2015年3月アーカイブ

 BPD当事者との治療的関わりで最も重要なのは「学び/学ばれる関係(レベル12)の循環運動」内部へ到達させるための介入を行うこと反復訓練)です。

「反応傾向(癖)」が同じでない当事者に対して言語的な働きかけを行うことは、現実的に不可能なことではありません。例えば、言語を習得する前の幼児に対して親が行う働きかけは基本的には言語的なものです。親は自分の言葉が幼児に理解されていると思って言葉がけをしているのではありません。幼児の周囲にある様々な物事に対する関わり方を、親が繰り返し示してみせるという訓練といってもよいでしょう。

幼児は名前を覚える遥か以前から、親の物事に対する働きかけを観察することで、どのように振る舞うべきなのかを、間接的に習得していることが明らかになっています。

例:「積み木」を「組み立て」て「遊び」ながら、親は「赤い」積み木を「ピンク色」の積み木とは区別すべきであることを教えること

 

 私たちと同じような「反応傾向(癖)」得るだけでなく、言葉との関連で体得することにもなります。幼児が自他の違いを明らかになってしまうプロセスに耐える力を身に付け、通常の対話関係「学び/学ばれる関係(レベル12)の循環運動」に行き着く過程も、このような形でなんとなく習得されるでしょうし、またそのようにしか習得できないと黒田先生は述べておられます。以下にBPD当事者と治療的関わりを持つための3つの注意点をまとめてみました。


  • BPD当事者と治療的関わりを持つための3つの注意点
  1. 通常の対話関係に基づいた洞察や理解を得させることを目標にするのではなく、通常の対話関係を、当事者との間成立させること自体を目標にすること
  2. BPD当事者の「反応傾向(癖)」を私たちと概ね似通ったものにするための介入が必要不可欠であること、BPD当事者の周囲にある様々なものに対する関わり方を、家族や治療者が言葉を用いて繰り返し示していくという反復訓練を行う必要があること
  3. 反復訓練は面接の中だけでは不十分なので家庭を含めた日常生活の中で繰り返される必要があること(その際には、治療者や家族が「反応傾向(癖)の適切さ」(私たちと同じように反応しているかどうか)を手とり足とり評価し、修正していくことが大切)

 

引用・参考文献:
「治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド」 黒田章史著 岩崎学術出版社 2014310

 

文責:吉本

BPD当事者と治療的関わりを持つうえで、治療者や家族が留意するべき注意

 BPD当事者との言語的コミュニケーションは治療上必要不可欠なのですが、BPD当事者に対して、他の精神疾患には有効な関わり方が予想外なマイナスの結果をもたらす危険を孕んでいます。私たちのコミュニケーションとBPD当事者のコミュニケーションの違いについてみていきましょう。

 

A:通常(私たち)のコミュニケーション(「学び/学ばれる」関係)

レベル1⇄レベル2

 

各レベルの説明は以下の通りです。

レベル1:相手から異論を挟まれることなく、その場の雰囲気を壊さず滑らかに流れていくレベル

レベル2:滑らかに行われているコミュニケーションに対して、微細な「つまずき」が生じたのをきっかけにして、相手の気持ちや考えを問いただしたり、自分の気持ちや考えを相手に伝えたりする必要に迫られるレベル

レベル0:コミュニケーションに微細な「つまずき」が生じたのをきっかけに、互いの「考えや気持ちの違い」が明らかになってしまうことを回避しようとするレベル

 

 上記を通じて相互理解がなされていくことを「学び/学ばれる関係」と呼びます。互いの「考えや気持ちに関する違い」を明らかにするためには、一つだけ必要不可欠な前提条件があります。それは、互いの反応傾向(コミュニケーションのつまずきが生じた際にどのように反応するか)に大きな違いがないことなのです。

反応傾向は癖のようなもので、BPD当事者のしぐさや行動様式だけでなく、特定の条件下で引き起こされる思考や発話のパターンなど全般を指しています。

 皆さんは「コミュニケーションに支障が出るほどに反応傾向が異なることなんてあるの?」と思われるかもしれません。しかし、これまでも説明したように、BPD当事者とのコミュニケーションでは「コミュニケーションのつまずきに対する互いの反応があまり異なっていない」という前提を疑ってかかる必要があるのです。

 

B: BPD当事者のコミュニケーション

レベル0⇄レベル1

 

上記Bの、BPD当事者のコミュニケーションの場合、自他の違いを明らかにして進むAと比較して、Bでは、自他の違いを明らかにすることを回避しています(レベル0の説明を参照)。


「なぜ「凡人」として語ることが必要なのか」でもふれましたが、BPD当事者が職場の喫煙禁止区域で何度も喫煙して上司に怒鳴られてしまった例のように、ルールの意味合いについて、「ルールを守るかどうかは自分で判断するもの」ということを上司に伝えたのであれば、「ルールは守るかどうか自分で決められないもの」という点を明らかにすることはできました。しかし、この当事者は自分がルールを守っているのに平謝りをしてこれからは規則を守ると約束してしまいました。その結果コミュニケーションのつまずきを明らかにする状況を回避することになったのです。

そもそもルールに対する認識が異なるため、上司は「当事者はルールを守らないし嘘をついた」と思うでしょうし、当事者としては「守るかどうかは決められない」ということを知り、自身の行動を変えていく絶好の機会を逃したことになるのです。

つまり、上司との間で怒鳴られる前からコミュニケーションのつまずき続いていたにも関わらず、「気持ちや考えの違い」を明らかにし、相互理解を深め、お互いの気持ちを変化させていくという、コミュニケーションレベル2のプロセスがほとんど動作しなかったことになるのです。この当事者は、上司との間で互いの「考えや気持ちの違い」を明らかになろうとすることを必死で回避してしまったのです。

 

 BPD当事者に対応するにあたってコミュニケーションレベル0について考慮することはとても重要な点です。以下にまとめてみました。

1.治療的な関わりでコミュニケーションしようとしても相互理解が深まらない(レベル0⇄レベル1

2.BPD当事者は考えや気持ちの違いが明らかになることを回避し続けるため、彼らの様々な反応傾向を明らかにすることができない

3.反応傾向が修正されないままだと様々なトラブルにつながる

例:ルールを変わった形で守る(言葉の意味のプロトタイプが間違っているため順守すればするほど問題に)

→上司にとってはルールを守らないように見えてしまう(当事者から反抗心や悪意と汲み取ってしまう)

 

治療者や家族が、BPD当事者とコミュニケーションをとる場合、以上のことに留意するよう黒田先生は述べておられます。

 

 

引用・参考文献:
「治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド」 黒田章史著 岩崎学術出版社 2014310


文責:吉本

 BPDを治療するとはどういうことなのかみていきましょう。


治療の初期段階ではケースマネジメントが必要・・・

※ここでいうケースマネジメントとはBPD患者の問題行動(自傷行為・自殺企図など)に対処することを指します


しかし、支柱となるのはケースマネジメントと異なる精神療法

  • 従来の精神療法」:

面接過程を通して「自分が元々持っていたものに気づく」プロセス

  • BPD治療のための精神療法」:

自分が元々持っていなかったものを新たに作り上げる」プロセス


 黒田先生はケースマネジメントを軽視しているのではなく、家族の協力のもとBPD患者の問題行動に対応することは有効であり必要不可欠であると述べています。しかし、そればかりに対応している治療では、BPD患者の社会的機能不全の改善は望めません。

ガンダーソン*1によれば、BPDに特化した治療法であるDBT(弁証法的行動療法)やMBT(メンタライゼーションに基づく治療)においても、社会的機能の改善には至っていないと指摘しています。そうしたことから、今後のBPD治療では、社会的機能の障害に取り組んでいく必要があるといえます。


*1マクリーン病院ボーダーラインセンターで臨床、実習、研究計画を行っている所長。ハーバード大学医学部精神医学教授。境界性パーソナリティ障害の概念構築に尽力



引用・参考文献:
「治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド」 黒田章史著 岩崎学術出版社 2014310

 

文責:吉本

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