成可能であるべきです。
 この境界を繰り返し述べてください。

強化(reinforce)
 適切なら、境界の利点を強化してください。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

境界設定の話し合いのための準備(2)

 
(前の記事からの続き)

○代償を見積もりましょう
 私たちは解決できない問題に直面すると、見て見ぬふりをしたり、うまくいったことがない方法を用いたりします。
 そして危機が生じます。
 代償は思った以上に高くつきます。

 私たちは物事を成り行きに任せがちです。
 non-BPDは自分の生存が脅かされるまで、境界設定を先延ばしにするようです。
 そして自分自身を好きでなくなってしまいます。

○境界特性その5
『長期にわたって境界を維持していくには、その境界が必要であるという確信を持たなければなりません。
 確信は、代償を理解したときに生まれます。』

○結末を提示しましょう
 BPDの人が境界に従わなかったときには、実際に家を出たり、別の結末を用意する必要があります。
 人は不愉快な行動は避け、張り合いのあることをやるものです。

 健全な人間関係では、境界は、他者を喜ばせたい欲求と、自分を喜ばせたい欲求のバランスで成り立っています。
 non-BPDはあまりにも弱い境界しか持たない傾向があります。
 受け入れることと受け入れられないことの、「基準線」を変えてください。

 皆さん自身と二人の関係のために結末を用意するのであって、本人に対抗してそうしているのではありません。
 境界は皆さん独自のものであると覚えておいてください。

○同意を図りましょう
 家族全員の足並みがそろっている必要があります。
 協力し合わない両親には、夫婦間の問題が生じるでしょう。
 それもまた、スプリッティングを悪化させます。

○起こりうる結果を考慮しましょう
 BPDの人の行動が改善する前、例外なくいったんは悪化します。

 最初のステップは、その状態から脱することです。
 起こりうる結果を全て考慮し、問題解決に備えます。

 以下の兆候が見られたら、専門家の支援が必要です。
・大激怒,自殺の脅しなど、安全を脅かす
・二人の関係が長年機能不全である
・BPDの人が権威ある立場にある
・BPDの人が脅しをする
・BPDの人が味方を引き入れる


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

境界設定の話し合いのための準備(1)

 
 境界を設定しようとすると、スプリッティング-羞恥心-恐れの螺旋が活性化されます。
 安全ネットの計画として、以下の5つの「C」が肝要です。

・明確化する(clarify)
・代償を見積もる(calculate costs)
・結末を提示する(come up with consequences)
・同意を図る(create a consensus)
・起こりうる結果を考慮する(consider possible outcomes)

○境界を明確にしましょう
 設定したい境界を考えてください。
 他の人たちとブレイン・ストーミングをしてください。
(他の人はnon-BPDが気付けないこと気付きます。)

 高機能BPDの人の場合、次のような質問から始めてみましょう。
・どのようなテーマは避けた方がよいか
・私にとって最善のことは何か
・BPDの人にとって最善のことは何か
・私は何を望んでいるか
・私は何を必要としているか
・どうしたら安全か
・何が私を腹立たせるか

 低機能のBPDの人なら、より現実的で小さな目標を設定できるよう助けてあげてください。
 家族内で率直に話し合い、全員が忠実に守れる計画を立ててください。

 境界は、皆さんが他者に何を期待するかではなく、皆さんが何を受け入れられるかです。

 親たちは、子供に多くをやりすぎる傾向があります。
 低機能のBPDの人が自力で何はでき、何はできないかを判断するには、試行錯誤が必要です。

 親がお節介をして事態を悪化させれば、それは親のせいになります。

 計画を立てる際には、交渉の余地を残しておいてください。

(次の記事に続く)


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

境界設定の3つの鍵(4)

 
○境界特性その4
 次の特性は最も重要なものです。

『自分自身の境界に責任を持つことによって、被害者であることをやめましょう。
 境界にBPDの人がどう反応するかについては、彼ら自身に責任を持たせます。
 それによって、BPDの人が自分自身を救う機会を与えるのです。』

 自分の決断は自分のものであるという考えは、非常に強力です。
 できごとにどのように反応するかは、多様な選択肢があると認識できます。

 家族は、BPDの人ができないことと、できること(できるけれどもする必要がない、と本人が望むこと)を区別しなければなりません。
 境界を設定することで、人はより大きな責任を担い、BPDの人が自分の中に適切な境界を持つよう動機づけられるのです。

 BPDの人を、その行動の結末から保護してはいけません。
 壁に突き当たるのは必要なことです。

 家族がBPDの人を救った結果は複雑です。
 第1に、問題行動がしつこく続くことになります。
 BPDの人が何らかの報酬を得たからです。

 第2に、家族は本人をかばうなかで、犠牲を払ったことに憤慨するでしょう。
 この場合、家庭内の緊張が高まります。

 第3に、BPDの人はこの行動を家庭外で示し始め、より大きな被害と損失を目の当たりにすることがあります。
 現実世界への準備をさせないままにしてしまうのです。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

境界設定の3つの鍵(3)

 
○自分の知覚,感情,意見を信頼しましょう
 私たちが信じていることを誰かが絶えず覆そうとすると、私たちの信頼は揺らぎ始めます。
 BPDの人は私たちを孤立させ、一貫したメッセージにさらし、「洗脳」が生じるのです。

 皆さんの価値観,パーソナリティについて、否定的な判断をさせます。
 ほとんどの家族が、境界を設定する際、BPDの人から「利己的だ」と言われます。
 利己的というのは、ほとんどのノン・ボーダーの人にとって、嫌で堪らない言葉です。

 しかし皆さんは自分自身の信念を持つ権利があります。
 その信念がBPDの人と異なっていてもです。

○境界からBPDの人を救助するのをやめましょう
 「カープマン・トライアングル」を思い出してください。

 論争の最中に、家族のメンバーが、被害者,迫害者,救済者(被害者を救う人物)の役割を交替で演じます。
 ノン・ボーダーの人が境界を設定すると、BPDの人は自分を被害者役に、ノン・ボーダーの人を迫害者役に当てはめます。

 ノン・ボーダーの人はプレッシャーを感じて、その境界を撤廃してしまいます。
 ノン・ボーダーの人は迫害者から救済者へと移動し、知らないうちに自分の境界を破滅してしまいます。
 そしてノン・ボーダーの人が被害者,BPDの人が迫害者となっているのです。

 親たちにとって、罪悪感は二極間を行ったり来たりします。
 まず我が子の行動に失望し、怒りにかられます。

 その後、子供が自暴自棄になり、自殺企図や自傷行為が見られるようになると、親は震え上がります。
 親は介護モードになり、我が子を入院させます。
 子供は謝罪し、親は治療から我が子を救済します。
 親の罪悪感は軽減します。

 やがて、子供は再び行動化し、そのサイクルが繰り返されるのです。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

境界設定の3つの鍵(2)

 
《義務感と罪悪感》
 私たちは家族に対しては、めったに境界を設定しません。
 人生の全てを家族に喜んで捧げているようなものです。

 私たちは2つの理由から、家族に充分な境界を設定しません。
 自己誘発的な罪悪感,人がどう思うだろうかという恐れです。

 私たちは、家族に対して境界を設ける権利があるとさえ考えていないようです。
 けれども本当は、BPDの家族が他の誰とも同じ基準に従うべきと認める責任もあるのです。

 自分自身を労ることは利己的ではありません。
 要求に対して無条件に反応する人は、あまりにも疲れ、思いやりを持つことができないのです。

 罪悪感と義務感というのは、境界を設定する際の一般的な感情です。
 あまりにも不快なので、すぐに境界を維持することを諦めてしまいます。
 あるノン・ボーダーの人はこう言います。
「境界を設けようとすると、本人は何時間かかっても、私が諦めるまで文句を言います。
 最初の30秒で屈してしまうほうがずっと簡単なのです」

 FOGを切り抜けるために最も強力なテクニックは、「私は我慢できる」と繰り返して言うことです。
 自身と、人生を統御できるという感覚が高まります。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

境界設定の3つの鍵(1)

 
 境界設定の心の準備をする3つのポイントがあります。
・FOG(霧)を避ける。
 恐れ(fear),義務感(obligation),罪悪感(guilt)の頭文字です。
・自分自身の知覚,感情,意見を大事にする。
・BPDの人が境界を超えるのを許したり、彼らを救い出したりしない。

○FOGを避けること
 FOGは皆さんの視線を曇らせてしまいます。

《関係を失うことへの恐れ》
 ここで取り上げるのは、人間関係を失うことへの恐れです。
 BPDの人は障害はあっても、聡明で、愉快で、愛情が深く、美しく、素晴らしい人です。
 BPDの行動がその人の中心的部分だということを、受け入れるのは大変なことです。

 BPDの人の虐待的な行動から我が身を守るために、私たちは妥協してしまいます。
 それはBPDの人にとって報酬となります。
 私たちは次第に自分の境界を後退させ、相手の侵入を大目に見たり、虐待的な行動も容認できると自分を納得させるようになるのです。

 non-BPDの女性が、自分自身の時間や友人関係も必要だと言うと、BPDの彼氏は、彼女のもとを去って、嘘や噂を言いふらし、彼女の生活をだめにしてやると言います。
 しかし彼女は彼を失うことを恐れ、彼がどれほど素晴らしい人間か、他の人たちにも理解してほしいと思うのです。

 虐待のサインには、生活の指図をする,家族や友人から孤立させる,金銭を管理する,相手が虐待していると批難する,嫉妬深く独占する,暴力を振るう、などがあります。
 皆さんは沈黙を守ることで本人を「助けている」と考えるかもしれません。
 しかし、専門家の支援をただちに受ける必要があります。

 ストックホルム症候群を思い出してください。
(5月27日の記事の後段  :
 助けを求めないと、結果は悲劇的になりかねません。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

境界の特性(2)

 
(前の記事からの続き)

○境界特性その2
・皆さんは誰かの求めに応じて境界を設けましたか? 
 それとも全員のニーズのバランスを取ろうとしましたか? 
・皆さんの意図は、罰する,あるいはコントロールすることでしたか? 
 それとも、全ての要因をもとにし、理に適った計画を立てることでしたか? 

 ほとんどのノン・ボーダーの人は、自分以外の全員に配慮しようとします。
 「ノー」と言っていいことや、自分のニーズは他の人のニーズと同じように重要だということは、思いもよらないのです。

『皆さんの境界は、皆さんのためのであり、他の人のためのものではありません。
 それは皆さん自身,他者,人間関係を尊重することになるのです。』

 BPDの人は、境界を彼らを罰する,コントロールするためのものと見なすことがあります。
 彼らにとっては、感情は事実に等しいものです。

 もし皆さんが妥協するとしても、皆さんの感情が重要でないからという理由ではなく、皆さんが「そうしたいから」という理由でしてください。
 だからこそ皆さんは、自分が何を望み、何を必要としているかをはっきりさせる必要があるのです。

○境界特性その3
 この演習をした人の中には、諸経費が主な関心事で、芝刈りは大した問題ではないという人もいます。
 きれいな家に価値を置く人もいます。

『それぞれの人が、それぞれ異なる境界のスタイルを持っています。』

 境界は次の3点で変わってきます。
1.境界の透過性:境界がどれほど厚いか薄いか
2.境界の柔軟性:境界がどれほど可変的か
3.境界の複雑さ:境界がどれほど相互に入り組んでいるか

 私たちは自分自身の境界スタイルを持っており、それは上記3つの相互作用によります。
 融通の利かない境界を持つ人もいるし、大雑把で柔軟な人もいます。

 高機能のBPDの人の中には、かなり厳格な境界を持つ人もいる一方で、non-BPDの中には、何でも受け入れてしまう人がいます。
 そのため彼らは圧倒された気持ちになるのです。

 境界の相違は、衝突や不満の原因となります。
 しかし、しばしば別のことが原因に見えたりします。
 例えばお金,子供,約束を破ったなどについての争いに見えるのです。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より
 

文責・稲本
 

境界の特性(1)

 
 境界を理解するためには、具体的に話し合うことが一番です。

○「小人の家」演習
 皆さんとBPDの人が同居しており、家計も一緒にしていると仮定してください。

 BPDの人が、庭に小人の置物を集めようとします。
 様々なタイプ,サイズの置物を購入します。
 次第に費用やスペースの問題が生じます。
 「小人の家」を見ようと人々が車で乗り入れてきて、近所の人たちは腹を立てます。
 芝を刈るたびに置物を移動させなければなりません。

 次の質問に答えてください。
・置物に費やす費用は、どの程度が妥当だと考えますか? 
・置物に当てるスペースは、どの程度が妥当だと考えますか? 
・芝刈りをするときに、誰が置物を移動させますか? 
 置物の掃除は誰がしますか? 

 皆さんが本当に「望んでいるもの」は何であり、何を「必要としているか」をよく理解してください。

○境界特性その1
『皆さんの境界は、皆さんに特有の要因から生じています。』

 ほとんどの人は、ひとつの基準が万人に当てはまると想っています。
 しかしそんなことはありません。

 BPDの人が皆さんの境界は間違っていると言う場合、それは本人にとって何が正しいかをであり、皆さんにとってではありません。

(次の記事に続く)


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より
 
文責・稲本
 

どうして境界が必要なのでしょうか? 

 
○皆さんにとって
 境界は、私たちがコントロールされ、貶められ、不当に判断されることを防ぎます。

 境界によって、私たちの信念や好みがはっきりします。
 それがないと、私たちは他者の要求に圧倒され、道を踏み外しかねません。

 ボーダーの人の激情を檻に入れることによってではなく、強固な防護柵を自分の周りに作ることで、安全を保ってくれます。

○二人の関係にとって
 境界によって、人はお互い尊重し合い、安心が生まれ、受容と信頼がより深いものとなります。
 これらはBPDの人が非常に求めているものです。

 境界がないと、人間関係は混沌とし、不安定で、敵意に満ちたものとなりかねません。
 BPDの人は境界を嫌いますが、境界は彼らが渇望する密接な結びつきをもたらすのです。

○BPDの人にとって
 BPDの人は、しっかりとした境界を持っておらず、境界を罵ることがあります。
 しかし通常、境界は彼らのためになります。
 彼らは、構造化された環境ではよりうまく行動するといいます。

 BPDの人の中には、自分がコントロールを失ったことを知ると、非常に後悔する人が数多くいます。
 彼らの激しい怒りがエスカレートするのを避けられれば、彼らは感情のコントロールを取り戻すことができます。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

境界とは何でしょうか?


 ここでは例えば、「午後9時以降は電話をかけないで」というような、「観察可能な」タイプの境界に焦点を合わせることにします。
 他の境界は、精神的・感情的自己と関係があります。
 私たちには自分の空間と自立が必要です。

 ありのままの自分であることと、他者が望む自分であることの、バランスが大切です。
 健全でバランスの取れた関係と、不健全でアンバランスな関係を示します。

健全 :本来の自分だと感じる
不健全:パートナーがいないと物足りない

健全 :自分の幸せに責任を感じている
不健全:パートナーが幸せにしてくれることを期待している

健全 :一緒にいることと離れていることのバランスが取れている
不健全:一緒にいることが多すぎたり、少なすぎたりする

健全 :他にも友人関係がある
不健全:パートナー以外の友人関係がない

健全 :両者のよい点に焦点を合わせている
不健全:相手の悪い点に着目する

健全 :率直で誠実なコミュニケーション
不健全:駆け引きをする,相手の話に耳を傾けない

健全 :パートナーへの誠実さ
不健全:嫉妬,依存,不誠実

健全 :相手との違いを尊重する
不健全:相手の性質を責める

健全 :関係の変化を受け入れる
不健全:関係が常に同じであるべきだと感じる

健全 :望むことを正直に求める
不健全:望むことを表現できない


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

 
 境界を定めようとすると、次のようなことが起こります。

・BPDの人は、non-BPDのほうが間違っていると言い、言葉で魔法の罠を作る。
 その驚異的なパワーから誰も逃れられない。
・BPDの人は、ときには微妙な、ときには露骨なやり方で、non-BPDに罪悪感を抱かせる。

 non-BPDの中には、ボーダーの人が境界を守るつもりはないと認めざるを得なくなって、関係を終わりにした人もいます。
 しかし、ボーダーの人が何年も境界を崩そうとしたあとに、境界を守り始めたと言う人もいます。

 あるnon-BPDの男性は次のように話しています。
「彼女はいつも自殺すると言って僕を脅しました。
 僕は、何か間違ったことを言ってしまわないかビクビクしていました。

 僕は他の家族と語り合うようになって、2つのことに気付きました。
 もっと強くなって、境界を構築し直さなければならないということです。

 彼女が激怒して悪口を言い始めたら、僕は出ていくと彼女に言いました。
 彼女は激怒し、事態は10倍も悪化しました。
 でも僕には覚悟ができていました。
 その場を去るのが最善策だと納得していたんです。

 僕は数回家を離れ、1~2日帰らないこともありました。
 僕は彼女に、状況を改善する必要があると言いました。
 このままでは僕は壊れてしまうと。

 僕が真剣であることを、彼女も理解するようになりました。
 とうとうある日、彼女は僕に謝りました。
 時間がかかりましたが、状況は改善したのです。
 彼女は自分の行動に責任を感じるようになりました。

 とうとう僕たちは心と心で話せるまでになりました。
 「僕は随分苦しんでいる」と言うことができました。

 僕は自分自身を労らなくてはならないことを学びました。
 境界を定めるというのは、僕たちの関係を続けるための方法なのです。
 状況は改善する前にまず悪化する、それを受け入れることが必要です。」

 境界を定め、最後までそれを貫くことが、BPDの人が行動をコントロールできるよう手助けし、関係を改善するためにできる強力なことなのです。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

意図的なコミュニケーション(9)

 
(前の記事からの続き)

◇禁句
 非承認的な言葉や、本人の考えや感情が間違っているという言い回しは避けてください。

・別の考え方,感じ方をするよう命じる:
 「感情的になるのはやめなさい」「幸福に感じるべきよ」
・認識の仕方を否定する:
 「言い争うほどのことじゃないのよ」
・感情を過小評価する:
 「動揺するほどのことではないよ」
・判断し、ラベル付けをする:
 「感情的すぎるよ」「怒りっぽい人ね」
・けなすような問いかけをする:
 「一体どうなってるの?」「どうしてこんなことで大騒ぎするの?」
・「いつも」または「決して」と言う:
 「いつも君のせいで台無しだ」「あなたは私を決してほめないわ」

◇あるコミュニケーション方法
 重要な話題を持ち出すとき最初にするのは、「気分はどう?」と尋ねることです。
 「動揺させてしまうかもしれないんだけど」と心の準備をさせます。

・「あなたを認めてないように聞こえるかもしれないけど、そんなつもりじゃないのよ」
・「あなたの気持ちを傷つけてしまうかもしれないけど、気兼ねなく話せるようにしておくのは、長い目で見て一番いいと思うの」

 「私は」という一人称を用います。
・「私は圧倒されそうな気持ちよ」
・「私は批難されているような気がするの」
・あなたの気持ち、ある程度理解できるわ。でも私が変えられることではないの」

 相手の感情に共感的な言葉を述べます。
・「どうしてそんなふうに思うのか、分かるわ。
 (承認が相手に伝わるように、少し時間を取ります)
 でもね......」
・「私があなたの立場だったら、同じように感じたでしょうね。
 でも、傍から見ると、こんなふうに映るの......」

 BPDの人が感情をコントロールできなくなったら、しばらく別のことをすれば、衝動的にしなくなる可能性が高まります。
 BPDの人は多くの安心と慰めの言葉を必要とします。

 コミュニケーションの方法を発展させるには何年もかかります。
 しかし結局はうまくいくのです。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

意図的なコミュニケーション(8)

 
(前の記事からの続き)

○準備と実践
 機能不全の行動に捕らわれないためには、それを予測することです。

《過敏な反応性を落ち着けましょう》
 BPDの人とのこれまでの会話を振り返ってください。
 安全なときにそれらを思い浮かべ、その言葉が意味をなさなくなって威力を失うまで、想像を続けてください。

《ありありと思い浮かべましょう》
 適切な言葉,非言語的コミュニケーションを用いて、会話が望み通りに進んでいく様子を思い描いてください。
 目標を達成できたらどのように感じるか、想像してみてください。

《練習しましょう》
 カードを作って、気に入った言い回しを覚えてください。
 その後、他の人を相手に、または空の椅子を用いて、ロールプレイしてみましょう。

・深呼吸しましょう。
・身の安全を確保してください。
・リラックスした表情で、BPDの人と同じ姿勢をとってください。
・本人の言葉に同意しなくても、感情を共感的に認めてください。

(次の記事に続く)


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

 
(前の記事からの続き)

o緊張を和らげましょう
 好戦的でない言葉を使ってください。
 落ち着いた声の調子や動作で、相手を安心させます。
 恩きせがましくなく、率直に。

・「あなたの言うことは理解できるけど、私が言おうとしているのは......」
・「僕自身がはっきりしていないのかもしれないね。
 僕が本当に思っているのは......」
・「もしかしたら、あなたは私を誤解しているのかもしれないわ」

対話をうまく管理しましょう。
・「その話題に戻りましょうか」
・「妥協点を見つけて○○に焦点を合わせよう。
 □□の問題全体はできない」
・返事をしようと慌ててはいけません。
 何と言えばよいか確信が持てなかったら、共感的な姿勢で耳を傾けてください。

協力的な雰囲気を作りましょう
・「多分一緒に○○に取り組めると思うよ」
・「私たちが合意している点は......」
・「僕たちはお互いのことを大切に思っているのだから......」
・「ここには悪者は誰もいないと思うわ。
 私たちはただ意見が一致しない点もあるということよ」

 不当な批判や口汚い言葉には、対応してください。
 アサーティブな〔*注:相手の立場に配慮しながら、上手に自己主張すること〕非言語的態度を示しましょう。
 お説教はやめましょう。

・「私は自分のことを大切に思うから、あなたのそういう言葉は許せない」
・「君が罵るのを聞くことはできない。続けるなら僕は出ていくよ」
・(本人にも言い分があること,あなたにも言い分があることを認めてください。)
 「僕には君が○○と言っているように聞こえるよ。僕自身の考えは......」
 (この言い回しは特に有効です)
・(境界を言語化しておきましょう)
 「悪口を言っても何の解決にもならないわ。別のときに話し合う必要があるわ」
 (落ち着いているときに境界を設定しておき、再びこういうことが起きたら皆さんは部屋を出ていくと、本人に伝えておきます)

(次の記事に続く)


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

意図的なコミュニケーション(6)

 
(前の記事からの続き)

o遅らせ、気をそらせましょう
 相手の感情が高ぶっているとき、共感的な方法で展開を遅らせることができれば、BPDの人が衝動的になるのを抑えられるかもしれません。
 気をそらせるのは特に有効です。

・「あなたに精一杯の関心を注ぎたいの。でも今は待ってくれないかしら。
 (具体的な時間を提案します。数分でも効果的です)
 そのあとなら、あなたの話に耳を傾けられるわ」
・「このことについては、私も考える必要があるわ。だから今までのことを全てよく考えたいの」
・「君が今すぐ答を求めてるのは分かるよ。でも僕には考える時間が必要なんだ」
・(本人が見捨てられた気持ちにならないよう、二人ですることを提案してください)
 「あとで話をしよう。まずは散歩に行きましょうよ」など。
・「座って話をしないか。その前にコーヒーを入れさせてもらっていいかな」
・「いま思い出したわ。携帯の電源を切っておかなくちゃ/
 洗濯機にあなたのシャツを入れなくちゃ」
・「ちょっと待って。その間にトイレに行ってくるから」
 (緊迫感を表してください。そうすればBPDの人は無視されたように感じません)
・(何も思い付かない場合は)
 「ちょっと待ってね」
 (それからどこかへ行って、戻ってから言うべきことを考えてください)

oDEAR
 描写する(describe),表現する(express),主張する(assert),強化する(reinforce)の頭文字です。
 後述します。

(次の記事に続く)


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

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