2019年9月アーカイブ

 

  「あなたは何を考えていたのですか?」という質問を、あなたも自分の愛する人に何度も何度も聞いたかもしれません。人を当惑させる行動、感情的なリアクション、対人的失策、自分が何者かについての多くの疑念のため、周りで見ている人はBPDをもつ人の生き方に仰天してしまいます。調整不全の最後の領域...認知の調整不全も人それぞれ、異なるときに、異なる形態をとる可能性があります。

  一つの形態として、認知調整不全の人は自分の注意を制御することに大いに苦労します。あなたが何かについて本当に感情的になってしまった時のことを思い出してください。誰かと話そうとしても、テレビを見ても、その内容に集中できなかったのではないでしょうか。感情は誰にとっても集中力を妨げるものであるなら、BPDをもつ人の巨大な感情はいっそう集中困難を引き起こします。

  それゆえにBPDをもつ一部の人(すべてではありません)は、私たちが解離と呼ぶもの(ゾーンアウトする、ぼんやり、上の空といった状態になる)を自動的に起こすかもしれません。解離する人はしばしば、極端な感情的リアクションを誘発するようなことがあると解離します。何か苦痛なことを話す、苦痛な出来事の記憶を呼び覚ます場所に行く、などです。リストカットなどと同じように、解離は強烈な感情的経験から解放してくれます。

  BPDをもつ人は妄想状態になるときもあります。通常、パラノイア(妄想)は感情が極端であることと対人的な混沌状態に深く関わっています。切羽詰まると、BPDをもつ人は「他人が自分をひどい目に遭わせようとしている」として、あまりにも疑い深くなるか、怯えてしまい、現実を見失ったかのように見えるのです。しかし、妄想の引き金になったものが消えると(例えば、家族の集いが終わったとき)、妄想も消えます。あるいはBPDをもつ人の全般的な生活ストレスが減少すると、それに伴って妄想も収まっていきます。覚えておくべき大切なことは、妄想は短期間しか続かず、ストレスがそれを誘発しているという事実です。感情が強烈であるために、ストレスの多い状況であなたの愛する人は過度に疑い深くなり得るのです。

 

 

  これまで調整不全の五つの領域をご紹介してきました。たぶんあなたも、これらの領域が相互作用し、他人の当惑を招く行動が生じる様子がわかってきたのではないでしょうか。彼らがわざと「狂った」行為をしているのではなく、彼ら自身もこのジェットコースターに引きずられているのだという可能性を考察できるようになっているでしょう。感情を強烈に感じることと、感情の調整方法を知らないことが、痛みを和らげるための死に物狂いの行為につながるのです。

  弁証法的行動療法は、何が起こっているのかを理解し、激しい感情と後続の行動を調整できるように、あなたの愛する人に力を貸すことができます。弁証法的行動療法の原理のいくつかを採用し、調整不全の五つの領域への理解に基づいて愛する人に反応すれば、あなたもバランスを取り戻し、二人の関係を維持していく方法を見つけることができるでしょう。

 

星和書店

「境界性パーソナリティ障害を持つ人と良い関係を築くコツ」シャーリ・Y・マニング著

 

自己感覚の喪失、あるいは自己調整不全

 

  あるクライアントは、アイスクリームのチョコレート味とバニラ味のどちらが好きかを言えませんでした。どれがいいですか?と質問したとき、彼女の真摯な答えは「わかりません」というものでした。BPDをもつ人はしばしば、自分は何が好きかという感覚、自分の価値の感覚、自分が何者であるかについての感覚をもっていません。

  他にも、親密な関係がいつも短命に終わったり、混沌状態になったりするクライアントたちがいました。そうなってしまう理由は、自分が相手との関係で何を望んでいるのかわからない、自分と関係を続けたいと思う人などいないと考えている、というものでした。自分がどのようなパートナーを望んでいるのかわからないのです。性的好みがはっきりしないことも多いのです。空虚なので、他人に空虚さを埋める手伝いをしてもらいたがるのですが、自分など空虚な状態にしか価しないという考えとも格闘しています。


  私たちのほとんどは、自分が何者であるか、世界のどこに位置するかについて、少なくとも何かしら考えをもっています。私たちには役割があり、自分の価値の感覚があり、好きなものと嫌いなものを知っています。夢や目標があります。BPDをもつ人には自分が何者であるかという感覚がありません。その瞬間に、自分の経験が何であるか(身体に何を感じるか、自分の思考と感情がどのようなものであるか)を同定できません。しばしば自分自身をとても残酷に価値判断し、将来に向けて現実的な目標を立てようと悪戦苦闘をします。自分の価値や好き嫌いを知らないのです。

  自分が何者なのかわからないという状態は、BPDをもつ人の感情が極端であることの副産物です。ハリケーンのど真ん中で、くるくる回転し続ける道路標識を読もうとするのに似ています。それが道路標識だと知っていますが、そこに何と書いてあるのかわかりません。BPDをもつ人は価値観や好みというものがあることを知っていますが、妨害する感情のせいでそれを読み取れないのです。自分が何者であるか把握できないので、何ももたず道に迷っているように感じます。迷っていて空虚に感じることは恥の気持ちを増し、悪循環は続きます。

 

次回は「いったい何を考えているのでしょうか?(認知調整不全)」を紹介します。

 

星和書店

「境界性パーソナリティ障害を持つ人と良い関係を築くコツ」シャーリ・Y・マニング著

 

 

  もしあなたの愛する人が仕事を辞めたり、関係を断ったり、暴飲暴食したり、下剤を使ったり、深酒をしたり、薬物を使用したり、万引きをしたり、犯罪を働いたり、逃亡したり、何にせよ衝動的なことをするのであれば、それは行動の調整不全ゆえのものであることを覚えておいてください。その人がこれらの行動に駆り立てられるのは、非常に多くの場合、気分を良くするか、少なくとも強烈な感情を除去するのに役立つからです。これらの行動に携わることで、あなたの愛する人は感情を回避するか、封鎖することができ、自分自身に安堵感をもたらすことができるのです。しかしその安堵感は一時的なものにすぎません。その後その人は恥と罪責感により苦しめられます。しばしばその感情を封鎖しなければならず、こうして一つのサイクルが始まります。苦痛な感情を封鎖しようという衝動のせいで、自分の身体を切る行為や他の形態の自傷のような自己破滅的行動も用いられます。

  BPDを持つ人は、特に感情が高ぶっているときに判断力を失うようです。賢明ではない愛欲を追及したり、大金を使ったり、思いつきで旅に出たり、上司や他の権威ある人物を叱りつけたり、深夜に電話をかけたり、家出したり、たまたま思いついたことをなんであれしでかして、その時感じていた不快な感情をなだめます。長きにわたって衝動的行動が感情を緩和する機能を果たしていると、それは感情に対するほとんど自動的な反応となります。

  BPDを持つ人の多くが何度も自殺を試みるというのは、残酷で恐ろしい事実です。自殺の試みではない自傷行為もあります。これらの行動は本当に恐ろしいものです。BPDをもつ人にとって、自殺は最大のリスクであり、自分の身体を切ることから始めた人のうち11%が自殺でなくなります。自殺がなぜこれほど共通した欲求衝動となっているのでしょうか。

  時々、耐え難く苦しい感情を誘発するような何かがBPDをもつ人に起きます。感情は積もりに積もって、その人はついに文字通り痛みで破裂しそうだと考えます。自殺がその感情的苦痛を止める唯一の方法だと考えるに至るかもしれません。時には自殺することについて考えるか妄想するだけでも、強烈な感情を弱められるのです。

  時には、苦痛な感情がそもそも発生するのを阻止しようとして、自殺行動や自傷行為に出る場合もあります。もしあなたの愛する人がこの行動パターンを習得してしまっているなら、自殺・自傷反応はほとんど自動的になるでしょう。何かが起こると、即座にその人は自分のしていることをについて考える様子もなく、その行為に走るのです。


  愛する人の自殺行動を理解しようとするときには、そのような行動があなたや他の人の誰かを操作するためのものであるという考え方をしないようにすることが特に重要です。時々BPDを持つ人は他人からの反応を得るために自殺行動をすることもあります。しかし、そのことをいつも意識しているわけではありません。その人は頻繁に衝動的に行動していることを思い出してください。また、あなたの愛する人には助けを求めるために使える対人関係技能がないとすれば、苦痛を和らげるための選択肢がずっと少ないということも忘れないでください。

  自傷行為は学習されたものであるとの理解が重要です。自殺は私たちが生まれつきもっている行動反応ではありません。どこかで、どういうわけか、あなたの愛する人は自殺行動あるいは自傷行為が自分にとって機能することを学んだのです。その行動は感情を調整するのかもしれませんし、他人の行動に望ましい影響を与えるのかもしれません。あなたは愛する人がどうしてそのような劇的な行為に走るのかわからず、何度も苦悩してきたことでしょう。自傷は衝動的に仕事を辞めたり、大金を使ったりするのと同様に、行動調整不全の一つの形態にすぎないのだと留意しておけば、自分のバランス感覚を取り戻す役に立つでしょう。

 

次回は「自己感覚の喪失、あるいは自己調整不全」を紹介します。

 

星和書店

「境界性パーソナリティ障害を持つ人と良い関係を築くコツ」シャーリ・Y・マニング著

 

 

  ショーナは姉が家族の都合で明日のランチの約束をキャンセルしたことについて考え続けています。姉が自分と会わなくてすむように言い訳を考えたのではないか、と繰り返し考えてしまい眠れません。ほどなく彼女は泣きだし、朝の四時に姉に電話をします。彼女はすすり泣きながら、「私は良い妹だけれど、姉さんは一度だって良い姉だったことなんかないわ!大嫌い!」と叫びます。姉は、ショーナは良い妹に間違いないし、自分も良い姉になろうとしている、これからはもっと努力すると穏やかに言って電話を切りますが、頭が枕につくより先にショーナがまた電話をしてきます。今回は姉の方も腹が立って、眠ってからでないと話せないと言います。ショーナが三回目に電話をしてきたとき姉はショーナを叱って電話を切ります。ショーナはもう一回かけてみますが、姉は電話の電源を切ってしまったので応答しません。


  このような例からもわかる通り、BPDをもつ人は本当に人間関係において悪戦苦闘しています。関係をもちたくて必死なのです。実際、人との関係を世界一大切なものとみなしていて、人々が自分を見捨てるのではないかと強烈に恐れています。

  外から見ると、BPDをもつ人が周囲の人々を離れさせてしまうようなことをし続けていることが信じがたいでしょう。しかし、通常これはBPDをもつ人が対人関係の中での振る舞い方を本当に知らないせいなのです。そして、感情の調整不全に対人関係技能の欠如が加われば、他人との混沌とした相互作用のレシピが決定的に整ってしまうのです。

  姉に電話をしたとき、ショーナの感情は暴走状態でした。姉に見捨てられることに怯えるあまり、衝動的に電話をしてしまいます。対人的コミュニケーション技能がないので姉を攻撃してしまいます。姉の反応によりショーナは姉を失ってしまうのではないかと心配し、パニックになり、電話をかけ続けます。こういった行動により姉が彼女と絶縁するという事態が起こりかねないことを認識していないのです。

 

次回は「衝動に基づいて行動する(行動の調整不全)」を紹介します。

 

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「境界性パーソナリティ障害を持つ人と良い関係を築くコツ」シャーリ・Y・マニング著

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