BPD治療の見通しについて説明することには以下のようなメリットがあります。
- 家族の協力のもとに適切な治療を行えば時間はかかるが直りが良いこと
- 大変な症状*は半年から一年ほどで落ち着いてくること
*大変な症状とは自傷・暴力行為、情緒不安定性、易怒性を指す
しかし、これらは治療にとっての準備段階にすぎません。
より重要なことは・・・
- 当事者の対人関係能力を向上させること
- 「反応傾向(癖)」を概ね私たちに同じように設定し直すこと
- 「言葉の意味のプロトタイプ(典型例)」を、常識的なものへ設定し直すこと
上記は当事者の社会的能力を向上させるために必要な治療プロセスもあります。また適切な治療を続けることで3~4年で大幅な改善を期待できるのです。
そして、治療経過は螺旋階段のような経過をたどることも当事者や家族に説明しておくことです。
パターン例:
1. 軽快(当事者)→安心(家族)→通常の対応(家族)→憎悪(当事者)
2. 意欲増加(当事者)→新しいことに挑戦(当事者)→うまくいかない(当事者)→憎悪(当事者)
上記の例のように当事者の軽快が、憎悪の引き金になることはよくあることなのです。しかし、一見後退しているように見えても、状況は少しずつ改善さていくという見込みは当事者や家族に伝えることで、治療経過中に過剰に失望させることの予防にもなるのです。
また、BPD当事者の対人関係による過敏さや変化に適応する弱さなどの特徴は、経過とともに弱まりますが、ある程度は残るであろうことも、当事者を過剰に失望させないように予め話しておくとよいでしょう。
加えて、BPD当事者の強い依存傾向や退行現象への対処法について、いくつか説明しておくことも忘れてはなりません。社会的機能が長期間大きく妨げられることがBPDの特徴の一つですからやむを得ない面でもあります。しかし、家族にべったりと依存し、依存している自覚が余りないまま、激しい非難や攻撃を加えるような支配的依存あるいは依存的支配ということになる場合も少なくありません。
他者に依存するには作法があること、それらを無視して依存しようとしても失敗すること、逆に、他者に「これなら依存させてもいい」と思わせるために、当事者自身が努力する必要があることを家族面接のなかで説明しておくことは重要なことなのです。
「依存」という言葉に抵抗を感じる当事者もいますが、必要な時 に他者にきちんとした作法で依存できる能力は、人が自立するための重要な能力の一つであることを説明しても良いでしょう。その上で、家族に対して、当事者
が「素直で可愛らしい依存」を示したのなら、ポジティブな反応を、「支配的依存あるいは依存的支配」ならネガティブな反応を与えるように指導していくことになると黒田先生はおっしゃっています。
引用・参考文献:
「治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド」 黒田章史著 岩崎学術出版社 2014年3月10日
文責:吉本