2019年12月アーカイブ

  BPDを形成するには、二つの基本的材料と時間が必要です。最初の材料は生まれつきのもので、感情に対する生物学的な脆弱性です。これを、私たちが感情を経験する方法という点においてすでに組み込まれてしまっているものと考えてください。私たちのそれぞれが、ある程度で感情を感じるように生まれついています。各人がどのくらいの感情をどのくらい頻繁に感じるかということは選択の問題ではないということが科学的研究からわかっています。

  病院の新生児室で新生児が様々なテストに反応する様子を観察すると、個々の人間は学習によって反応を形成する機会が生じるずっと以前に、多様な感情的反応をもっているということがわかります。このようなテストの一つで、赤ちゃんたちは羽毛で鼻をくすぐられました。ほとんど何の感情的反応もない赤ちゃんもいれば、穏やかな感情的反応をする赤ちゃん、泣き出してなだめるのが大変な赤ちゃんもいました。激しい感情的反応を示した赤ちゃんは、その後「感情的刺激に敏感」とみなされました。ある種の感情を喚起するような経験に、より速くより強烈に反応したのです。つまり私たちは感情の経験の仕方という点で、明かに生まれつきのコードを付与されているのです。


  多くの感情をもち、そのすべてが強い人もいます。感情に乏しい人もいます。感情のバランスが取れているように見える人もいます。いくつかの感情は非常に強烈に感じ、他の感情は穏やかに感じる人もいます。


  BPDをもつ人は、感情に対して極上級の脆弱性を抱えています。新生児室にいる、羽毛で鼻をくすぐられると極端な反応をする赤ちゃんだということです。もしこの感情のあり様を丁寧に分解してみるなら、「感情的」であるということは、本当はコントロールの欠如というよりも、異なる方法で感情の大変動をもたらす三つの別々の傾向である、ということが理解しやすくなります。


次回「感情の過敏さすばやく引き金を引く指」を紹介します。


「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

何がそれほど感情的にさせるのか

  BPDは複雑です。その中核には感情の問題があります。感情の調整にあまりに苦労するので、BPDをもつ人はしばしば人間関係がぐらついています。考えずに行動し、考えているときでさえも有効な行為を思いつくことができないのです。気が散ってしまい、時々妄想状態になります。何を言うか何をするか、何が事実で何が事実を自分が解釈したものなのかも、本当にわかっていないのです。当然ながら、BPDの方向性や目的地を予想することは難しく、いつ脱線し、何かに衝突してバラバラになってしまうかわかりません。苦悩を与える制御不能な感情は、広範囲にわたる人生の問題を引き起こし、結果は通常、混沌状態となります。なぜなのでしょうか。


  赤毛や黒い肌で生まれる人、音楽、スポーツ、数学の才能をもって生まれる人がいるのと同様に、BPDをもつ人は感情に対する特別な脆弱性を伴って生まれています。目の色を変えられないように、音楽的才能のない耳を絶対音感と交換できないように、どうしても感情のスイッチを切ることができないのです。成長するにつれて、生まれつきの感情の過敏さは内面的苦痛の原因になるばかりでなく、外部の人からの不寛容にも多く直面します。


  BPDをもつ人が「自分の感情を制御する」ことを主張してもうまくはいきません。実際しばしば事態をより悪くしてしまいます。自分には何か「悪い」ところがあると気づかされれば、それだけでも苦痛な感情を喚起するからです。弁証法的行動療法は特定の技能という形態での代替案を提供します。良い人間関係を維持し、苦悩を許容し、危機的状況を生き延び、感情を重要な資源として用いることを学ぶために役立つ技能です。(感情というものはそのように用いるものなのです。)   あなたの愛する人が弁証法的行動療法を受ければ、感情をコントロールする力が実際についてきます。その人がこの種のセラピーを受けていなくても、あなたが学ぶなら、あなたはその人を助ける方法がわかるでしょう。これらの技能を使えば、あなたの感情を平静に保つことにも役立ちますから、あなた自身のストレスとフラストレーションを緩和することもできるでしょう。



次回は「高度に感情的になるよう回路が形成されている」を紹介します。


「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

  DBT(弁証法的行動療法)のもう一つの大きな長所は、DBTが、その問題行動は心の痛みを和らげるという子どものニーズに役立っているという理解に基づき、自分を痛めつけるよりずっと適切で健康的な方法を提供することで、その問題行動に直接取り組むという点です。その目標の達成に向けた最初の最も重要なステップは、子どもの感じ方を皆さんが確実に認めてあげることです。


「お父さんは全然わかってない! リジーは私の親友なのよ、あの子は他の誰よりも私のことをよく理解してくれているわ」

  ジャニーヌは涙を流しながら叫びました。

「リジーは、私に言わせればちっとも親友などではない」

  ジャニーヌの父親が言葉を続けました。

「あの子がおまえの親友なんてありえない! おまえが自傷していい、なんて言う奴は友人じゃない」

「リジーは私の自傷をいいと言ってるわけじゃないわ。あの子はただ私の問題のことで相談に乗ってくれるだけよ」

  ジャニーヌは泣きじゃくりながら叫びました。


  この対話で見失われているものは承認 ー 相手を認めること ー です。(ここでいう【承認】とは、相手の気持ちや立場を、価値あるものとして認めるというものです。つまり、あなたは他者の視点における賢明さを理解し、その価値を認めていると伝えることです。承認とはあなたは他者の経験を理解しているということを伝えることを意味しており、あなたもその意見を共有しなければならないという意味ではありません


  たとえば、ジャニーヌの父親は、リジーの友情がジャニーヌにとってどれほど価値のあるものかを自分は理解している、と言うだけでいいのです。承認というのは、対人関係のための有機肥料のようなもので、対人関係に栄養を与え、高めます。

  さらにジャニーヌの父親は、娘の経験を承認した後ならば、リジーについての自分の心配を取り上げ、娘に自分の話を聞いてもらいやすい立場に立つことができるでしょう。承認という概念は単純に感じられるかもしれませんが、皆さんに学んでいただきたい唯一の最も困難なスキルであり、かつ子どもたちが習得すべき最も重要なスキルでもあります。



「自傷行為救出ガイドブック ー弁証法的行動療法に基づく援助ー」 マイケル・ホランダー著


2020年 BPD家族会プログラム 申込開始

●「家族定例会 内容」
・bpd・発達障害・精神失敗に関する衝動性の基礎について
・家族のための対応プログラム「CRAFT」
・家族同士で悩みを共有したり、対処法を考えるディスカッション
・箱庭療法
・コニュニケーションスキル

「家族定例会 開催日付」
定例会別 別途開催日(第四日曜日)時間 15:10〜17:00


2月2日 日曜日


3月22日 日曜日


4月26日 日曜日


5月24日 日曜日


6月28日 日曜日


7月26日 日曜日


8月 休み


9月27日 日曜日


10月25日 日曜日


11月22日 日曜日


12月27日 日曜日


参加条件  当家族会は会員申し込みはございませんので、

      bpd限らず、衝動的な行動や言動でお困りの方であれば

      となたでもご参加いただけます。

      *体調が悪い方や急用が入る方はご欠席いただけます。

      定例会のみの受付も可能です。

      

参加対象者 家族・パートナー・会社の同僚・弁護士・講師・専門家


参加費   10回コース     20,000円

      1回単発申し込み   2,500円



●「対応力向上のたためのご本人との関係を改善する

 ためのトレーニングと家族定例会」10回コース

弁証法的行動療法・認知行動療法・スキーマ・トラウマ治療がベース


開催時間 14:00〜17:00


前半講師 福井里江 准教授

     東京学芸大学 教育学部 教育心理学臨床心理士講座 


2月8日(土)

  内容 ご家族のためのエンパワメント講座

        〜ご家族が自分を取り戻すということ〜

3月14日(土)

  内容  ご家族のためのエンパワメント講座

         〜効果的なコニュニケーションの取り方(1)〜

4月11日(土)

  内容  ご家族が直面する感情の理解と対処

         〜効果的なコニュニケーションの取り方(2)〜

5月9日(土)

  内容  ご家族のためのエンパワメント講座

         〜ご家族自身のスキーマを考える〜
    

6月13日(土)

  内容  ご家族が直面する感情の理解と対処

         〜愛情をもって限界設定するとは?〜
     
     *研修会・学会により日程変更あり
     *参加者さまのご要望によりプログラム内容変更あり


7月・9ー12月 第二土曜日開催 時間 14:00〜17:00

担当講師 遊佐安一郎先生(長谷川メンタルヘルス研究所 所長) 

7月11日(土)

  内容  BPDの理解と支援とディスカッション

9月12日(土)

  内容  トラウマとディスカッション

      コンサルテーションミーティングとディスカッション

10 月10日(土)

  内容  スキーマーとディスカッション

11月14日(土)

  内容  5つのパワーツールとディスカッション

12月12日(土)

  内容  承認とディスカッション

 *参加者さまのご要望によりプログラム内容変更あり

参加条件   毎月開催される家族定例会に参加
       
参加対象者  ご家族・パートナー・会社の同僚・親族・友人・弁護士・教師
       専門家。
 
参加費    6万円(内訳 対応力講座3,000円+定例会2,000円)
       分割払い(2月・9月 各3万円)

注意点    1回のみの参加受付けはしていません。
       家族定例会に参加できない方はご参加いただけませんが
       *体調が悪い方や急用がある方は途中でもご退席いただけます。

●「Web講座&定例会 15回コース」
 Webと会場で参加可能 10回

BPD【境界性パーソナリティ障害】・ ADHD【注意欠陥多動性障害】
ASD【自閉症スペクトラム】
それぞれのタイプのパターンを明確にし、それぞれのケースや対処法について
薬物療法についても学びます。

開催時間 Web講座  13:00〜15:00
     家族て例会 15:15〜17:00

2月2日 日曜日(スペシャル刻座と重なるので2月のみ第一日曜日)
タイトル 発達障害と人格障害


3月22日 日曜日 

タイトル 発達障害と人格障害 第二 発達障害とは何か?ASDの本質


4月26日 日曜日


5月24日 日曜日


6月28日 日曜日


7月26日 日曜日 


8月 休み


9月27日 日曜日

第六回 発達障害と人格障害 ADHDのAC


10月25日 日曜日

第七回 人格障害と発達障害 治療とケア


11月22日 日曜日

第八回 薬物療法の特集


12月27日 日曜日


「Webと会場で参加可能メンタライゼーション5回」
*曜日・時間 現在講師と相談中
 土曜日か日曜日か祝日を検討中

 講師紹介 白波瀬 丈一郎 准教授
     慶應大学病院 精神科一般
     慶應大学ストレス研究所
     メンタライゼーション学会会長

開催時間 Web講座  14:00〜17:00

参加条件: 毎月開催される家族定例会に参加する

参加対象者:家族・パートナー・親族・会社の同僚・友人・弁護士・教師
      専門家
      Web講座にメンタライゼーションプログラムが含まれました。
      かなりお得になっている料金設定にさせていただきました!
      医師と家族と当事者の共同治療ともなる画期的な講座となります。
      bpdに大変有効とされている治療法として知られています。
      治療現場で用いられているプログラムが、社会資源の現場で
      メンタライゼーションプログラムが用いられるのは、おそらく
      bpd家族会が初となります!奮ってご参加ください。

      メンタライジングとは、自己・他者の行動の背景にある
      心理(考え・感情・欲求・願望・信念)を理解しようとすること。
      メンタライジングを育てる治療・教育・支援の働きかけを
      メンタライジング・アプローチ)と呼ぶ。

参加費: 15回コース
     8万2千5百円(内訳 Web6万円+家族定例会2万2千5百円)
     *分割支払い(2月と9月 各41,25円)*
     
注意点: 1回のみの参加は受付けていません。
     家族定例会に参加できない方はご参加いただけません。
     *体調が悪い場合や急用が入る場合は途中からでもご退席いただけます。


●「スペシャルゲスト講演会・質疑応答&定例会
スペシャルゲスト講演会 時間 14:00〜17:00
定例会         時間 17:10〜18:00

1月 家族会お休み

2月23日(日曜日・祝日)
後藤健治先生(沖縄県リハビリテーションセンター病院)
web講座担当講師の先生でもいらっしゃいます。
とても難しいと言われている発達障害・bpdなど衝動性の治療に
長けていらっしゃいます。非常に具体的な対処法はご家族からも
大好評です。また、薬の処方も症状に応じて処方しておられ
副作用に再診の注意を払いながら対応しておられる先生です。
このような内容のお話を定期的に聴講されたい方はぜひ
web講座をお申し込みください。

3月20日(金曜日・祝日) 交渉中

4月29日(水曜日・祝日)
松本ちひろ先生 日本精神神経学会 
*2019年に第11回改訂となった国際疾病分類
(世界診断基準)ICD11の改訂に携わった先生です!
 bpd診断が変更しているので最新の理解が得られます!

5月 交渉中(ゴールデンウィーク中予定)

6月  (土・日曜日検討中)
当事者とそのパートナーによる体験談 交渉中
WEBデザイン・数々の著書出版とテレビ出演)

7月23日(木曜日・祝日)
牛島定信先生 ほずみひもろぎクリニック
アメリカの診断基準DSM3に携わった先生です。
数少ないパーソナリティ障害の専門家育成に携わってきた先生です!

8月 家族会お休み

9月21日(月曜日・祝日)
松本俊彦先生 国立精神・神経医療研究所精神保健研究所
       薬物依存研究部 部長
様々な依存に対するご指導をいただけます。自傷・薬物・薬
性・ギャンブル・お金・ネット・暴力・暴言に関する対処法を
具体的にアドバイスをいだけます。

10月 (土・日曜日交渉中)
林直樹先生  帝京大学病院 教授
現在日本で唯一のパーソナリティ障害の現役研修者です。
毎年新しい情報をご提供していただいています。

11月3日(火曜日・祝日)
伊藤絵美先生 アスク・ヒューマン・ケア
       洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長
国際スキーマ療法協会認定 上級スキーマセラピスト
公認心理士・社会学博士・臨床心理士・精神保健福祉士
bpdやうつ病に大変有効とされているスキーマー療法のプロフェッショナルです!スキーマについてじっくり学ぶ機会となります。

12月6日(日曜日)スペシャルトークライブ
遊佐安一郎先生 長谷川メンタルヘルス研究所 所長
対応力向上のための講師として毎年担当していただいています。
アメリカの技法を日本に導入された方でもあります。
当事者とご家族により添い続ける尊敬できる先生です。

松本俊彦先生  国立精神・神経医療研究所精神保健研究所
        薬物依存研究部 部長
現在、薬物の問題報道が頻発しています。
メディアや取材や講演依頼で多忙な日々を過ごして
おられる先生です。厚労省とのつながりもあり、国際レベルで
活動しておられる先生です。薬物やその他のアディクションと
いう難しいテーマ研究に長年携わり、現在必要とされて
いる問題対策に携るドクターです。

伊藤順一郎先生 特定非営利活動法人地域精神保健福祉機構代表
        元国立精神・神経センター精神保健研究所社会
        ふっき相談部部長
        長年、家族と当事者に寄り添いリカバリーに
        力を入れ国レベルで関わってこられた先生
        です。
植村太郎先生  神戸労災病院 部長
        患者と家族や関係する重要人物を交えて
        対話による治療法オープンダイアローグを
        日本の医療にと入れることに力を注いでおられ
        ます。家族を度外視してしまう日本の医療に
        このような治療法が取り入れられることを
        切に願います。植村先生は日本家族療法学会
        の評議員も担当しておられます。

参加条件: 当家族会は会員申し込みはしていません。
      どなたでも自由にご参加いただけます。
            

申し込み対象者 :家族・パートナー・親戚・友人・会社の同僚・弁護士・教師
         専門家

参加費:  10回コース 6万円(分割払い有り 2月と9月 各3万円)
     
注意点:  講座終了後の定例会にご参加いただくこと。
      *体調が悪かったり、緊急な用事がある場合は退室いただけます。

*参加ルール事項(必ずお読みください)*
(自助グループとは)
自助グループとは何らかの障害・困難や問題、悩みを抱えた人が
同様な問題を抱えている個人やご家族がつながり、
専門家無しで力をつけて育ててゆくことが本来の目的となります。
最近、講座・トレーニング&質疑応答が終了した時点で
帰ってしまうという傾向が見受けられるようになりました。
本来の定例会の目的と逸するものとなります。そのため、本来の
当家族会も定例会の目的を1から見直し、ご家族の皆様にも今一度
自助グループの目的を見直していただいてご参加いただければと思っています。

また、専門家や先生方にもお願い致します。
講師依頼・スキルトレーニング依頼の営業目的でご参加することをお控えください。
家族との交流は一切なく、講師のみ近づいて名刺交換などの交渉行為を
ご家族の面前でマナーの欠けた行為にとても心が痛みました。
衝動性に関する疾病やbpdや発達障害についてより理解を深めたいと希望して
おられる方、現在のお困りになっているご家族の支援に心から寄り添い、
支援協力をしていただけるご専門家のご参加を心よりお待ちしています。

申込アドレス 事務局 bpdfajimu@yahoo.co.jp
*事務局のスタッフは女性2名で対応しており、奥野は基本対応しておりません。
奥野個人に相談されたい方はbpd_chair@yahoo.co.jpまでご連絡ください*

皆様のご参加お待ちしています!
bpd家族会代表 奥野栄子

アイシャ ー 複数の視点を織り込んで

  15歳のアイシャは、彼女の父親と継母、弟妹と一緒に暮しています。アイシャの継母は、アイシャとの関係をなんとか築き上げようと懸命に努力してきました。アイシャの継母は、しばらく家にいて状況が落ち着いたように思われると、MBA(ビジネス)の学位取得をめざす決心をしました。アイシャの継母は、自信に満ちた真面目なタイプの人で、大学院での授業に没頭しました。

  アイシャの父親は物静かで思慮深い男性で、家庭生活における平和と調和を重じていました。彼は、自分の娘が周期的に感情を爆発させるためしばしば困惑し、娘の自傷については腹を立てていました。

  家族との喧嘩の後で自傷したことから急遽入院したアイシャについて父親は、「今は妻が学業に追われて平日子どもたちと一緒に過ごす時間がまったく取れない時期なのです。大学院に通いながら上手にやりくりしてフルタイムで家事をこなすのは容易ではありません。アイシャはそれを理解して妻の関心の的になろうとするのをやめる必要があります。」と言います。

  アイシャの継母は続けて言いました。「自傷はたいてい決まった時期に起こります。試験期間が近づいているか、あるいは私がレポートの締め切りを抱えている時期が、アイシャが自傷をするだろうと私たちが大体の目星をつけられる時期です。アイシャの行動はすごく予想がつきやすいんです。あの子はただ四六時中、私の関心を引きつけておければそれでいいのです」

  「そんなの嘘よ!」アイシャがすすり泣きながら言いました。「私は、お継母さんの関心なんて求めてないわ。私は自傷をした時に向けられる関心なんて大嫌いなんだから。私は自傷をやめるためにあらゆることを試してきたのよ。でも本当にやめられないのよ!」

  アイシャが自分の両親から誤解されていると感じていることは明らかでした。しかし彼女は、自分の自傷に対して明確な説明をすることができなかったのです。そのため彼女の両親は自らの視点を断固として揺るがすことなく、アイシャはいかにも虚しい否定をしているようでした。この行き詰まりに、誰もが欲求不満と緊張を感じていました。


  このような状況にうまく対処するための鍵は、その状況から一歩下がって、より多くの情報の収集に専念することです。重要な考えは、自分の視点から離れて目の前の状況に純粋な好奇の目と関心を寄せることです。子どもの視点を取り入れ、子どもの立場で真実を見つけることに取り組んでください。

  アイシャの家庭の様子をもう少し見てみましょう。アイシャの継母は言います。「私にとって、家庭は本当に最も大切なものです。でも学業に関心を向けなくてはならないと、私は自分の時間をどうやってやりくりしたらいいのか、綱引きになってしまうのです。私はそのようなとき、かなりイライラし、気が短くなってしまうことがあります。」

  アイシャの父親は言います。「緊張が高まる期間になると、妻の邪魔をしないよう私たちは家族全員が腫れ物に触るようになるように思います。おわかりでしょうが、何か一つ間違った動きがあろうものなら、娘はとかく人に食ってかかりがちになるのです。」

  彼は、ほんの冗談半分で付け加えました。そこへ、アイシャが話に飛び込んできました。

  「私は、お継母さんがあのすごいプレッシャーに駆られているとき、緊張で本当にもう気が狂いそうに感じます。家中が、私も含めてストレスで震えているようなんだもの。ときどき私は、それに本当に耐えられなくなってしまうことがあるわ」

  自傷をすると、あなたはそれらのすべてのストレスからいくらか解放されるということ?と尋ねると、「そうです!」とアイシャは即座に答えました。


  アイシャの自傷を招いているのは関心を求める彼女の願望ではなく、むしろ家の中の緊張に対する彼女の反応であることは明らかでした。アイシャは、恐ろしいほどの精神的緊張を逃れ、ホッとするための方法として、自傷を用いていました。自分自身の立場を改めて見つめ直せたとき、ようやくアイシャの両親は、娘に対して心からの同情をもって応じることができました。そして彼女の自傷が果たしている役割を理解したとき、彼らは家の中で生じる緊張にうまく対処する、より良い方法を考え始めることができたのです。


次回は「ジャニーヌ ー 子どもの感情的経験をありのままに受け容れる」を紹介します。



「自傷行為救出ガイドブック ー弁証法的行動療法に基づく援助ー」 マイケル・ホランダー著

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