2015年5月アーカイブ

 個人面接で、BPD患者と治療者の「反応傾向(癖)」の違いが明らかになった場合、どちらの「反応傾向(癖)」が適切なのか、誰がどのようにして決めるのかということが問題になります。後で説明しますが、個人面接のように1対1で考える関係では「反応傾向(癖)」の違いが明らかになったとしても、どちらの「反応傾向(癖)」が適切なのか決定できません。


例:面接の時間に遅れてきたり、ドタキャンしたりするBPD患者に治療者が「きちんと(=規則正しく)」通院するように注意する場合


問題点:患者がどのように振る舞えば「きちんと」通院したことになるか


患者の主張例:

・「雨が降ると気分が落ち込んで動けなくなるから」

・「何となく身体が怠かったから」

・「出かける前に母親が余計なことを言ったせいでトラブルになったから」

・「昨日の夜は眠れなくて寝坊してしまったから」

ポイント:このような突拍子もないことを言っていても、BPD当事者は嘘や言い逃れをしていることではないこと。


これらの主張は「きちんと」通院しようとしたときに、「雨が降ってきたこと」などが攪乱要因になり、遅刻やドタキャンをすることになるというBPD当事者の自然な「反応傾向(癖)」であると言えます。ですから、治療者が「このくらいの事情なら、きちんと通院しなきゃいけないよ」と注意した場合、このような自然な「反応傾向(癖)」を否定することになってしまいますので、BPD当事者が深く傷つき怒りだすこと結果に終わります。治療者と当事者が11で個人面接を行っている限り、このようなやりとりが平行線となりますので、いつまでも解決しません。それでは解決策はあるのでしょうか?

 

解決策どちらの「反応傾向(癖)」を持つ人物と一緒であれば、社会生活をまともに営むことができるか評価してくれる第三者が必要

このような不毛な対立を終わらせるためには、第三者に世間を代表するような立場で関わってもらう必要があります。

個人面接が問題になるのであれば集団療法ではどうか?と考える方がいるかもしれません。確かに治療グループ内で他の患者や治療スタッフと関わることで、BPD当事者の「反応傾向(癖)」の妥当性について評価できるかもしれません。しかし、公の場で他人から批判や評価を受けることは、BPD当事者にとってかなりのストレスになると考えられます。

このようなストレス下で、他人の話に傾聴し、治療グループからの離脱や行動化を起こすことなく治療グループに参加し続けるには、予めかなりの対人関係能力を有している必要があります。しかしながら、多くのBPD当事者は自宅に引きこもったり、家族が勧めても受診しようとしませんから、継続的に人工的共同体である治療グループに参加することは困難であると推測されます。

これらの理由から、BPD当事者の「反応傾向(癖)」の妥当性を評価する世間を代表するような第三者の役割を家族以外が担うことは困難であると黒田先生は述べています。



引用・参考文献:
「治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド」 黒田章史著 岩崎学術出版社 2014310

 

文責:吉本

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