2016年7月アーカイブ

注目すべきパーソナリティ障害

 従来のパーソナリティ障害に加えて、最近循環病質を基にしたパーソナリティが目立ってきています。基本的には社交的・活動的なタイプなのですが、気分変動が起こりやすい特徴を持っています。

 

見過ごされてきた障害

 循環病質とは、ドイツの精神科医クレッチマーが1920年代に提唱した病前性格の一つなのです。社交的で明るく、ユーモアがあり親しみやすい性格であるのに、人間関係でトラブルが生じると些細なことで落ち込んだり、イライラしたりする傾向があります。クレッチマーは、循環病質を躁うつ病に進展しやすい性格(躁うつ病の病前性格)と位置付けたのです。しかし、循環病質に対して、その後の精神科領域では注目されることはなかったのです。アメリカ精神医学会やWHO(世界保健機関)が作成した診断基準や疾病分類でも循環病質は障害としても疾患としても取り上げられていません。パーソナリティ障害の分類にも循環病質のパーソナリティは含まれていないのが実情です。

 循環病質から移行しやすいといわれている躁うつ病に対しても、一時期、患者の存在が目立たなくなったのです。社会変容の過程でストレスが原因で発症しやすい大うつ病(気分が沈み、関心や意欲が低下するタイプのうつ病)の患者が増加し始めたため、大うつ病患者が極端に取り上げられるようになったのです。このことから、うつ病といえば大うつ病のことを指すことが一般化され、躁うつ病はあまり注目されなくなったのです。

 

循環病質を基にした2つのパーソナリティ障害

 しかしながら、最近、循環病質を基にしたパーソナリティを持つ人が、社会生活でつまずいたり、トラブルになったりする事例を見かけるようになったのです。

 こういった人々を適切に治療せずに放置しておくと、症状が悪化し、社会でのトラブルや摩擦が大きくなり、生活や人生を破綻させたり、躁うつ病に進展してしまう恐れがあります。

 こういった現状から、循環病質=サイクロイドを基盤にしながら、人格形成が未熟なパーソナリティをパーソナリティ障害の一つに含め、サイクロイド・パーソナリティ障害と呼ぶことにします。サイクロイドの傾向のある人に対して症状が進行していない初期段階に適切な治療や支援を行うべきだと牛島先生は述べています。

 また、循環病質を基に、社会との接触を失ったような障害を持った人も見受けられます。これをサイクロタイパル・パーソナリティ障害(循環病質型パーソナリティ障害)と呼んで、それぞれパーソナリティ障害に位置付けています。

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

グループ3-C群の診断基準

1)回避性パーソナリティ障害の診断基準

社会的制止、不全感、および否定的評価に対する過敏性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。

1.   批判、否認、または拒絶に対する恐怖のために、重要な対人接触のある職業的活動を避ける。

2.   好かれていると確信できなければ、人との関係を持ちたいと思わない。

3.   恥をかかされること、または馬鹿にされることを恐れるために、親密な関係の中でも遠慮を示す。

4.   社会的な状況では、批判されること、または拒絶されることに心がとらわれている。

5.   不全感のために、新しい対人関係状況で制止が起こる。

6.   自分は社会的に不適切である、人間として長所がない、または他の人より劣っていると思っている。

7.   恥ずかしいことになるかもしれないという理由で、個人的な危険をおかすこと、または何か新しい活動にとりかかることに、異常なほど引っ込み思案である。

 

2)依存性パーソナリティ障害の診断基準

 面倒をみてもらいたいという広範で過剰な欲求があり、そのために従属的でしがみつく行動をとり、分離に対する不安がある。成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。

1.   日常のことを決めるにも、他の人達からの有り余る程の助言や保証がなければできない。

2.   自分の生活のほとんどの主要な領域で、他人に責任をとってもらうことを必要とする。

3.   支持または是認を失うことを恐れるために、他人の意見に反対を表明することが困難である。

※懲罰に対する現実的な恐怖は含めないこと

4.   自分自身の考えで計画を始めたり、または物事を行うことが困難である(動機または気力が欠如しているというより、むしろ判断または能力に自身が無いためである)。

5.   他人からの愛育及び支持を得るために、不安なことまで自分から進んでするほどやりすぎてしまう。

6.  自分の面倒をみることができないという誇張された恐怖のために、1人になると不安、または無気力を感じる。

7.   1つの親密な関係が終わったときに、自分を世話し支えてくれる基になる別の関係を必死で求める。

 8.    自分が1人残されて、自分で自分の面倒をみることになるという恐怖に、非現実的なまでにとらわれる。

 

3)強迫性パーソナリティ障害の診断基準

 秩序、完全主義、精神及び対人関係の統一性にとらわれ、柔軟性、開放性、効率性が犠牲にされる広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。

1.   活動の主要点が見失われるまでに、細目、規則、一覧表、順序、構成、または予定表にとらわれる。

2.   課題の達成を妨げるような完全主義を示す(例:自分自身の過度に厳密な基準が満たされないという理由で、1つの計画を完成させることができない)。

3.   娯楽や友人関係を犠牲にしてまで仕事と生産性に過剰にのめりこむ(明白な経済的必要性では説明できない)。

4.   道徳、倫理、または価値観についての事柄に、過度に誠実で良心的かつ融通がきかない(文化的または宗教的同一化では説明されない)。

5.   感傷的な意味のない物の場合でも、使い古した、または価値のない物を捨てることができない。

6.  他人が自分やるやり方通りに従わない限り、仕事を任せることができない、または一緒に仕事をすることができない。

7.   自分のためにも他人のためにも、けちなお金の使い方をする。お金は将来の破局に備えて蓄えておくべきものと思っている。

 8.   堅苦しさと頑固さを示す。

出典:アメリカ精神医学会『DSM - - TR精神疾患の分類と診断の手引き 新訂版』(高橋三郎、大野裕、染谷俊幸:訳、医学書院、2010より抜粋、一部改変)

   2016年現在DSM-Ⅴが最新版となります

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

このアーカイブについて

このページには、2016年7月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2016年6月です。

次のアーカイブは2016年8月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

home

家族会掲示板(ゲストプック)

家族会 お知らせ・その他

本のページ