2016年4月アーカイブ

パーソナリティ障害類型

DSM--TRに基づくパーソナリティ障害

A群(奇妙で風変わりな考え方や行動を特徴とする)

・妄想性パーソナリティ障害

他人に対する不信感・猜疑心が強く、自らの正当性を主張するために、攻撃的になったり好訴的になったりする。自己中心的で協調性が乏しい

・スキゾイドパーソナリティ障害

孤独を好み、他人への関心が薄い。感情表現が乏しく、冷淡な印象を与えやすい。手先が器用で、芸術的な表現力に秀でている面もある

・スキゾタイパル(統合失調型)・パーソナリティ障害

非社交的で、奇妙な考えや異常な身体感覚、関係妄想などを抱きやすく、常軌を逸した言動をとることがある

B群(感情的かつ衝動的で周囲を巻き込みやすい)

・反社会性パーソナリティ障害

反社会的な行為(犯罪や詐欺など)をとりつつ、罪悪感や良心の呵責を抱かず、不誠実で冷酷である。アルコール依存・薬物依存を合併しやすい

・境界性パーソナリティ障害

感情や対人関係が不安定である。依存対象に見捨てられたと感じると、自傷行為や過食、浪費などの衝動行為に走りやすい

・演技性パーソナリティ障害

異性の注目を得ようと、派手な服装や演技的言動を示し、よく三角関係などの異性問題を引きおこす

・自己愛性パーソナリティ障害

自己の誇大感、他者の評価に対する過敏さ、他者に対する共感性のなさが特徴といえる。他者の批判や無関心に対して、激しい怒りや抑うつを示すことがある

C群(不安や恐怖心が強く内向的)

・回避性パーソナリティ障害

親密な対人関係を望みながら、他者の批判や拒絶を恐れるあまり、社会参加が困難になりがちである。対人緊張症、不登校、ひきこもりなどとも重なる

・依存性パーソナリティ障害

他者への過度の依存があり、対象に服従的で、自ら社会的責任を負わない。依存の対象を迎合し、反社会的な行動をとることがある。

・強迫性パーソナリティ障害

過度に几帳面で、秩序を重んじる。完全主義で細部にこだわり、融通が利かない。他者にも規則性を押しつけ、支配的に振る舞うことがある

 

DSM--TRにはない、注目すべきパーソナリティ障害

・サイクロイド・パーソナリティ障害

元来、明朗快活だが、活動過多や思い入れの強さが人一倍ある傾向のため、心身が疲弊しやすく、うつ状態になりやすい。精神の不安定さから、些細なことで怒りを突出させることもある

・サイクロタイパル・パーソナリティ障害

サイクロイド・パーソナリティ障害と同じパーソナリティ(明朗・活動的・社交的)を素地にもっていながら、別人のような性格を現す。引きこもり、衝動行為(自傷行為や家庭内暴力など)を起こしやすい

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

昔からあった障害か?(前回の続き)

 境界性と自己愛性の登場

 1950年代になると、これまでにないパーソナリティ障害の概念が登場しました。それは、神経病(ノイローゼや自立神経失調症など)と精神病(統合失調症)の中間に存在するような症状が見られることから、そのような人たちをボーダーライン(境界例)と呼びました。ボーダーラインの患者さんは、精神科医の治療を受けているときに衝動行為を起こしたり、激しい精神症状をみせたりして治療者を振り回し、治療状況を混乱させることが頻繁にありました。

こうした人たちをアメリカの精神分析家であるカーンバーグは境界性パーソナリティ構造と呼びました。この構造論は、DSM--TRの診断基準をよく説明しているといえます。一方、同じくアメリカの精神分析家であるコフートは、控えめな人でも内に誇大的な自己を持っていることを見出して、これを自己愛性パーソナリティ障害と呼びました。このことにより、自己愛性パーソナリティ障害の概念が大きく広がることになったのです。

 これらのパーソナリティ障害は、神経症水準のパーソナリティ(ヒステリー性格や強迫性性格など)と、精神病水準のパーソナリティ(循環病質や失調病質など)の中間に位置し、境界水準のパーソナリティと呼ばれています。

 

治療の対象として捉える

 これまで説明してきたように、昔からパーソナリティに関わる障害という疑念はありましたが、パーソナリティ障害の人格構造が解明され、その診断名が医療現場に定着し、治療の対象になったのは1980年代に入ってからのことです。

1980年に、アメリカ精神医学会がDSM-Ⅲ(精神疾患の診断・統計のマニュアル第3版) を作成し、ここで初めて「パーソナリティ障害」という診断名が登場したのです。ここでは、パーソナリティ障害の全般的な診断基準を示し、更に個々の症状からなる10種類のパターンに分類しています。そして、パーソナリティ障害は、従来の精神疾患から独立した1つの障害と認められました。また、生得的なものと考えられていたパーソナリティの障害も、対応の仕方により、治療可能なものであると捉えられるようになりました。

 

時代と共に変化する

 現在診療現場では、DSM-Ⅲの後継であるDSM--TR*が普及しています。しかし、牛島先生によると、「日々患者さんと接していると、パーソナリティ障害の患者さんの病態が、時と共に少しずつ変化しているように思えます。患者さんの傾向は10年前、20年前と比べて変わってきているのです。また、診断基準にある10種類のパーソナリティ障害のどれにも該当しないタイプの人がいることは以前から知られていますが、時代の変遷に伴って、新たに追加した方がよいパーソナリティ障害があるように思えます。それはうつ病や躁鬱病の基礎にある病前性格です。」とおっしゃっています。

 次回では時代の変化と共に追加した方がよいパーソナリティ障害も含めて説明していきます。

*2016年現在、DSM-Ⅴが医療現場では用いられています

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

昔からあった障害か?

昔から、多くの研究者によって、パーソナリティの異常について独自の分類がなされてきました。ですが、障害の1つとして認知され、治療対象であると判断されたのは、1980年代以降からです。


病気と正常の中間状態

 「パーソナリティ(性格)の異常」という概念は古くから存在しましたが、19世紀末までは、「反社会的または不道徳な考えや行動がみられる人の気質や性格」として、限定的に用いられることがほとんどでした。

20世紀になると、ドイツの医師クレペリンが、「精神病質人格」のカテゴリーをつくりました。反社会的または不道徳な考えや行動がみられる人々を「病気と正常の中間にある病態」と位置づけました。彼は、精神病質を「通常の心理状態から異常な精神病と移行する途中段階にある」としました。

 更に、人格分類の研究に功績を残したシュナイダーは、「精神病質」を「その人格の為に自ら悩むか、またはその異常性故に社会が悩むような異常性格者」と定義しました。

 シュナイダーは、パーソナリティの偏りのある人たちを以下のように分類しました(全10のパターンがありますが、こちらでは割愛します)。

  • 発揚型→快活で楽天的だが、軽薄で思慮が浅い
  • 抑うつ型→悲観的で、自己否定的
  • 顕示型→自己顕示欲が強く、感情的でヒステリック

シュナイダーの分類は、現在のパーソナリティ障害の土台にもなっているのです。

 

病前性格という捉え方

 1920年代に、ドイツの精神科医クレッチマーは、当時の3大精神病である躁うつ病・統合失調症・てんかんの患者を詳細に観察し、彼らの基本的な体型と、それぞれの体型にみられやすい病前性格に分類しました。病前性格とは、病気といえないが、病気に移行する段階にあるパーソナリティのことです。具体的には以下の3つです。

肥満型

社交的で明るいが、些細なことで落ち込みやすい性格=循環病質(躁うつ病の病前性格)

細長型

孤独を好み、他人に無関心だが、傷つきやすい性格=失調病質(統合失調症の病前性格)

闘士型

仕事や課題を精力的にこなし、粘り強さも併せ持つ性格=てんかん病質(てんかんの病前性格と考えられたが、後に誤りであると判明)

これらクレッチマーの分類も、現在のパーソナリティ障害との関連は深いといえます

次回からは、境界性及び自己愛性の登場について触れていきます。

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

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