BPDの病因は何か、BPDを発症する上で家族はどのくらい関わりがあるのか、家族や当事者に説明しておく必要があります。なぜなら、家族がBPDの治療に何らかの貢献ができるということは、当事者や家族に中々受け入れられにくいことだからです。当事者はよく両親に育て方が拙かったとか、親に虐待されたせいでこうなったなどと詰るのです。
また、家族の側でも、子供が精神疾患を発症したことが、自分たちが何か悪いことをしたに違いないという罪悪感を生んでしまうのです。ですから、「自分たちが育てた結果、こうなったのだから、自分たちに子供を治す手助けができるのか」と考えてしまうでしょう。
しかし、「BPD親原因説」は最近揺らぎつつあります。このことはBPD当事者と家族自身が認識しておく必要があります。確かに、BPDの発症には、遺伝的要因と環境要因が大きな影響を与えています。しかし、近年、この環境要因と言う言葉の意味が近年の行動遺伝学研究によって大きく書き換えられているのです。
従来の環境要因の意味:
「患者の生育環境は家族に共有される境環(家族構成員に共有され、家族を互いに似通ったものにするような環境)」
近年の環境要因の意味:
「家族に共有されない環境要因(家族構成員に共有されず、家族を互いに異なったものにする働きを持つような環境要因)」
ここで言う家族に共有されない環境要因とは、当事者の友人関係だけを意味するのではなく、家族が家庭内で経験する出来事であっても、家族環境の持つ意味や影響は、個々の家族メンバーによって異なるのです。
これらの研究で明らかになったこと
・族間でBPDの特徴が同じように表れている場合→遺伝的要因
・家族間でBPDの特徴が似通っていない場合→家族に共有されない環境要因
ですから、親の関わり方が子供に与える影響が、個々の家族メンバーと異なるのであれば、これらは「親の関わり方の特徴」言い換えれば親に原因があるとは言えないでしょう。
では、よく当 事者から訴えられる心的外傷についても触れていきます。これまで虐待とメンタルヘルスの関係について、様々な研究がされてきましたが、こちらも従来の研究 結果ではどの程度一般化できるのか疑わしかったのです。しかし、最近の結果では意外な結果が得られたのです。
虐待が後の精神疾患の発症に及ぼす影響度について:
・身体的虐待の場合→影響はわずか
・性的虐待の場合→長期にわたりマイナスの影響が
性的虐待がなされた場合、そうでない場合と比べて、何らかの精神疾患に罹患する可能性が約2.4倍も上がるそうです。ですが、性的虐待の多くは家族以外の顔見知りである他人からなされるでしょうから、「BPD親原因説」を支持することはできないでしょう。
BPD当事者と家族に残された時間は思ったほど長くはありません。なぜならBPD当事者は様々な心理社会能力を獲得しなければならないからです。病気になる前の家族の関わりが拙かったとしても、家族は病因が自分たちなのかと悩む前に、治療者の指導のもと、目の前の子供が社会的能力を獲得できるように手助けしていくことが重要となります。
引用・参考文献:
「治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド」 黒田章史著 岩崎学術出版社 2014年3月10日
文責:吉本