2020年3月アーカイブ

まとめると

  少しおさらいをしましょう。


  第一に、私たちはBPDの発症に対して生物社会学的理論を用います。BPDをもつ人は感情的な脆弱性をもって生まれたという意味です。頻繁で、容易に発生し、長く続く、巨大な感情を抱えているのです。けれども、感情的に脆弱な人が皆成長してBPDをもつようになるわけではありません。必要となる第二の材料は、非承認的な環境です。非承認的な環境とは、子どもの私的な経験が罰せられ、不正確であるとして扱われ、無視され、否定され、感情の調整方法を教えてもらえない環境です。

  感情を調整するためには、次の四つのことが必要になります。⑴感情を引き起こしているものと関係がないことをする。⑵身体を調整してダウン、又はアップさせる。⑶現在の気分や感情に関わる行動をしない(感情に流されない)。⑷感情とは独立した目標ある人生を送り、その瞬間にそれに焦点を当てられるようにする。最後に、もしあなたの愛する人が感情的に動揺しているのであれば、生物社会学的理論が、なぜそのように反応しているかの答えであることを思い出してください。


まとめると、ここに生物社会学的理論を包含した、すべきことの提案があります。


1査定する  何が起きたのか質問する。

2積極的に耳を傾ける  論駁したり、価値判断したり、過剰反応していると言ったりしない。

3承認する  起きたことの中に何か理に適っていて理解可能なもの、共感できるものを見つける。それが何なのかを言う。

4、問題を解決するためではなく、その瞬間を乗り切るために力になれるかどうか問う

5あなたの愛する人がノーと言えば、その人をそっとしておき、感情的に脆弱な人の感情は長く続くことを思い出す。


  これは単純なことのように聞こえますが、白熱している瞬間には実行するのが必ずしも容易でないことは明らかです。後の章でもすべきことをたくさん提案しますが、最初はいつも同じです。査定する、答えを聞く、承認する、です。これから始めれば、非承認的にならずに聞いてくれる人がいるという経験からだけでも、愛する人の感情は何度となく少し静まるようになるでしょう。


次回「承認の隠されたパワー」を紹介します。


「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

今、何を?

  大事なのは、「今、何をするか?」です。

これまで紹介してきたものは、境界性パーソナリティ障害の生物社会学的理論と呼ばれるものです。そして今現在、あなたがこの理論について知る必要のあることは、それが次の二つに直接つながる回路を開くということです。一つは最善の治療です。もう一つは、あなたがとても大切に思っている人と関わるための新しくて有益な方法です。


愛する人を、その人が感じている気持ちから、言葉の力で脱出させようとしない

まずは、感情の過敏さいついて知っていることを覚えておくことです。きっかけとなるものを否定してはなりません。言い換えると、たとえその人の気分を改善するつもりでそうしているとしても、愛する人に、過剰反応しているとか、動揺「すべきではない」と言わないようにします。


あなたの愛する人の感情的な「壊れやすさ」を包容するために、あなたの世界を作り直さない

BPDをもつ人が何かに対して動揺しているときに、あなたはしばしば助けとなるような反応を試みます。そしてそれが裏目に出るのです。あなたの愛する人はもっと動揺したり、あなたに腹を立てたりします。時間が経てば、あなたはその感情に疲れもし、恐れもし、愛する人を動揺させない世界を創造しようと試みるかもしれません。しかし、それはやめましょう。BPDをもつ人が生き延びていく唯一の方法は、感情が制御できるようデザインされた人工的な世界ではなく、この世界での生き方を学ぶことなのです。


あなたの愛する人が行う必要のある、感情調整という課題を理解する

感情調整が何を意味するか、また、あなたの愛する人が充実した人生を送り、その人にとって非常に重要な関係を維持するために、何を学習しなければならないか、という二つの点を正確に理解することは大切です。感情を調整するためには、私たちは皆、次のことができなければなりません。

・注意の方向を変える(気を紛らわす)

・生理的覚醒度を上方調整または下方調整する。感情調整は、覚醒度が増した場合(怒り、恐れ、うんざり)にはそれを低減させ、減った場合(悲しみ、恥)には増加させることを要求します。

・何であれ、感情と気分が命じる行動をとらない。

・感情とは独立した、目標のある人生を過ごす。


  では一例をあげましょう。あなたの愛する人は上司に激怒して帰宅し、とても嫌な日を過ごしたことについて気持ちを落ち着けられないでいます。あなたの得た新しい理解で、どのように対処できるか、試してみましょう。

1、何が起こったのか質問して、論駁したり、価値判断したり、その人のリアクションの強度についてコメントしたりせずに耳を傾けましょう。

2、それから、その人の言ったことで、もっともだと認められる点を探しましょう。「上司に批判されたと感じたら、自分も怒るだろうな」とか「本当にひどい1日だったようだね。息抜きの時間が必要だろうと思う」などと言って認めてあげましょう。

3、それから何か気晴らしを提供して力になれるかどうか質問しましょう。その人の感情の引き金となるようなことを含まない何かをしましょう。


  けれども、あなたの愛する人があなたからの助けを受け入れる状態になく、その人の役に立ちそうなことを何も提案できない場合はどうなるでしょうか? 可能であれば、そのままにしておきましょう。感情的に敏感な人たちの感情的リアクションが際限なく見えても、それ以上のきっかけが出現しなければ終わりになることを思い出してください。このような瞬間にあなたができるのは、忘れるべきだ、過剰反応している、無作法だ、などと伝えて、さらなる非承認を行わないようにすることだけです。

  適切な反応への鍵は、査定です。その人の内的経験についての質問をして、愛する人の言っていることをふるいにかけたり価値判断したりせずに、その答えを聞くのです。


変化はあなたの愛する人にとって苦痛であるだろう、ということを知る

BPDの強烈な感情のあり方は、重症の火傷を負っているようなものと考えてください。自分自身の動きが激痛を与えるばかりでなく、誰かが近くを通るときの空気の力でさえも痛みの原因になり、その痛みは際限なく続きます。BPDをもつ人の感情も、巨大で、長く、実に長く続く感情的反応を抱えているのです。

  最も有効な治療は、しばしば長期の痛みを引き起こします。弁証法的行動療法は、おそらく長年にわたり苦痛を緩和してきた手段(アルコール、薬物、自傷、自殺企図、無防備な性行為、八つ当たりなど)を断念するように求めます。その代わりに、弁証法的行動療法は感情の調整の課題をこなすために必要となる技能を授けるのですが、これは「長旅」となる可能性があり、非常に多くの苦痛の原因となってきた感情を経験しなければなりません。しかし、簡単とは言えませんが、弁証法的行動療法の提案を使えば、事態は改善するでしょう。


次回は「まとめると」を紹介します。


「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著




  これまでご紹介したように、BPDをつくりあげるには二つのものが一緒になることが必要です。生まれつきの生物学的に高いレベルの感情を持つことと、子どもの内的経験を罰したり、軽く扱ったり、無視したりして、感情の調整方法を教えない非承認的な環境です。一種の「鶏が先か卵が先か」の論争のようなもので、どちらが先かは問題ではありません。

  子どもの過敏な感情レベルもまた環境に影響します。ビリーは母親と姉と一緒に食料品店にいます。シリアル売り場で、ビリーはお母さんに砂糖たっぷりのシリアルが欲しいと言います。お母さんはだめだと言います。ビリーはそのシリアルが欲しいと泣き始めます。お母さんは困惑し、ビリーを黙らせようとします。ビリーはもっと大声で泣きます。お母さんはとうとうビリーを抱え上げるようにして店を出てしまいます。姉にとっては今、お店での経験全体が変容してしまいました。当惑しながら姉は店を出て、食料品でいっぱいになったカートがどうなるのか不思議に思いながらビリーとお母さんを追いかけます。買い物は終わりました。

  発生したのはお母さんとビリーの間でのやりとりでした。ビリーの感情が母親の感情に影響し、それがビリーに影響しました。これが家族内で繰り返し発生するのです。子どもと環境は絶えず相互に影響を与え合っているのです。


  さて、ビリーには次に何が起こりうるだろうかと考えてみてください。もし母親が、ビリーが泣き叫ぶことに困り果て、ただ彼を黙らせたいと望み、彼の望むシリアルをつかんでそれを彼に押し付けるとしたら、何が起こるでしょうか? ビリーは泣きやみ、買い物を続けることになるでしょう。このことでビリーは、食料品店で泣くことへの強化を受けることになるでしょう。彼はそれに気づいていませんが、感情的反応をエスカレートさせると欲しいものが手に入るという結果になることを学ぶのです。このように、子どもとその環境は時間をかけて発達していきます。環境は感情に反応し、感情は環境を変えます。子どもが何かに動揺し、家族は自然と反応し、それが子どもを動揺させ、それが家族を反応させる...というわけです。



次回は「今、何を?」を紹介します。


「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

他の虐待と犯罪行動

  他の非承認的な環境としては、身体的虐待や心理的虐待がある環境や親が物質乱用をしていたり、犯罪行為をしていたりする環境があげられます。

これらの状況では、しばしば家族メンバーが子どもの経験を罰したり、軽視したりします。

  これは常に、「泣くのはやめろ、そうでないと俺が泣きを見させてやるぞ」と言っているような家族です。このセリフについてちょっと考えてみてください。子どもがある状況(多分誰かがその子の気持ちを傷つけることを言ったのです)に対して感情的リアクションをします。

  その子の内側に悲しみがわき起こり、涙は悲しみの生理的表現なので、目に涙が浮かんできます。そこで大人がその悲しみに対する正当な理由はないと伝えます。こうして子どもの内的経験は否定されます。子どもは感情的に過敏なので、感情をもたないようにと学びはしません。自分自身の感情経験は信頼できないのだ、間違っているのだと学ぶのです。その影響で、その子は感情的でなくなるどころか、もっと感情的になります。そして、自分自身の感情がわからず、それに命名できず、封鎖しようと試みるが、自分の感情に良い悪いという価値判断を下す(あるいはその両方をする)人へと成長するのです。


次回は「感情的に敏感な子どもは環境にも影響を与える」を紹介します。


「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

性的虐待

  あらゆる環境の中で最も非承認的な環境は、子どもが性的に虐待されている環境です。子どもが直感的に正しくないと知っているような方法で大人が子どもを扱い、それから子どもにこれは秘密だと言ったり、子どもがそれを楽しんでいると言ったりします。子どもは大人に痛いとかそれはしたくないと言うかもしれませんが、大人は応じず、子どもに虐待を続けます。その子や他の人に害を加えるという脅しさえもあり得ます。子どもは反応を押し殺し始め、大人は自分より多くを知っているのだからと自らに言い聞かせ、自分自身の現実の経験を否定し始めます。


  BPDを発症するすべての人が性的虐待を受けたわけではないと知っておくことが重要です。研究にもよりますが、BPDを発症する人の4075%が子どもの時に性的虐待を受けていたという報告や、2575%が身体的虐待を受けていたという報告があります。


  子どもにとってさらにひどい痛手を与えるのは、子ども時代か成人になってから、家族メンバーか他の誰かに虐待の話をして無視をされるか、でっちあげだと非難されてしまうケースです。私はこれを何度も目にしてきました。BPDをもつ成人が「本当のことを告白する」と決め、誰が子ども時代に自分を性的に虐待したのか家族に告げます。家族は基本的に内部崩壊し、その人は嘘つきだ、注目を求めている、家族の分裂を引き起こそうとしているのだ、と非難されます。結果として、さらなる非承認が起きます。この事態がどうにも厄介なのは、次のような理由によるものと考えられます。子どもは虐待が発生しているとき、そして事後においてさえも、親や家族は何が起きているのか知る由もなかったのだと考えて、しばしば自分自身を守ります。知っていたならば止めていただろうからというわけです。その後、その人が自分は話しても信じてもらえなかっただろうと認識すると、大打撃は完成に至るのです。私は、これが発生した後に多くの人が自殺を試みるのを目にしてきました。


次回は「他の虐待と犯罪行動」を紹介します。


「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

不在の親

  非承認的な環境は、親が不在という環境であるかもしれません。これは自発的な事態かもしれませんし(親がいつも働いていて子どものために在宅することが全くない)、強制された事態かもしれません(親が戦争に送り出されたなど)。現実はというと、子どもは行動のモデルを示す大人が周囲にいないと、感情の調整を学ぶことができません。

  以前、BPDの発症についての質問を抱えて来た人がいました。彼女は決して虐待されたことはないし、親とは良い関係にあると言いました。しかしながら、彼女は極度の孤独に苦しみ、多くの身体的不調を訴え、十年間も自殺傾向にあり、拒食症状がありました。この家庭での問題は、彼女より二つ年下の弟が幼少時に脳腫瘍を発症したことでした。彼女の両親は弟を複数の病院に連れて行くことに数年を費やしました。彼は非常に困難な外科手術を受け、親は何週間も病院につきっきりでした。

  親としてしなければならないことをしたからといって、誰もその親をとがめることはできません。彼女は家にいて、ベビーシッターや他の家族のメンバーが交代で面倒を見てくれました。この幼く非常に敏感だった少女は、自分が病気の人ほど重要ではないのだと学びましたし、一貫した行動モデルがいて、成長の中で自然にわいてきたり、不治の病の弟をもった結果として発生したりした、無数の感情のすべてをどうすべきかについて教えてもらうことがなかったのです。


次回は「性的虐待」をご紹介します。


「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

このアーカイブについて

このページには、2020年3月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2020年2月です。

次のアーカイブは2020年4月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

home

家族会掲示板(ゲストプック)

家族会 お知らせ・その他

本のページ