2019年10月アーカイブ

 

  自傷を行う子どもは同じことを行う子どもと友人であることが多い一方で、ピア・プレッシャー(友人からの影響・圧力)は自傷の持続にはおそらくほとんど影響を与えないと思われます。青年期の子どもにとって、またある特定の十代の少女たちにおいて、仲間グループは単に、自分の問題を吹聴する場でしかありません。

  ピア・プレッシャーはしばしば、青年期の子どものさまざまな行動の説明に利用されてきました。飲酒や薬物乱用などの理由としてピア・プレッシャーがやり玉に挙げられることも多いのです。確かに状況によってはピア・プレッシャーからこれらの物質を用いるようになる子どももいるでしょうが、どちらかというと物質使用または乱用に関わる子どもたちが「類が友を呼び」、結果的に新しい仲間グループが結成されるというほうがより正確でしょう。同様のパターンは、おそらく自傷についても当てはまると思われます。

  友人に影響されて自傷を始めるわけではありません。子どもたちは自分の体験を友人と分かち合うことに重きを置いているのです。

 


 

誤った社会通念④:飲酒や物質使用が自傷を助長する

 

  自傷は、感情的苦悩をなだめてくれます。飲酒や物質使用と同じように。

感情を統制するための方法として自傷を行う子どもの場合は特に、飲酒や物質使用が引き金となって自傷する、ということは滅多にないでしょう。

 

  例外なのは、比較的少数ですが、深刻な自己嫌悪と軽蔑から自らを傷つける子どもたちです。彼らの自傷は、身体的痛みを通して自らの罪悪感を軽減させることが目的です。こうした子どもたちはしばしば性的虐待に苦しんでいます。そして物質使用と並行して自傷を行う傾向がより高くなります。

  ジョンは19歳の大学一年生で、7歳から11歳までいとこから性的虐待をされていました。ジョンは、自分の学業成績を誇りにし、高校時代を通じて非常に良い成績を取ってきました。ジョンが初めて自傷したときのことを聞きました。「数学の期末試験のために勉強していました。僕はいつもは数学がすごく得意なんです。でも、どうしてもその公式を理解できそうにありませんでした。ある夜、僕は本当に、本当に欲求不満になって、自分の部屋で酒を飲み始めました。僕がわかっているその次のことは、ただ激しい自己嫌悪しか感じていなかったということです。考えることなく、僕は自傷を始めたんです。」

  ジョンのような例がごく少数ありますが、飲酒や物質使用が引き金となって自傷する、ということは滅多になく、自傷も飲酒も、取り組むべき問題としてそれぞれ扱う必要があります。

 

次回は「誤った社会通念⑤:心の痛みよりも身体的な痛みのほうが対処しやすい」を紹介します。

 

星和書店『自傷行為 救出ガイドブック - 弁証法的行動療法に基づく援助』 著マイケル・ホランダー

 

誤った社会通念②:みんながやっている

 

  自傷は、長年にわたり青年期の風景のひとコマとなってきました。自傷はしばしば、自殺企図として誤った解釈を受けます。周囲の大人たちが心配し、困惑し、途方に暮れるあまり、不注意にも意図的な自傷と自殺を意図した自傷とを混同し、混乱を生み出していることが多いのです。しかし自傷をする青年期の子どもたちのほとんどは、生活があまりにも苦痛に感じられ、もう耐えられないとなったときに自傷をします。死んでしまいたいと願うこともあるかもしれませんが、実際に自殺する意図はありません。対照的に、本当に死にたいと思った時には、実際に自殺を図ります。とはいえ、皆さんが自己判断で、自分の子どもが行っているのは意図的な自傷か自殺企図かという区別をしようとは決してしないでください。専門家の支援を求めてください。


  数年前の青年期の子どもは自傷をもっと秘密にしていました。自分の行っている行為について、親友にでさえ話をすることは異例だったのです。しかし時代を経るにつれて、十代の子どもたちの健康問題についてのメディアの報道にも、青年期の子どもの音楽や映画文化にも、自傷の話題がいつの間にか入り込むようになったのです。

  ある意味、自傷は「一般化」されたと言えるでしょう。結果的に、青年期の子どもが自分の自傷を友人に明らかにし、その行為によって気分がどれほど楽になるかについて話し合う可能性が格段に高まりました。また、自傷に焦点を当てたウェブサイトも多数存在します。

 

  こうしたことにより研究者たちは、この問題の理解とより効果的な治療法の開発に関する研究を始めました。一方で、青年期の子どもは自傷について知り、自覚するようになればなるほど、それを実際にやってみようとするようになってしまいました。残念ながら、かなり多くの子どもたちにとって自傷は、彼らの心のバランスを取り戻すためにうまく作用してしまったのです。

  メディアと青年期の子どもたちの文化において、自傷は、美化、またはロマンチックに表現されます。それゆえに、自傷は子どもが十代を超えてしまえば卒業するだろう、厄介だが一時的な行動だ、と思っているかもしれませんが、悲しいことにそうではありません。自傷を行う子どもたちは感情的にひどく苦しんでおり、専門家の助けを真に必要としているのです。

 

次回は、「誤った社会通念③:友人の影響が主な犯人である」を紹介します。

 

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  一部の研究者によると、人の関心を引くために自傷を行うのは、青年期の子どもの4パーセントに満たないと報告されています。ところがこれは、青年期の子どもの自傷を説明するために家族や一部のセラピストが最も一般的に当てはめる理由なのです。この種の誤解は治療を脱線させ、本人の苦しみと家族の苦悩とを共に長引かせることになります。エリンと彼女のケースを見てみましょう。

 

●「関心を求めているのではない」エリン

13歳のエリンはとても魅力的で極めて聡明な少女ですが、社交的な状況に若干の不安を抱えているようでした。彼女はここ六カ月間、自傷と自殺思考のために何度も入退院を繰り返してきました。

エリンの担当医からの報告によれば、エリンが自傷を始めてかれこれ二年になるものの、それに彼女の両親が気づいたのはほんの八カ月前にすぎないということでした。

聡明な思春期の少女が、ゆうに一年を超えて自分が秘密にしてきた行動を通して人の関心を求めているなどということがありうるでしょうか?

 

 

  また、青年期の子どもは自分の感情生活に関してプライバシーを求めるようになるのが自然です。「それについて話したくない」とか「何でもない」と呪文のように唱えるようになるかもしれません。人生のこの時点で青年期の子どもは、親から離れて独立する必要性を感じています。自分のことに親が関わろうとするのを嫌がります。親の関心を求めることは滅多になく、ましてや援助などなおさらです。

 

  では子どもたちが自傷をするのはいったいどうしてなのでしょうか。確信をもって知ることは難しいですが、考えられることを挙げてみましょう。

 

  自傷の大半は比較的傷が浅いものです。これらの浅い傷には、こうした青年期の子どもが求める、自分を慰める効果があります。

  全般的に、自傷をする青年期の子どもは、過敏に、しかも極度に反応する傾向にあります。これは、精神的に物事を非常に深く感じ、すぐに圧倒されるような感情に飲み込まれてしまうということです。彼らは強烈な感情システムを持っているのですが、それに対処するためのツールを持っていません。感情に圧倒されてしまったときに上手に支援を求めるやり方や、自分の現在の苦痛を軽減してくれるかもしれない、新しい情報を取り入れる能力が欠けているのです。こうした子どもたちが解決したいこと、しかも即座に解決したいこととは、その瞬間に自分がどれほどひどい気分でいるかということです。

自傷はしばしば、こうした子どもたちを感情の嵐からすぐに解放してくれます。

 

次回は「誤った社会通念②:みんながやっている」を紹介します。

 

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事実と虚構 - 自傷をめぐる誤解をとく

 

  思いやりのある愛情豊かな人々にとって、わが子が恐ろしい行動にはまりこみ、そこから抜け出せなくなっていると思われるときに、冷静でいるのは難しいことです。到底耐えられないと感じるような、強烈な感情を体験することでしょう。このように感情的に駆り立てられると、誤った思考や判断をしても当然、という雰囲気になりがちです。そしてこの大変な事態を乗り切るのを助けてくれる回答を渇望するあまり、焦って、一見優しいけれど誤りの多い結論にすがりついてしまう可能性があります。そのような結論は皆さんの不安を和らげ、感情的な混乱を理解するのを助けてはくれますが、皆さんを正しい道から踏み外させてしまいます。

  なぜ子どもたちは自分の身体に刃を当てる、火傷を負わせるといったような、私たちが到底想像も及ばないことを行うのでしょうか。

  自傷について新たな理解を得ることは、皆さんが考えている以上に重要です。まずは子どもがどのような目的でこうした自傷を行うのかということについて新しい見方ができるようになることが、この困った行動を取り除くための重要な基盤となるのです。新しい視野を得ることは、皆さんを効果的な治療へと導く道標となります。またそれは、皆さん自身がこれまでと異なるやり方で行動することで、子どもの行動に変化を促すという点でも役に立つでしょう。

 

シンシア(22歳)の例

彼女は13歳の時から自傷を行っています。シンシアは言います。「自傷するのは私の生活の一部なんだって、やっとあきらめがついたところなんです。だって自分の身体を切っても、実際、痛くないんです。むしろ本当に救われる気がします。自分でも、自傷をやめたいと思っているのかどうか、わかりません。......ある意味これは昔からの友達のようなものなんです。ちょっと厄介だけど、でも必要なときにはいつもそこにいてくれる、そんな友達です。」

 

  自傷をする人々の大多数は青年期に自傷を始めます。シンシアはそれらの子どもたちより少し年上です。迅速で適切な治療が得られないと、ほとんどの場合、この問題は成人期初期までずれ込み、さらには中年期かそれ以降まで続くことになる可能性があります。誤解によって効果的な治療への道が妨害されれば治療はより難しくなります。

  次回以降、自傷について皆さんが抱いているかもしれない誤った社会通念や誤解、あるいは皆さん自身が気づかないうちに進んでしまっていた、子どもが抱えている問題を真に理解するのを妨害する道について、いくつか検討していきます。

 

次回は「誤った社会通念①:自傷は人の関心を引こうとして行うものである」を紹介します。

 

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意図的に自分の身体を傷つける子どもたち

  親はわが子の自傷を、自分が今までに経験してきた中でも最もつらい経験であり、最も困惑させられることとして受け止めます。わが子が自傷していると知った時に皆さんが怖れ、悲しみ、ときには腹立たしく感じたとしても当然でしょう。わが子を助けようとして何を試みても、ますます状況を悪化させるだけのように感じられることがあります。

なぜ彼らは自傷行為をするのでしょうか。二つの事例をご紹介します。


「自傷をすると落ち着く」 サラ


サラは中学生のころから自傷をしていること、自傷を週に2,3回行っていること、もっと少ないこともある一方、ストレスを受けたときにはもっと頻繁に行うこともときおりある、と言いました。「ストレス」というのは、具体的にどのようなことを意味しているのかと尋ねると、サラは、感情的に圧倒され、自分の皮膚を突き破って外に飛び出してしまいたくなる感じだと説明しました。自傷をした後のホッとした気持ちはどれくらい長続きするのか聞くと、「2,3日落ち着いていられることもあれば、ほんの数分しかもたないこともあります。その後、罪悪感のようなものを感じます。」

サラは自傷行為に対して、「やめたい」と「やめたくない」という相反するものが入り混じった感情を持っています。


「ときどき、何も感じなくなってしまう」 マリー


マリーは15歳のときにレイプされた経験があります。また、カウンセリングでうまくいかなかった長い体験を持っています。これまでに自傷で6回、薬の過剰摂取で2回入院したことがあります。あなたは自傷をするとき、死のうとしているのですか?と尋ねると、「違うわ!」とためらうことなく、いささか煩わしげに答えました。薬を過剰服用したときは死ぬつもりだったのですか?と聞くと、「そうよ」と口の中でボソリといいました。「我慢できなかったんだもの」。ではマリーにとって自傷と薬の過剰服用とは違う目的で行われるということですね?自傷はその瞬間のあなたの感じ方に関する問題を解決してくれるけれど、薬の過剰服用はそれをすべて終わらせてしまうもの、ということで合っているかな?と尋ねると、「ええその通りだわ」と答えました。他人と比べて敏感であること、感情的な状況を乗り越えるのに他の人より時間が長くかかることも認めた上で、こうも述べました。「でもときどき何も感じないときがあるわ。ただ感覚がなくて、虚しいとしか感じないの。」 そのようなときに自傷をすると生きていると再び実感するようになるのですか?と尋ねると、「そうなのよ!」とマリーは答えました。


この二つの事例から、自傷を行う最も一般的な理由として次のことがわかります。


1圧倒されるような感情によるきわめて苦痛な恐ろしい経験をコントロールするため

感覚が麻痺し、虚しいという恐ろしい感じから逃れるため


どちらか一方のこともあれば、両方ということもあります。子どもたちが感情的な苦痛や不快から直ちに解放されるために自傷という手段を取るということを親とセラピストが理解して初めて、その問題の解決へと乗り出すことができます。子どもの気がかりな行動を理解することは、親の皆さんの怖れや心配はたいてい減少します。理解したからと言って必ずしも子どもの問題について冷静になれるとは限りませんが、少なくともそれほどパニックにならずにすむ可能性があります。

 

次回は「事実と虚構-自傷をめぐる誤解をとく」をご紹介します。

 

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