自傷を行う子どもは同じことを行う子どもと友人であることが多い一方で、ピア・プレッシャー(友人からの影響・圧力)は自傷の持続にはおそらくほとんど影響を与えないと思われます。青年期の子どもにとって、またある特定の十代の少女たちにおいて、仲間グループは単に、自分の問題を吹聴する場でしかありません。
ピア・プレッシャーはしばしば、青年期の子どものさまざまな行動の説明に利用されてきました。飲酒や薬物乱用などの理由としてピア・プレッシャーがやり玉に挙げられることも多いのです。確かに状況によってはピア・プレッシャーからこれらの物質を用いるようになる子どももいるでしょうが、どちらかというと物質使用または乱用に関わる子どもたちが「類が友を呼び」、結果的に新しい仲間グループが結成されるというほうがより正確でしょう。同様のパターンは、おそらく自傷についても当てはまると思われます。
友人に影響されて自傷を始めるわけではありません。子どもたちは自分の体験を友人と分かち合うことに重きを置いているのです。
誤った社会通念④:飲酒や物質使用が自傷を助長する
自傷は、感情的苦悩をなだめてくれます。飲酒や物質使用と同じように。
感情を統制するための方法として自傷を行う子どもの場合は特に、飲酒や物質使用が引き金となって自傷する、ということは滅多にないでしょう。
例外なのは、比較的少数ですが、深刻な自己嫌悪と軽蔑から自らを傷つける子どもたちです。彼らの自傷は、身体的痛みを通して自らの罪悪感を軽減させることが目的です。こうした子どもたちはしばしば性的虐待に苦しんでいます。そして物質使用と並行して自傷を行う傾向がより高くなります。
ジョンは19歳の大学一年生で、7歳から11歳までいとこから性的虐待をされていました。ジョンは、自分の学業成績を誇りにし、高校時代を通じて非常に良い成績を取ってきました。ジョンが初めて自傷したときのことを聞きました。「数学の期末試験のために勉強していました。僕はいつもは数学がすごく得意なんです。でも、どうしてもその公式を理解できそうにありませんでした。ある夜、僕は本当に、本当に欲求不満になって、自分の部屋で酒を飲み始めました。僕がわかっているその次のことは、ただ激しい自己嫌悪しか感じていなかったということです。考えることなく、僕は自傷を始めたんです。」
ジョンのような例がごく少数ありますが、飲酒や物質使用が引き金となって自傷する、ということは滅多になく、自傷も飲酒も、取り組むべき問題としてそれぞれ扱う必要があります。
次回は「誤った社会通念⑤:心の痛みよりも身体的な痛みのほうが対処しやすい」を紹介します。
星和書店『自傷行為 救出ガイドブック - 弁証法的行動療法に基づく援助』 著マイケル・ホランダー