2017年5月アーカイブ

 境界性パーソナリティ障害③―接し方のポイントの続きです。

 

密着しない関係を

 境界性パーソナリティ障害の方は、自分に一体になってくれる相手(依存できる相手)を常に求めています。家族や職場の人たちは、そのような密着しすぎた関係にならないように注意する必要があります。

 信頼されることは受け入れますが、過度な依存は受け入れられないという態度を示すことが重要です。

 家庭でもある程度距離をおいて本人と向き合う姿勢が求められます。

 

つらさから抜け出してもよい

 本人が、自傷や暴力などの手段を使って相手を自分の思い通りに動かそうとする場合、本人自身が心理的困難を抱えている状態であることを理解してあげる必要があります。

例えば、アルバイトに行くようになった、資格取得のために専門学校に通うようになった場合、前進ととれる行動が見られたとしても、現実にはそこでの適応がうまくいっていないのです。このような場合、困ったときの相談に応じることも大切ですが、「辛いなら辞めてもいいんだよ」と言ってあげるだけの度量も必要になります。

逆に、「もうちょっと我慢すると達成できるからがんばろう」と励ますと、患者さんの考えを操作してしまう恐れあるため危険です。

 

小さなことでも褒める

 境界性パーソナリティ障害の方は、上手くできた行動などについて、その都度褒めてあげるとよいでしょう。例えば、近隣での社会活動やボランティア活動に参加したときに、周囲から見てよくできたと感じたことがあれば、言葉に出して褒めましょう。 

  認められた、評価されたということが、本人自身の気持ちを安心させ、周囲の人への理不尽な要求の防止に役に立ちます。

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

 患者さんの激しい衝動行為や対人操作に振り回されないことが肝要です。同時に、患者さんを不安に陥れないよう、周囲の人は、常に同じ態度で付き合うようにします。

 

ペースに巻き込まれない

 境界性パーソナリティ障害の方は、気分の浮き沈みが激しく、自他に対する評価も、天まで昇ったかと思うと、次の瞬間には地に落ちるといった具合に気持ちの揺れ幅が大きい特徴があります。こうした状態に周囲の人は過度に同調したり、逆に強く批判したりしがちですが、一歩引いた位置で冷静に構え、患者さんの一挙一動に振り回されないようにすることが肝要なのです。

 境界性パーソナリティ障害の方は、見捨てられ不安を防衛する目的で相手を操作したり、衝動的な行動をとって驚かせたりします。家族や職場の人が、そうした意図に乗せられてしまうと、それを人心術(人の心を動かす術)と心得て、癖のように同じ手を何度も使うようになります。

 そうしたとき、周囲の人たちはどうしようもない気持ちになります。これが逆転移(治療経過中に、治療者や家族が患者に対して抱いてしまう不合理な感情のこと)といわれる現象です。周囲の人はそのような心理的困難から、一刻も早く抜け出すことが求められるのです。

 

温かく見守る気持ちで

 家庭内などで自分の思い通りにならないことがあると暴力を振るう患者さんもいます。暴力の対象は母親やパートナーが多いですが、依存する相手に対しても起こしうるので、ときには自分の子どもに対し虐待というかたちで行われることもあります。

 境界性パーソナリティ障害の方は、強く依存する相手(母親や自分の子どもなど)が自分のことをよく理解してくれていて、同じ考えや意見を持ち、自分の思い通りに動いてくれるものと思い込んでいます。しかし、現実的にそうならないとわかれば、見捨てられたという気持ちから怒りが沸き起こり、暴力に発展してしまうのです。この場合、暴力を振るった結果、相手が悪いからだと思い込もうとしたり、自責的になったり、様々です。

 家族や周囲の人は、暴力行為だけを取り上げて責める態度をとるのではなく、本人の心の葛藤を理解して「あなたのことを心配している」という態度を示すことが大切です。そうすることで、患者さんの無用な動揺を防ぐことができるのです。

 治療が進むにつれて、暴力の回数が減ったり、暴力以外の方法で意思表示をしたりするようになってきます。そういう進歩がみられたときにはよくなってきていると評価してください。

 

身近な人だけに見せる「顔」

 境界性パーソナリティ障害の方が暴力を振るう対象は親やパートナー、我が子など極めて近しい人に限られます。これらの相手には自分と一体であってほしいと切望しますが、それがかなわない場合、自制心が働かず、暴力に至ってしまいます。

 他方、あまり親しくない人には別人のように冷静に接することができるのです。ですから我が子に虐待を繰り返しながら、訪ねてきた児童相談所の担当者などには、とても虐待する親とは思えないほど良識的に振る舞うことができ、言葉巧みに安心させて帰らせてしまうケースもあるのです。

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

 前回、前々回のおさらいです。

 

境界性パーソナリティ障害の治療

1

衝動行為を減らす

自傷、過食、暴力、アルコール依存などの衝動行為がある場合、衝動行為を減らすことが第一目標

2

不安をやわらげる

不安に思ってしまう考え方の偏りを、自分で認識できるように努める

近親者は患者との関係性を平常に保つ努力を

3

密接すぎる母子関係を解消する

仕事や社会で起きた問題を母子間で解決しないこと

 

ソーシャルスキルの習得が必要

 ソーシャルスキルとは...社会生活を営む上で必要な技術

例:自分の考えを相手に上手く伝えるための技術

相手に好意的に受け止めてもらうには、どのタイミングで、どのような表情で、どのような言葉を使って話せばいいか

ソーシャルスキルが備わっているケースだと...

上手く伝われば相手が共感してくれる

(「伝えてよかった」と自分で思える)

×ソーシャルスキルが備わっていないケースだと...

相手や状況に配慮して考えを伝えることができず、共感が得られない

(「伝えなければよかった」「相手は自分を分かってくれない」と思い、ストレスや不安が増加する)

 

ルールを守らせることも治療の一環

 境界性パーソナリティ障害の人は「見捨てられ不安」が強く、治療者に過度に依存する傾向があるため、治療者との間でルールを定めておくとよい

治療者とのルール例

  • 治療者に電話を掛ける回数は週2回まで
  • 話す内容は、気持ちが混乱した場合と不安になったときの対処法のみ
  • 電話可能な時間は診察時間外で午後7時までで5分以内
  •  予約を入れた診察日以外には受診しない

治療ルールを定めることで、患者さんが自分で問題解決能力を高めるトレーニングになる⇒治療の一環となる

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

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