2015年8月アーカイブ

BPDは回復・寛解するのか?

BPDは寛解するのか?
家族にとってこの質問は大きなテーマであり、
その答えに対する大きな期待と関心を持っています。

専門家の意見はまちまちなので当事者も家族も混乱します。

35歳・40歳を過ぎれば自然と「良くなる」とか「治る」という先生も
いらっしゃいます。
現に家族会の顧問のBPDの専門家の先生の間でも意見が異なりますから
・・・(苦笑)

しかし、BPDに関わる専門で現役の先生の意見や最新の情報では
やはり、BPDは「自然」に治ることは非常に難しいということでした。

8年前にBPDと診断され、姉を診てくださっている
主治医にも3日前に確認してきました。

「医師によって、BPDは35歳、40歳を過ぎたら、寛解ではなく
自然と治る(完治する)と聞きましたが、先生の見解を教えてくださいと
尋ねてみました」

BPDを研究している主治医の答えは、
昔の見解は、BPDは35歳を過ぎれば「自然とよくなる」と
言われてきたが、BPDはそう簡単に寛解することは難しく、
ましてや、治らないことはないけど、そう簡単に治ることは
なお難しいということでした。

治るというのは、歳とともに激しい衝動性や攻撃性は
(落ち着いてくる)ものの、根本的な部分はそう簡単には
治らない。現在も高齢者のBPDと診断されて受診している人は
当病院にもいるとおっしゃっていました。

普通、30代、40代ぐらいになれば人として
まるくなると言われているけれど、そのような考え方は
「一般化」し過ぎている。BPDにはあてはまらない。
考え方の癖・行動の修正はそう簡単には変わるものはなく、
ちゃんとした治療が必要であるということでした。
つまり、自然に治るという考え方は科学的な根拠が無いということでした。

また、仕事ができていれば「完治」といわれていますが、
当家族会でご相談される多くの家族のお話では
仕事はちゃんと果たしているものの、家に帰ると
暴言・暴力(青あざや骨折させるほどの暴力行為)器物損害など
日常茶飯事となっている当事者もいます。
家で大暴れしているのに、仕事ができていれば「完治」していると
いうのは不自然さを感じます。

私の姉もBPDと診断される前の8年間は
うつ病とか双極性うつ病と診断されてきましたが、
改善するどころか、ますます症状は悪化するばかりで
途方に暮れていました。

しかし、8年後、別の病院で「BPD」と診断されてから
病院から追放されてしまいました。
そこから、現在の主治医と巡り会いました。
BPDと診断されてから8年経ちますが、
その頃に比べれば表面的には「よくなっている」ように見えます。
しかし、BPDが抱える本質的な問題となっている(社会適応・対人関係)
の部分はまだまだ改善の途上です。
日々の指導とサポートがなければ入院手前までの状態に陥ります。
(そうならないための工夫を私は心がけています)

本人はとても「生きづらさ」を感じています。
しかし、家族や周囲はこう感じるかもしれません。
生きづらさを感じるのが人生であり、誰もが抱えている問題だと・・・
しかしこの考え方も実は「一般化」し過ぎだとDr.は言っています。

BPDの感じる生きづらさと、私たちが感じる生きづらさの
「度合い」が随分違いがあるということです。
もし、家族や友人や会社や学校で支障をきたすほど、
「あなた」も生きづらさを感じているようであれば、
もしかしたら、あなたも「治療が必要」なのかもしれませんので
一度病院で診てもらいご自身のメンタルをケアする必要があるのかも
しれません。

我が家は、毎日、対応スキルを意識しながら姉と関わり、
姉もスキルを使って対人関係を築く努力をしています。
一日一日、今日の出来事を振り返り、
姉と話し合い、改善点について話し合っています。

この8年間、姉も私自身もかなりの努力を積み重ねてきましたので
「自然に改善する」という考えは正直あり得ないだろうと感じていますし、
かりに「完治」しているのであれば、対応スキルを意識した会話や
毎日の反省会などという面倒くさい作業をすることも
無くなると思います。

生きていれば対人関係の問題は決して無くなくなりませんよね。
でも、人のサポートを頻繁に受けず(たまにはいいでしょう)
自分で自分のことが管理できる能力が定着してきたら、
そのときこそ「完治」となるのでしょうね。

私自身、医師ではありませんが、
カウンセラーとしてカウンセリングも提供していますが、
これまで大勢の方々と関わってきました。
カウンセリングをしていて感じることは、やはりBPDはそう簡単には
治らないということ・人のサポート無しでは改善ができないということ・
改善するには、かなりの期間継続的に勉強し、対応の工夫する
努力が当事者と家族双方に必要だと感じています。

現に、繰り返し上手くいかなくても、関わり続け、当事者にふさわしい
対応法を習得しているご家族は当事者との関係がかなり改善されている
のです。

現在70代の当事者を診ていますが、非常に激しい衝動性と攻撃性があります。その背後にある「見捨てられ不安・空虚感」に上手く対応する方法を
これまで、教えられず、知る機会も無く、
70年という年月を過ごしてこられた方です。

いつも私は彼女から「怒らすと怖い」といわれています(笑い)
しかし、20年の年月をかけて信頼関係を築いてきたので
30歳も年下の私に賢明に合わせてくれて
頑張っています(いつも死にたいと言っていますが(笑い))
私は彼女から勇気と希望をもらっています。
それは、70代でも学んでゆけば「改善」してゆけるのだということを
彼女の日々の努力と変化を見ていて感じています。

また、若い当事者の女性とも関わっていますが、
生きづらさを感じていながらも
病院は必要ないと感じていて、治療を受けていませんでした。
彼女は日々自分で改善するための工夫をしていましたが、
繰り返しカウンセリングを受けてゆくなかで、
自分一人では改善させることは無理だということが分ったと
気付いてくれたようで(凄い発見です!)専門家を紹介して欲しいと
自らお願いしてきました。彼女も長い間苦しんできたので
さらに寛解できることを心から願っています。

完治は難しくても、寛解を目指して
家族・当事者と今後も日々奮闘してゆきたいと思っています。

BPD家族会代表 奥野栄子

下記の研究資料を見つけました。
興味深い研究資料だったので掲載致します。

境界性パーソナリティ障害患者およびII軸障害対照患者における持続的な症状寛解・回復の達成および安定性:16年間の前方視的追跡研究

Attainment and Stability of Sustained Symptomatic Remission and Recovery Among Patients With Borderline Personality Disorder and Axis II Comparison Subjects: A 16-Year Prospective Follow-Up Study

Mary C. Zanarini, Ed.D., Frances R. Frankenburg, M.D., D. Bradford Reich, M.D., and Garrett Fitzmaurice, Sc.D.

目的
本研究では、境界性パーソナリティ障害患者を対象に、その他のパーソナリティ障害を有する患者と比較して、症状の寛解達成までに要する期間と、回復が2、4、6、8年間持続するまでに要する期間を検討した。またこれらの転帰の安定性も検討した。

方法
境界性パーソナリティ障害を有する入院患者290名とその他のII軸障害を有する対照患者72名を、一連の半構造化面接を用いて初回入院中に評価した。その後、2年ごとの追跡評価を8回行った。本研究に組み入れるための境界性パーソナリティ障害の診断基準としては、Revised Diagnostic Interview for BorderlinesとDSM-III-Rを双方とも満たすこととした。

結果
境界性パーソナリティ障害患者は、寛解または回復(症状の寛解と良好な社会的・職業的機能を含む)までに要する期間が、II軸障害対照患者と比較して有意に長かった。しかし、16年目の追跡評価までには、両群とも同様に高い寛解率を達成した(境界性パーソナリティ障害患者:78%~99%、II軸障害対照患者:97%~99%)。一方、回復の達成率は同様ではなかった(40%~60%対75%~85%)。対照的に、境界性パーソナリティ障害患者では、II軸障害対照患者と比較して、より早い時点において著しく高い割合で症状が再発し、回復状態ではなくなった(再発率:10%~36%対4%~7%、回復状態ではなくなった率:20%~44%対9%~28%)。

結論
本研究結果から、境界性パーソナリティ障害患者における持続的な症状の寛解は、持続的な回復よりも著しく高い割合で認められ、境界性パーソナリティ障害患者における持続的な寛解と回復の達成・維持は、その他の形態のパーソナリティ障害を有する患者と比較して、著しく困難であることが示唆される。

(Am J Psychiatry 2012; 169:476-483 監訳:昭和大学藤が丘病院 精神神経科 尾鷲登志美先生)







家族を傷つけないことの重要性

 うまく家族面接を始めれたとしても、家族をできるだけ傷つけないようにすることはとても重要なのです。

 

ポイント

  • 治療者が家族に向かって話しかける時には必ず敬語を使うこと
  • 家族を少しでも軽く見るような発言を控えること
  • 面接で家族を呼び捨てにすることや「この女」や「ババア」などと言うことを放置せず訂正していくこと

→「口が悪いのねぇ」「お母さんだよね?」などと訂正すること

  • BPD当事者の家族に対する非難するような発言を、家族を少しだけ庇うような形で介入すること

BPD当事者の発言内容を少しだけ丁寧に婉曲な表現にまとめ直してから、それを家族に確認するような方法で介入すること

上記のような介入は、治療者が家族の味方に付くことではありません。

自分自身が言い出したことであっても、自分の家族に対する批判を肯定されて、自分に自信がついて元気になったり、自己肯定感が増すことはまれです。傷つきやすいBPD当事者であれば尚更です。つまり、家族を少し庇うことは、患者自身を庇うことにも繋がるのです。また、他人は良い点も悪い点も持ち合わせていることを理解する手助け(治療的介入)にもなります。

 

原則:「BPD当事者が悪くいう人は、とりあえず少し庇え

 

家族が傷つかず、自尊心を保てるように配慮することは、今後説明していく介入法を、家族が治療者の指導のもと、自発性を維持しながら習得していくというプロセスを成功させるために必要なことなのです。もしこのような配慮がなければ、家族は自信を失ってしまったり、BPD当事者に侮られることで反復練習やトレーニングの場を、家族とともに作り上げることは難しくなるからです。

 

引用・参考文献:
「治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド」 黒田章史著 岩崎学術出版社 2014310

 

文責:吉本

家族面接の導入法

 家族面接を導入するといっても、家族全員の参加を必要とするものではありません。BPD治療にとって必要な反復練習やトレーニングを行うためのノウハウは、基本的に家族メンバーの何方か1人が中心になって習得すれば良いからです。もちろん、他の家族メンバーも中心メンバーがどのような介入を行っているかを大まかに理解しておくことが望ましいでしょう。治療者から介入方法や治療方針について説明を受けることも重要です。

 

家族面接を行う上での問題点と解決策

  • BPD当事者自身が家族面接を行うことに嫌悪する場合も少なくない(例:親が一緒にいると緊張する、親があまりにも酷いので面接が滅茶苦茶になる)

→治療者が「それなら親の滅茶苦茶なところをぜひ見ておきたい」「あなたが親の前でどれだけ不快になったり、緊張したりするかを見ておくことも大切」と説得すればそれ程難しくない

 

  • l 異性関係の問題や食べ吐きといったBPD当事者のプライバシーについて話すことが困難な場合

→面接途中でも家族に中座してもらうことは可能とBPD当事者に請け合うことで家族面接の導入が容易に可能

 

  • 上記以外のプライバシー上の問題を理由に、BPD当事者が家族面接の導入をためらう場合

→一先ず個人面接を家族面接と併用する(BPD治療の中核はあくまで家族面接を通した反復練習やトレーニングなので、できるだけ家族面接中心に治療を進めていくほうが安全)

 

  • BPD当事者が受診を拒否しているために、家族だけが相談に来ている場合

BPD当事者には繰り返し受診することを勧め、彼らに対して家族を通した治療介入を試みる(治療者がスーパーバイザーの役割を果たして家族の治療的介入技術が上達し、BPD当事者の症状が改善されるのなら当事者自身が面接に参加するようになりやすい)

 

BPD治療で重要なことは、「カウンセリング」や「家族関係の調節」ではなく、当事者自身が不足している様々な社会的能力を、家族の協力のもとに補っていくことである説明を、治療の最初の段階から明確に行うことはとても大切なのです。

 

引用・参考文献:
「治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド」 黒田章史著 岩崎学術出版社 2014310

 

文責:吉本

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