2019年8月アーカイブ

 

  ジルは毎朝目覚めると自分自身に言います。「今日は過剰反応しないわ」。ジルは子どもたちの朝食を作るために一階に降り、すぐに子どもたちの学校に行く支度がはかどっていないことがわかり、イライラしだします。娘の教師と話をするために学校に立ち寄ります。教師から、娘がリーディングの授業で悪戦苦闘していると聞いてジルは非常に悲しくなります。すべて自分が悪いのだと思い始めます。恥と罪責感が高まって、気分を良くするために地元の百貨店に寄り、セール中の服を買います。家に帰って、どれほどお金を使ったか認識すると、屈辱感に打ちのめされてしまいます。自分のことを「間抜け、クズ」などとののしり始めます。テレビをつけ、トークショーを見ながらすすり泣き、しまいにはお酒を飲みだします。

  ジルの例が示しているように、感情調整不全に苦しむ人たちは、いつでも高感度の感情のなすがままになっています。感情の調整不全というのは、他の皆はぬるいと主張するコーヒーを飲んで、煮え湯を飲んだように感じるようなものです。あなたならわずかないらだちを感じるだけかもしれないところで、感情調整不全の人は瞬時に激怒します。あなたが誰かに魅力を感じて気持ちが高ぶるところで、BPDを持つ人は抵抗し難い欲望を感じるでしょう。あなたにとっては少々困惑させられるだけのことでも、感情調整不全の人は押しつぶされそうな恥の感情を消し去るために急いでその場を去り、繰り返し自分を切りつけたり、お酒に浸ったりするのです。

  感情の調整不全はBPDをもつ人の調整不全の主要領域です。他の4つのタイプの調整不全はBPDをもつ人の急速で極端な感情の結果であるか、または安堵感を求める試みや感情を回避する試みなのです。

  BPDをもつ人の感情は急速に変化します。見るからに幸せそうな状態から、恥の感情でいっぱいの状態、それから怒りと悲しみに満ちた状態へ...。とても激しい感情は、あなたには予測不可能に見えるでしょう。

  そして恥はBPDをもつ人にとって第一の敵です。恥がもたらす混乱と感情の壊滅的結末としてBPDをもつ人が感情を失くしたかのように見える時間があるかもしれません。それは、感情的に敏感なため人間関係や社会的なつながりを失うというこれまでの経験ゆえに「感情は悪いものだから、もつべきではない」と学習し、自分の感情を過度にコントロールするようになった結果です。もちろん問題は、その人が感情を封鎖あるいは抑制していることで、そのような感情は最終的には爆発し、大きな問題となります。

  このような感情の激動はすべて、周りの人たちにとっては非常に不快ですし、次の噴火に備えていつも警戒しているのでは、自分の人生も振り回されているかのように感じるでしょう。しかし感情の過敏さを、性格の欠陥としてではなく特徴として認識するなら、あなたはそれほど常に愛する人の感情のなすがままになっているように感じなくてすむかもしれません。そして、愛する人が感情をコントロールしていないということへの怒りにそれほどとらわれずにすむかもしれません。

 

次回「他人とうまくやっていくうえでの問題(対人関係技能の欠如)」を紹介します。

 

星和書店

「境界性パーソナリティ障害を持つ人と良い関係を築くコツ」シャーリ・Y・マニング著

 

 

「境界性」は二十世紀初頭に作られた用語で、この障害が精神科診断の二大領域である神経症と精神病の中間に位置すると示すことが意図されていました。「パーソナリティ障害」という用語は、あなたの愛する人がその人のパーソナリティに基盤を置く慢性的行動パターンを示すことを意味しています。

「精神疾患の診断・統計マニュアル」(BPDや他の障害を診断するためのガイドとして、精神科医とその他のメンタルヘルスの専門家が用いる手引書)を調べると、九つの診断基準がリストアップされています。それらは自殺行動や自傷行為から、精神病的行動、見捨てられることを回避するための行動まで、幅広いものです。多くのメンタルヘルスの専門家が、これらの基準を用いてこの障害を診断することは骨の折れる作業だと思ってきました。なぜなら、これらの基準は広範囲に及んでいますし、この障害は非常に多種多様な姿で出現し得るからです。

マーシャ・M・リネハン博士は、弁証法的行動療法(DBT)の創始者ですが、この障害の中で何が起きているのかを把握して特定する、もっと良い方法があるはずだと考えました。博士は、診断を五つの調整不全領域に再分類しました。BPDをもつ人が他の人々のようには自分自身を調整できない五つの面を特定したのです。これにより、あなたの愛する人の行動、そしてまたこの障害をもつ他の多くの表面的には大幅に異なって見える人たちの行動が理解可能となり、治療可能となるのです。その五つは下記の通りです。

  ・感情調整不全

  ・対人関係技能の欠如

  ・行動の調整不全

  ・自己調整不全

  ・認知の調整不全

次回以降、一つずつ詳しく紹介していきます。これらの五つの領域について読みながら、それらの問題があなたの愛する人に見出せるかどうか、自問してみてください。鍵となるのは、いくらか距離を置き、テレビを見ているかのように行動を観察することです。そしてパターンに気づけるように努力してください。それが自分のバランスを取り戻す第一歩です。

 

次回は「極度に敏感でひどく反応的な感情」(感情調整不全)をご紹介します。

 

 

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ブラッドは素晴らしい女性と結婚し、人生の夢を叶えました。

しかし二ヶ月後その女性(サディー)はビジネスを立ち上げるための巨額の資金をブラッドに求めました。そんな大金はないとブラッドが言うとサディーは激怒し、自分のことを十分に愛していないとブラッドをなじり、暴力で脅しました。そしてサディーは落ち込み、自分は生きている価値がないと言ってワインを一本飲み干し、腕の数か所に火のついたタバコを押し付けました。

夫と何時間も口をきかなかったり、またある時はブラッドがいかに悪い人間かを何時間も述べ立てたり、自分がいかに無価値であるかをくどくど語ったりしました。サディーが制御不能になり、ブラッドは何回か家を離れなければならなくなるほどでした。

ブラッドは妻があれほど動揺するのであれば、きっと何か彼女を怒らせることをしたに違いない、と自分を責めるようになりました。今では妻のサディーに関して自分が行うことは万事が間違っているように思えると言います。ブラッドはもはや自分が何者であるのか自信がもてなくなってしまい、当然、サディーが何者であるかもわからなくなっていました。

ブラッドの混乱は、サディーが、彼がずっと探し求めていた女性そのものであるときもあるという事実により、さらに複雑化していました。親切で優しく、みんなを楽しませる素晴らしい一面があったので、時としてブラッドは二人の違う女性と暮らしているかのように感じ、自分の気が変になっているだけなのではないかと思ったりもしました。


もちろん彼はおかしくなどなっていませんでした。私たちがBPDをもつ人を愛する理由はたくさんある、というのが事実なのです。ほとんどが親切で寛大な心の持ち主です。それゆえにBPDをもつ人の家族や彼らを愛する人たちは、BPDをもつ人を救済しようとします。そして、しばしば金銭、時間、支援を与え、大いに心配するので疲れ切ってしまいます。時にはその関係はもはや耐え難いと感じられる点にまで到達します。BPDをもつ人を愛している多くの人たちは、二人の関係が制御不能だという絶望と、事態が好転し得るという希望の間で揺れ動き、常にバランスを失っているかのように感じるのです。


BPDをもつ人がトルネード(大竜巻)のような感情をもっていることも、驚くべきことではないでしょう。その感情はどこからともなく発生し、勢力を増し、破壊を引き起こします。BPDをもつ人の感情状態は急速に変わり、他の人たちがついていくのは困難です。

混沌状態の中核にあるのは感情です。自分の感情を全く制御できないことが多いので、行動もほとんど制御できないように思われます。BPDをもつ人の行うことの多く(衝動的決断、怒りの爆発、180度の変化)は制御不能で圧倒されるような感情に対処するためなのです。決して関係をなくすため、問題を引き起こすため、誰かの人生を破滅させるためといった、故意の試みではないと知っておくことが大切です。

 

次回は「境界性パーソナリティ障害とは何を意味するのでしょうか?」をご紹介します。

 

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「境界性パーソナリティ障害を持つ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

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