2015年10月アーカイブ

BPDの病因についてどのように説明するか

  BPDの病因は何か、BPDを発症する上で家族はどのくらい関わりがあるのか、家族や当事者に説明しておく必要があります。なぜなら、家族がBPDの治療に何らかの貢献ができるということは、当事者や家族に中々受け入れられにくいことだからです。当事者はよく両親に育て方が拙かったとか、親に虐待されたせいでこうなったなどと詰るのです。

また、家族の側でも、子供が精神疾患を発症したことが、自分たちが何か悪いことをしたに違いないという罪悪感を生んでしまうのです。ですから、「自分たちが育てた結果、こうなったのだから、自分たちに子供を治す手助けができるのか」と考えてしまうでしょう。

 

しかし、「BPD親原因説」は最近揺らぎつつあります。このことはBPD当事者と家族自身が認識しておく必要があります。確かに、BPDの発症には、遺伝的要因と環境要因が大きな影響を与えています。しかし、近年、この環境要因と言う言葉の意味が近年の行動遺伝学研究によって大きく書き換えられているのです。

 

従来の環境要因の意味:

「患者の生育環境は家族に共有される境環(家族構成員に共有され、家族を互いに似通ったものにするような環境)」

近年の環境要因の意味:

「家族に共有されない環境要因(家族構成員に共有されず、家族を互いに異なったものにする働きを持つような環境要因)」

 

ここで言う家族に共有されない環境要因とは、当事者の友人関係だけを意味するのではなく、家族が家庭内で経験する出来事であっても、家族環境の持つ意味や影響は、個々の家族メンバーによって異なるのです。

 

これらの研究で明らかになったこと

・族間でBPDの特徴が同じように表れている場合→遺伝的要因

・家族間でBPDの特徴が似通っていない場合→家族に共有されない環境要因

 

ですから、親の関わり方が子供に与える影響が、個々の家族メンバーと異なるのであれば、これらは「親の関わり方の特徴」言い換えれば親に原因があるとは言えないでしょう。

 では、よく当 事者から訴えられる心的外傷についても触れていきます。これまで虐待とメンタルヘルスの関係について、様々な研究がされてきましたが、こちらも従来の研究 結果ではどの程度一般化できるのか疑わしかったのです。しかし、最近の結果では意外な結果が得られたのです。

 

虐待が後の精神疾患の発症に及ぼす影響度について:

身体的虐待の場合→影響はわずか

性的虐待の場合→長期にわたりマイナスの影響が

 

性的虐待がなされた場合、そうでない場合と比べて、何らかの精神疾患に罹患する可能性が約2.4倍も上がるそうです。ですが、性的虐待の多くは家族以外の顔見知りである他人からなされるでしょうから、「BPD親原因説」を支持することはできないでしょう。

BPD当事者と家族に残された時間は思ったほど長くはありません。なぜならBPD当事者は様々な心理社会能力を獲得しなければならないからです。病気になる前の家族の関わりが拙かったとしても、家族は病因が自分たちなのかと悩む前に、治療者の指導のもと、目の前の子供が社会的能力を獲得できるように手助けしていくことが重要となります。

 

 引用・参考文献:
「治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド」 黒田章史著 岩崎学術出版社 2014310

 

文責:吉本

 

 「凡人」として「豊かな語り口」で語るという方法を、自宅で適用するのに治療者が家族に対してどのように指導すればよいか説明します。

なぜ指導が必要なのでしょう?これらの対応方法を自宅で実践することは案外難しいものだからです。豊かな語り口」で語るとは小さな子供に語り掛けるような語り方と言えば家族は理解しやすいかもしれません。しかし、家族が「凡人」としての立ち位置を保持するには、家族がこのような治療のやり方によく慣れておかなければならないのです。

 

例:母親と一緒に買い物に行った当事者が、電車の中にケーキを置き忘れて無くした

当事者:「無くなったものは仕方ないよ」

母親はどういうべきか?

母親(OK例):「こういう時には『仕方ない』じゃなくて、『申し訳ない』とか、『大ショック』とか、『ごめんなさい』って言うものよ」※子供にかたりかけるように優しく言うこと!


母親(NG例):「親に買ってもらったものを無くしてその態度はなに?」

「そうね、無くなったものは仕方ないよね」

 上記の例の場合、当時者は荷物持ちとして預かっていたにも関わらず、母親の買ったケーキを無くしているのです。それなのに「無くなったものは仕方ない」という言動は妙な言い方ではないでしょうか?

当事者が言葉を適切に使うことができているかどうか、家族は正面から検討していくことが重要となります。

 ですので、家族は母親のOK例のように、当事者自身の代わりに周囲の状況を観察して当事者自身の「変わった」言動を、その状況に適切な「普通の」言動に置換えていく介入が都度必要となるのです。

 

 他に注意する点は以下の通りです。

   家族はBPD当事者の「非凡好み」な議論に付き合わない

→家族は常に抽象度を下げる方向で応対していく

 TVを観た後や本を読んだ後に、家族に哲学的・文学的・政治的な議論をしかけてくることがありますが、当事者の話を一通り聞くのはよいとしても、深くうなずく必要はありません。家族はこういった話題を、子供でも分かるような世俗的で日常生活に関わるような話題に変えていくようにしましょう。なぜなら、当事者が軽視しがちな日常生活に目を向けさせることが、家族が「凡人」としての立ち位置を保持することになるためです。


   治療者が当事者だけでなく家族と電話相談する・電話診察に応じる

→当事者の状況や言動を普通なのか否か検討する場合に、家族はどの程度そのことをとりあげるべきか家族が治療者に相談することは治療上プラス

 治療者が当事者からだけでなく、家族からの電話相談・診察に積極的に応じることは治療上たいへん有益です。ただし、当事者や家族の悩み事に相談に乗るのではなく、当事者の置かれた状況や文脈を評価検討することが目的であるのです。こうした相談は診察の合間や着信記録をもとに夜間や休診日に折り返し電話をかける方法で対応します。もちろん、返事が半日後になることも珍しくありません。なぜなら治療者も即時対応が不可能な場合も多々あるからです。家族が治療者と少しでもつながっているということは、家族が「凡人」としての立ち位置を保持するためにプラスの影響があることを期待できるのです。

 

 

 引用・参考文献:
「治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド」 黒田章史著 岩崎学術出版社 2014310

 

文責:吉本

 

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