2020年1月アーカイブ

感情的脆弱性は痛みをもたらす

  ここで、極度に感情が脆弱であるとはどのような感じなのかを理解するために行っていただきたいことがあります。人生で物事がうまくいってなくて、多くの感情を経験していたときについて考えてみてください。

  私に関して言えば、数年前のある時、働いていた会社が倒産しかけていて眠れなくなり、関係者も皆動揺していました。私の感情は瀬戸際にありました。その時、友人が亡くなりました。その時点で私の経験していた全感情が肌を突き破って出てきそうな気がしました。もう一つ何かが起きたら、感情で爆発しそうだと身体で感じていたのです。私は同情や理解を望みませんでした。なぜなら、誰かが何か親切なことや理解あることを私に言ったならば、自分がバラバラになってしまいそうで怖かったのです。どのような理由であっても、誰に対しても、簡単に腹が立ってしまいました。未来についての恐れがあり、友人のことでは悲しく思っていました。スポンジのように私は感情で膨れ上がっていました。その多くの感情の真っ只中にあったある日、あらゆる感情的苦痛のせいで皮膚が文字通り痛んでいたとき、私はこれが、BPDをもつ私のクライアントでは毎日の人生における経験なのだと認識したのです。

  次のようなイメージも試してみてください。感情的脆弱性の奴隷になった状態とは、今すぐ出かけなければならないのに、車の鍵が見つからず、気も狂わんばかりになっているような感じです。鍵を求めてあらゆる場所を探して、どんどん気がおかしくなっています。次に何をすべきかわからず、今にも爆発しそうに感じています。これが内側から見たBPDです。


  現実には、BPDをもつ人にとっては感情はあまりに激しく、あまりに簡単に火がつき、あまりに長引くので、彼らは惨めに感じています。時にBPDをもつ人は感情を抑える方法を発見します。自傷、自殺企図、飲酒、薬物使用、過食、下剤使用、その他の問題となりうる行動は、感情を急速に静めて安堵感をもたらすという機能があるのです。このような行動は瞬間的には苦痛を緩和するという事実があるため、やめさせることは非常に難しいのです。

  ここに注目すべき点があります。世の中には感情的に過敏な人がたくさんいます。私たちは他人の感情を容易に経験できるので、通常とても共感的です。けれども、私たち全員がBPDを持っているわけではありません。ですから、感情的であることは、BPDを構成するうえで要求される唯一のものではないのです。もう一つ、非承認的な環境というものがあります。



次回「非承認的な環境」を紹介します。


「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

  BPDをもつ人の感情的脆弱性の第三の領域は、ベースラインに戻るのに生理学的に時間がかかるというものです。長い間、落ち着きを取り戻せないのです。物理的に、感情が脳内で他の人よりも長く燃えさかるのです。平均的な感情の強さをもつ人では、感情は12秒間ほど燃えています。BPDをもつ人では、感情が二割分長く燃えるという証拠があります。

  あなたが経験した感情で強烈なものについて考えてみてください。その感情を終わりにするのにどれほど長くかかったでしょうか。それからそれを実際の経験より二割分長く経験したと思ってください。今度は元々の感情が収まる前に別の感情が発火し、その第二の感情もさらに長くとどまると考えてみてください。これが続くのです。

  長い時間動揺したままになり、動揺したまま振る舞い、自分自身や他人を非難したり、極度の絶望や自己嫌悪を表現したりします。それに対してあなたにできるリアクションはほとんどすべてがBPDをもつ人の感情を温度計の頂点に戻してしまうのです。


  時々功を奏するのは、少しの間どのようなリアクションも先延ばしにして、あなたの愛する人に高ぶった感情を静めさせるための時間を与えることです。私のオフィスに来て、すべてを批判として聞き、私が何を言おうともますます怒るばかりだった女性は、私が黙り込んだときにやっと自分の感情が沈静化するのを感じ始めました。


  ある別のクライアントは、前回の私との面接以来、私に対してひどく腹が立っていたので、セラピーをやめてしまう計画と、「自分が本当に猛烈に怒っていることを先生に見せつけるためだけのために」自殺する計画の間で行ったり来たりして丸一週間を過ごしたと言いました。この怒りに関して、私にとって衝撃だったのは、彼がそれを丸一週間も経験していたということでした。怒りがそれほど長く続くためには、感情を再発火させなければならなかったはずです。先に述べたように感情はおよそ12秒間持続しますが、脳内で着火されればいつまでも消えません。道で割り込んできた人のことを考えてみてください。「あの馬鹿野郎め。あんなことをするなんて信じられん」と考えてその怒りを煽り続けていれば、2時間後でもその人に対して怒っている可能性があります。あるいは車を見るたびに怒りが再燃する可能性があります。


  私たちが怒りを再燃させる方法というのは、私たちを怒らせた人について考えることです。私たちは皆がこれ ー 侮辱を蒸し返して、また一から腹を立て直す ー をやっています。この男性がその一週間、私が言ったことを執拗に思い起こして大量の時間を費やしたことは間違いありません。私は次の面接のための宿題を出していました。宿題の用紙を見るたびに、彼の怒りに火がつきました。私の名前を耳にするたびに彼の怒りは燃え上がりました。夜、就寝時、彼はベッドに横になって、私にどれほど怒っているかについて考えたのでした。怒りを呼び覚ますものには外的なもの(私と同じ名前を聞く、宿題の用紙を見る)と内的なもの(私について考えること、面接時の記憶)がありましたが、すべてがその週の間にその感情を増大させるうえで役に立っていたのです。



次回は「感情的脆弱性は痛みをもたらす」を紹介します。



「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

感情的反応 : 強度が桁外れ

  ある女性は感情的に苦しくなっては、夫と子どもを残して家を飛び出し、自殺すべきかどうか考えながら何時間も車で走り回るのでした。3回にわたり、ホテルにチェックインして、薬を大量服用し、たくさんのジンを飲みました。最終的に、彼女と夫との関係は壊れてしまいました。両親の家に移り住み、親とも同じことが起こりました。家族との関係もなくなったことから苦しい思いをしています。恥と悲嘆は彼女がより大きな感情的リアクションをする原因になっています。

  この女性のような人は、きっかけとなるものに対して感情的に非常に敏感なだけではなく、平均的な人よりも強烈な、非常に強いリアクションをするのです。ほとんどの人が「悲しみ」になるものが、圧倒されるような「絶望」になります。怒りになりそうなものは激怒になります。気恥ずかしさになりそうなものは屈辱になります。感情の強度が桁外れであり、そして通常、感情表現もまた桁外れです。

  BPDをもつ人の過敏さとして私たちがこれまで考えてきたものは、実際には感情のベースラインの高さであることが示唆されるようになっています。大半の人の基本的な感情状態が0点から100点の尺度で20点であるとしたら、BPDをもつ人は常に80点であるということです。常に感情的な覚醒状態にあり、それゆえに大きなものにでも小さなものにでも感情的反応をする準備が整っているということです。他の人であれば20点から30点へと動かす状況が、あなたの愛する人を80点から90点へと動かします。今や感情のほとんど最も極端な地点にいるのです。


  私たちは誰もが怒りを経験します。怒りの感情をもつべきではないと期待するのは、誰に対してであっても不公平です。ですから、問題はあなたの愛する人が怒りを経験するということではないのです。問題は、感情的リアクションの強度です。極端な感情的リアクションのせいで、他の人との関係維持はとても困難になります。

  感情的リアクションが桁外れのときでも、その人は故意に制御不能となり、配慮を失っているのではないのだということを思い出してください。その人には、生まれつきハイパワーの感情エンジンが自分ごと暴走しないようにしておくだけの技能がないのです。



次回は「ベースラインへの回帰の遅さ : 長居しすぎる感情たち」を紹介します。


「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

感情の過敏さ: すばやく引き金を引く指

  ある女性は、高校の芸術教員としての仕事を学期の途中だけれど辞めるべきかどうか、答えを出そうとしていました。この問題を解決するために何を考慮する必要があるのか、彼女が考え出せるように力を貸しました。教えることをやめたいのか? 芸術を教えたくないのか? 契約した学年中に辞職することの影響はどのようなものか? 彼女は私にとても腹を立てました。私は話を中断し、彼女がどう感じているかわかっていると伝え、彼女の経験のどの部分が理に適っていて賢明であるかを伝えようとしました。彼女はますます怒りました。私が彼女の問題を理解していて、それは彼女が愚かであることを意味しており、私がそれを考えつくのに短時間しかかからなかったことに、彼女は怒っていたのです。私は、時として外から見る方が簡単であり、問題をどうするか考えることはフラストレーションがたまるものだ、と伝えようとしました。すると彼女は意気消沈し、涙ぐんでしまいました。最後に私は言いました。「ここで何を言ったらよいのか、どうにもわかりません。あなたの力になり、希望を与えたいのですが、うまくいっていません。あなたを助けるために私に何をしてほしいですか?」。この時点で、一つの問題に答えを出してもらおうと思ってここに来たのにと言って彼女は激昂し、私がそれに対して仕事をきちんとやっていないと言いました。


  これが感情がどんなに敏感であるかを外から見た姿です。彼らの感情に火をつけてしまったものに対して、あなた自身には感情的リアクションは出てこないでしょう。この事実のせいで、そもそもの引き金を特定することが本当に困難になります。そこで、あなたは不意打ちをくらったように感じるでしょう。このような場合、ちょうどあなたと同様にあなたの愛する人自身も、この過敏さに困惑しているのかもしれないのです。しばしばBPDをもつ人は、なぜそのような感情を経験しているのかわからなくて、感情を押さえ込もうと葛藤していることがあります。


  クライアントの感情が沈静化して、次に進めるようになってから、私は彼女の話を聞くことにしました。予定より早めに彼女が私のオフィスに入ってきたとき、私はメールを打っていました。彼女に座るようにと身振りで示して、送ろうとしているメッセージの中の一文を打ち終えさせてくれるように頼みました。私がメールを書き終えて送信する代わりに、書くのを中断して面接を開始しなかったので、彼女はひどく傷ついていました。けれども、彼女はその時激しい感情に飲み込まれてしまって、何が感情をかきたてているのか全くわかっていなかったのです。そして、感情的になればなるほど、それはより激しいものとなり、さらなる感情がわき起こったのです。


  このような経験をしている人にとっては、感情が「ナンセンスである」からといって、そのスイッチをただ切るというわけにはいかないのだと理解することが重要です。感情の過敏さにより、そのきっかけになるものにリアクションし、そのリアクションにリアクションするように仕組まれているのです。

  問題は、これによりあなたが混乱してしまい、今や自分の経験も信頼できなくなるということです。その人の感情的リアクションの原因になるだろうと予測されることを話し合わなければならないときには、実際に恐怖を感じる可能性があります。これが2人の関係にストレスを与え、ゆくゆくは関係の終結を引き起こす可能性もあるのです。



次回は「感情的反応 : 強度が桁外れ」を紹介します。


「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

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