2017年1月アーカイブ

パーソナリティ障害の治療

 患者さんに、自身のパーソナリティに気づいてもらうことは治療の第一歩です。患者さんの状態に合わせて、個人精神療法、集団精神療法、薬物療法などを組み合わせて治療していきます。

 

パーソナリティを自覚する

 医療機関を受診されるパーソナリティ障害の患者さんのほとんどは、自身のパーソナリティに偏りが有るとは思っていないのです。心身の異常や社会生活の不便を訴えながらも、それが自分のパーソナリティに原因があるとは思いもよらないのでしょう。

このような患者さんには、自身のパーソナリティを客観的に評価し、理解してもらうことが必要不可欠です。

しかし、自身のパーソナリティを正しく理解してもらうことは、意外と難しいのです。医師と面接を重ねたり、家族などとの人間関係を通じて、自身の問題に気づいてもらうなどして、徐々にパーソナリティの偏りを自覚してもらうように導くのです。

 

複数の療法を組み合わせる

 パーソナリティ障害の治療法には、個人精神療法、集団精神療法、薬物療法、認知行動療法(CBT)などがあります。個々の患者さんの状態に合わせて、夫々に適した治療法をいくつか組み合わせて実施します。

 薬物療法は対症療法であり、患者さんの苦痛を一時的に和らげるために用いられます。根本的な治療法ではありませんが、即効性があります。

 他方、個人精神療法や集団精神療法は、患者さんの根本的な問題を解決するための治療法です。しかし、これらの治療法には即効性はなく、時間がかかります。

他に、反社会性パーソナリティ障害などで、犯罪に手を染めたり、非人道的な行動を取ってしまった場合には、矯正施設などにおける治療(司法臨床)が必要になります。患者さんに自殺やOD(過量服薬)の危険があるとき、患者さん自身や家族が疲労困憊し休息が必要な場合、一時的に入院が必要な場合もあります。

 

患者自身が治療意欲をもつ

治療に必要なことは、患者さん自身が治りたい・治したいという意欲なのです。パーソナリティ障害の患者さんの中には依存性が強い人が多く、「医師が何とかしていくれるだろう」と頼り切ってしまう人もいます。しかし、他力本願では治療は進められません。自身の問題に気づき、それを改善することで他者と上手くコミュニケーションをとり、社会生活が送れるように努力しようとする姿勢が必要不可欠なのです。

ですから、治療の主役は患者さんであり、医師は脇役という治療関係が大切になります。医師が「ああしましょう、こうしましょう」と主導するのではなく、患者さんのこうなりたいという目標を医師がサポートする形が望ましいといえます。このことは患者さんだけでなく、家族も心得ておく必要があるポイントなのです。

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

合併診断は慎重に

例:自己愛性パーソナリティ障害、不安障害、うつ病、妄想性障害の疑いのある患者さんの場合

合併診断を並列的に診ると...

どの障害が患者さんの本質的な障害なのか分からない

→効果的な治療につながらない

自己愛性パーソナリティ障害+合併障害と考える

 

合併している障害は...

不安障害

うつ病

妄想性障害

別のパーソナリティ障害

 

根本となっている障害と、あとから合併した障害を見極める

患者さんの問題が明確になる

根本的な治療につながる



診断基準は万全ではない

患者さんの状態が、DSMなどのパーソナリティ障害の診断基準に当てはまれば、基本的に診断をつけることはできますが、診断基準は絶対的なものではないことを念頭に置くことは大切です。パーソナリティ障害そのものが十分に研究・理解が進んでいるとはいえませんから、診断基準も発展途上であるのです。

医師にはマニュアルに当てはめるのではなく、患者さんの本質をしっかり見極める姿勢が求められるのです。

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

パーソナリティ障害どうしの重なり

 パーソナリティ障害同士も近縁性があるため、鑑別が困難になることがよくおこります。また、一つのパーソナリティ障害が基になり、別のパーソナリティ障害を合併する場合もあります。

 

見分けがつきにくい

 パーソナリティ障害はいくつかのタイプに分類されていますが、現実の患者さんは、個々のパーソナリティの特徴を明確にしている人ばかりではありません。典型例といえるような人もいますが、幾つかのパーソナリティの傾向を持ち合わせている人もいて、どのパーソナリティ障害か見極めることが困難なケースも少なくありません。


パーソナリティ障害の重なり

 パーソナリティ障害の中には重複しやすいタイプがあります。例えば、境界性パーソナリティ障害は、演技性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害が重なりやすいといわれています。対人関係に支障をきたす・自己中心的な考え方をする・反社会的な行動をとるなどの共通した特徴があります。

 また、自己愛性パーソナリティ障害のうち、尊大さを表面的にみせない潜在的なタイプの人は、自己評価が低く、社会参加に消極的といった点で回避性パーソナリティ障害に重なることもあります。

 これ以外にも、自己愛性パーソナリティ障害と強迫性パーソナリティ障害が重複することも指摘されています。

 

根本を捉えた治療を

 このように、パーソナリティ障害の中には、特徴が似ていて鑑別が困難なものや、合併して症状が現れるものもあります。いずれの場合も、患者さんの表面的な性格や行動に振り回され過ぎないことが重要となります。

 パーソナリティ障害の診断を実施する目的は、患者さんの問題を明らかにし、適切な治療に繋げることなのです。患者さんの特徴を表面的に捉え、診断基準に合致するからといって、機械的に診断する方法だと問題の本質は見えてきません。

 複数の診断基準を満たす患者さんでも、根本的なパーソナリティが何なのか、どのような介入や経過があって別のパーソナリティが現れたのかしっかり見極めたうえで、治療方針を定める必要があるのです。

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

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