2015年2月アーカイブ

  • 「学び/学ばれる関係」を作り上げるためのトレーニング

 これまではBPD当事者に対して家族が行うべき対応の基本について説明してきました。これからはBPD治療について説明していきます。まずはBPD当事者への治療的に関わる際の基本原則についてお話していきます。

1.「BPDを治療する」とは?

 深刻な社会的機能不全を改善することが目的の「精神療法

※「従来の精神療法」は症状の軽減や行動管理を扱うことが目的

 

2.「BPD治療の難しさ」とは?

 通常の対話の基礎となる「学び/学ばれる関係」関係成立が困難なことが原因

 

3.「学び/学ばれる関係」関係成立に必要なことは?

 BPD当事者と私たちの間にある「反応傾向(癖)の違い」やどのような仕組みで生じるのか、また、BPD治療には家族面接が必要不可欠である理由についても3つの視点から検討していきます。家族が治療的かかわりを積極的に持てるようになるにはどのようなプロセスが必要であるか次回詳しく説明します。


引用・参考文献:
「治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド」 黒田章史著 岩崎学術出版社 2014310

 

文責:吉本


トラウマとBPDの関連性

2月28日 白川美也子先生による講演会が開催されます。
白川先生の勉強会に参加して多くの学びと発見をすることができましたので
皆様に情報を共有させていただきたいと思います。

2月28日の定例会で詳しくお話をお聴きすることが出来ると思いますが、
非常に大切な心理教育となる「トラウマ」というテーマに引け目を感じてしまうご家族が多いので、
トラウマについて正しい理解をしてもらいたいという思いから、
白川先生の定例会が開催される前にジオログに少しだけ情報をお分ちできればと思います。

トラウマには単回性トラウマと慢性化した複雑性トラウマが存在することをご存知でしたか?

単回性トラウマと複雑性トラウマとはどう違うかといいますと、

「単回性トラウマ」とは
例えば
災害によるトラウマだとしたら
災害前の暮らしはとても平和で幸せに過ごしていたのに、
突然「日常とは違う異常な体験」します。
そして、その異常な状況を自分でもわかっています。
なので、「自分は決しておかしくない」
災害という起きた事態が異常であることを認識しています。
そして、
皆さんが良く耳にする「PTSD」というのは
ベトナム戦争がきっかけとなって診断として
確立したもので、戦争や大災害や事件や事故などの
トラウマによる後遺症のことを言います。

単回性トラウマの特徴は一度の異常な大きなトラウマを体験し
本人は異常な出来事を体験したことを認識しています。
なかにはトラウマが後遺症となってPTSDが発症します。
これが単回性トラウマです。

「複雑性トラウマ」とは
こども時代に養育者(もしくは社会から)繰り返し、繰り返し異常な体験として身体的、感情的な虐待を受ける。
虐待には身体的虐待とことばの虐待があります。
「おまえはダメな子」「いらない子」とののしられる。
父親が母親に暴力をふるうなどDVの目撃する(または夫婦が仲が悪い・よく喧嘩をしている姿を目撃することも含まれます)
衣食住をはじめ子どもが「必要」とする世話や関心が与えられない。
学校・会社でのいじめ。
もちろん、性的虐待は深刻で複雑なトラウマとなります。

こうした、幼いときに体験した(一度つらい出来事であっても)
「周囲にそのつらさを受けとめる環境が存在しなければ」
(辛さを体験していることに気づかないことも含まれます)
複雑性トラウマを受けたような症状になることがあるということです。

わけもなく被害を受けるという「異常な体験」=(辛いのに気づいてくれない・気づこうともしない)
が何度も何度も日常で繰り返され体験することで
虐待していない人に虐待されたと感じたり、
記憶が曖昧になってしまうのもこの複雑性トラウマの特徴のようです。

すると、自分がおかしいのか?
他の人がおかしいのか?
わからなくなり、自分や世界に対する考えが揺らいでしまったり、
身体や心にも、より深刻な影響を及ぼすと言われています。

複雑性トラウマは「異常が日常」=(気づかれない。気づいてくれない出来事が重なりそれが習慣になって)
繰り返し受け続けることで慢性化したトラウマとなってゆくそうです。
なので、原因が一つではないので原因が見つけづらく、治療が困難となります。

複雑性トラウマの影響は
「身体のすべてのシステムにおける調節の障害」として影響します。
感情・身体・人間関係・社会適応に関する調節の障害です。

感情が麻痺したり、ひどく高ぶったりして、高低の調整がきかなくなります。
(遊佐先生は感情の調節についてよく話して下さいます)
細かいことまであまりにも鮮明に覚えていたり、
時には大事なことをぽっかりと忘れてしまうなど、記憶のバランスがとれません。
よいか悪いか、白か黒(スプリティング)といったふうに、思考が極端に走りやすい。
落ち着かずにやたらに動き回ったり、固まって動けなくなったりと、
身体の動きのバランスがとれなくなったりして、あちこちがギクシャクしてしまいます。

そうして、自分というまとまりも、自分が生きている世界の見え方も、
バランスを欠いたものになってゆきます。
そのため、毎日がジェットコースターもしくは曲芸飛行のように
慢性化したトラウマの影響のもとで生きていると白川先生はおっしゃっています。


では、肝心のBPDとトラウマの関連性とは?
BPDは「複雑性トラウマ」と関連しているということでした。

しかし、

慢性化したトラウマの後遺症は、まだ診断規準として確立していないというのが事実です。
そのため、これまでの精神科医の見解では、「BPDとトラウマ」は関連が無いと言われてきました。
また、20年ぶりに改正されたDSM5もトラウマは診断基準から省かれています。
しかし、診断基準に無いからといって、トラウマの事実は無いということではないそうです。

トラウマが存在しないのではなく、DSM5では、複雑性トラウマの場合、いろんな病態がくっついてくるので
診断が付けづらいことや、治療が難航するという理由から基準から省かれたというのが事実のようです。
ですから、トラウマという事実は消すことはできないそうです。
大切なのは、トラウマに関する正しい理解を得るため心理教育を受ける必要があるということでした。

話しが少し脱線しますが、
家族会のアドバイザーである牛島定信先生の話しによると、
これまで精神治療は「各自の性質・人格的特徴も考慮に入れながら」診断を下し治療をしてきたそうです。
しかし、DSM3から、各自の性質を考慮する必要は無く、
○○の様な症状が出たら、○○病・○○障害と診断名をつけるシステムになってしまった・・・
人間はそんな単純な生き物ではないので、一人一人の性質を考慮した上で慎重に
診断名を下し、治療してゆくことが不可欠であるとおっしゃっていました。

さらに、
家族も繰り返し、繰り返し、慢性的に日常で異常な行動として
BPD当事者から責められ続けらることで
「家族も複雑性トラウマ」を発症しているケースがあるということでした。
そのため、家族も感情のコントロールが難しく、高低感情が出現したり、
恐怖で逃げ出したくなったり、身体が固まって動けなくなってしまったり、時には攻撃的になってしまい
家族も自分で自分の感情や行動を調節できなくなってしまうと遊佐先生や白川先生はおっしゃっています。

1990年(最近ですが)トラウマ研究の世界的権威者であるアメリカのヴァン・デア・コークが
DESNOS(デスノス)という診断基準の試案を発表しています。
それを見ると慢性化したトラウマが引き起こす状態を理解するのに役立ちます。
これらの症状を見ていくと、説明できないと言われていた境界性パーソナリティ障害(BPD)
解離性障害・身体表現性障害などの障害もDESNOSとして説明できると白川先生はおっしゃっていました。

こうした、BPDの病態の背後には慢性化したトラウマが存在していると説いています。

私自身これまで心理学を学んできていましたが、
「トラウマという概念を否定してきた」「トラウマという概念が好きではなかった」のです。
しかし、白川先生との出会いによって、
BPDの勉強会にトラウマに関する心理教育は欠かせないのではないかと強く感じるようになってきました。
ちゃんと向き合わないと、この苦しさは一生涯続くだろうし、
BPDに苦しむ患者さんや愛する家族と真剣に向き合うことを逃避してしまうことになると私は感じました。
逃げることは時にはいいのですが、けれど問題解決にはならないのです。

問題を解決しなければならないのか?
その問いに関しては「個人の選択になると思います」

私の場合、解決する道を選ぶことを決めたので、
BPDの障害に対応することの苦労に加え、
勉強する時間や体力や学習のためにお金を費やしたこともあり、
いろんなことにおいて苦労しました。

何故、私が「トラウマ」という概念を否定してきたのか・・・
受け入れることができなかったのか・・・
正直に自分に問いてみました。

1、虐待などなかったと信じたかったからです。
  単回性トラウマのような異常な出来事を姉は体験していないと思っていました。
  しかし、慢性化した複雑性トラウマについてはよく理解していませんでした。
  また、苦しい出来事はだれにでもあるので、本人の問題と思っていましたが、
  上記の記述にもあるように、「周囲に当事者の受ける辛さを受けとめる環境がない
  もしくは気づいてあげられない環境」は複雑性トラウマと似た症状が出るという話しには
  納得できる部分がありました。
  私の両親はとても仲がよく、こどもをとても可愛がってくれました。
  でも、母親がBPD性質だったので、気分屋で感情は非常に敏感で、叱る時の基準は母親の気分と価値観次第でした。
  ですから、BPDの姉や私も弟も母親に嫌われたくない、悲しませたくないと思い、必死に耐えていたと思います。
  父親は家族思いで、よく働き、すっごくまじめな人です。母もこどももとても大事にしていました。
  「うちの両親は仲がいいな〜」とこどもは感じていましたが、
  なんでもかんでも母親を優先してしまう父親に少し姉は不安と寂しさを感じていたようです。
  私や弟が姉と違っていたのは、両親に反抗もしましたし、自分の道は自分で決めることを宣言することができました。
  しかし、姉は反抗や自分のやりたいことを自分で決めることができないと
  家族皆が思い込んでいたので、家族で(弱い=決めつけ)姉を教えたり助けたりしていました。

  文書を読んでいると、ありふれた家庭で、いい両親なのに・・・そう感じますよね?
  確かにいい両親なんです。
  でも、複雑性トラウマと関連する部分は、「繰り返し、気分次第で叱る母親・必要な時に見方になってくれない父親」
  が繰り返されることがポイントとなります。こうした異常な出来事が繰り返されることで
  何が正しいことなのか?何が悪いことなのか?どこまで自分の意志を伝えたらいいのか?
  どこまで相手の意思を尊重すればいいのか?チンプンカンプン?になってしまうのだと思います。
  
  今も、両親は自分の言動に気づいていないのか?認めるとプライドが傷つくのか?
  私もいまだによく分らないです・・・(ひどく傷つきやすいわりには、マイペースです(笑))
  しかし、BPDの姉は寛解しているので両親は両親の考えや生き方を認めているので、両親を責めることはしません。
  今は、ひたすら自分の生き方を吟味しながら、両親を受け入れ生き抜いていますよ!
  
   ここで、スキルを応用すると・・・
   両親を受け入れながら生き抜いている姉の行動について家族はどのように受けとめるか?
   状況と姉の努力の程度によりますが、
  (えらい!=承認=遊佐先生の教える心理教育)(当たり前!=簡単に褒めない=黒田先生の教える心理教育)
   この時は、私は前半の承認スキルを応用しました。

2、トラウマという事実と向き合うことが私自身も怖かった。
  子どもの頃、姉は反抗することがなく、両親にも、私にも、弟にも完璧に優しく、思いやりのある姉でした。
  今もとても優しいです。しかし、ストレスがかかると時々チンプンカンプンになってしまいますが(笑)
  20代前半から30代後半まで姉はBPD症状が激しかったです。
  そのようにさせてしまったのは、私たちの責任なのではないか?姉に我慢ばかりさせてきたのではないか?と
  自責の念にかられました。なので、当時はトラウマを認めることは難しいと感じていました。
  今は、姉の言い分や辛さをちゃんと聞けてあげていなかった家族と自分の言動を(責めるのでなく)
  (認める)ことができたことで自分を解放することにつながり楽になりました。

3、事実を知ることに抵抗があった。
  自虐的な行為をする姉の行動は周囲を巻き込み、苦しめていると感じていたので
  姉を認めることがなかなかできませんでした。
  何故このようなことをするのか?
  原因を必死で追求していましたが、解決策を受け入れるということは
  姉の言動だけでなく、家族や私自身の言動の振り返りをする必要があったので、
  結果的に事実を知ることが辛いと感じ、トラウマという真実を受け入れることに抵抗があったように思います。
  また、両親を否定することになるのではないか?という思いがありスッゴク抵抗がありました。

  この3つの理由が「トラウマ」を受け入れることを難しくしていたのではないかと思うのです。

  BPD当事者の多くは「私は虐待されていた・・・」とよく口にします。
  ご家族もうんざりするぐらい、何度も何度も繰り返し、繰り返し、聞かされている方は多いと思います。

  本人すら、何が虐待なのかよく分っていないことがあります。
  しかし、虐待と関連する、「繰り返される異常な出来事」や「辛い気持ちを周囲が気づいてくれない」
  といった体験からくる感情が彼女や彼らを苦しめていることは確かです。

  その苦しみは何なのか・・・
  コントロールできずに苦しんでいる感情・行動・思考・対人関係・社会適応に障害をきたしているのであれば
  本人は生きづらさを感じるのも仕方がないことで、その辛さを少しでもやわらげるお手伝いができればと思っています。

  その辛さに気づくことで、家族も苦労し、苦しみます。 
  なかには、その母親も父親もトラウマを体験してきたかもしれません。

  複雑性トラウマは自分ではなかなか気づけないのです。

  だから、

  一人で頑張る必要はないのです。

  周囲に力を借りて、勇気を持って助けを求めてください。

  理解してくれない、大人、親族、上司、専門家もいることでしょう。

  理解してくれない人ばかりだから事実から目を背け、これ以上傷つかないように「逃げる」ことを
  
  選択する人も大勢いると思います。

  でも、理解してくれる人を捜すことを諦めないで・・・

  そして、あなたの見方になってくれる人を見つけて欲しいと白川先生はおっしゃっていました。

  私は、この言葉を聞いて「とても温かい気持ちになり、自分にも人にも優しくありたい」とそう思えたのです。


  私はトラウマを知ることは、恐怖ではなく、苦しみからの解放だと私は思えるようになれました・・・


  2015年 2月28日 白川美也子先生 の講演会&ワークショップのご参加を心よりお待ちしています。


  BPD家族会代表 奥野栄子

  

  

  
  


















このアーカイブについて

このページには、2015年2月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2015年1月です。

次のアーカイブは2015年3月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

home

家族会掲示板(ゲストプック)

家族会 お知らせ・その他

本のページ