大事なのは、「今、何をするか?」です。
これまで紹介してきたものは、境界性パーソナリティ障害の生物社会学的理論と呼ばれるものです。そして今現在、あなたがこの理論について知る必要のあることは、それが次の二つに直接つながる回路を開くということです。一つは最善の治療です。もう一つは、あなたがとても大切に思っている人と関わるための新しくて有益な方法です。
愛する人を、その人が感じている気持ちから、言葉の力で脱出させようとしない
まずは、感情の過敏さいついて知っていることを覚えておくことです。きっかけとなるものを否定してはなりません。言い換えると、たとえその人の気分を改善するつもりでそうしているとしても、愛する人に、過剰反応しているとか、動揺「すべきではない」と言わないようにします。
あなたの愛する人の感情的な「壊れやすさ」を包容するために、あなたの世界を作り直さない
BPDをもつ人が何かに対して動揺しているときに、あなたはしばしば助けとなるような反応を試みます。そしてそれが裏目に出るのです。あなたの愛する人はもっと動揺したり、あなたに腹を立てたりします。時間が経てば、あなたはその感情に疲れもし、恐れもし、愛する人を動揺させない世界を創造しようと試みるかもしれません。しかし、それはやめましょう。BPDをもつ人が生き延びていく唯一の方法は、感情が制御できるようデザインされた人工的な世界ではなく、この世界での生き方を学ぶことなのです。
あなたの愛する人が行う必要のある、感情調整という課題を理解する
感情調整が何を意味するか、また、あなたの愛する人が充実した人生を送り、その人にとって非常に重要な関係を維持するために、何を学習しなければならないか、という二つの点を正確に理解することは大切です。感情を調整するためには、私たちは皆、次のことができなければなりません。
・注意の方向を変える(気を紛らわす)
・生理的覚醒度を上方調整または下方調整する。感情調整は、覚醒度が増した場合(怒り、恐れ、うんざり)にはそれを低減させ、減った場合(悲しみ、恥)には増加させることを要求します。
・何であれ、感情と気分が命じる行動をとらない。
・感情とは独立した、目標のある人生を過ごす。
では一例をあげましょう。あなたの愛する人は上司に激怒して帰宅し、とても嫌な日を過ごしたことについて気持ちを落ち着けられないでいます。あなたの得た新しい理解で、どのように対処できるか、試してみましょう。
1、何が起こったのか質問して、論駁したり、価値判断したり、その人のリアクションの強度についてコメントしたりせずに耳を傾けましょう。
2、それから、その人の言ったことで、もっともだと認められる点を探しましょう。「上司に批判されたと感じたら、自分も怒るだろうな」とか「本当にひどい1日だったようだね。息抜きの時間が必要だろうと思う」などと言って認めてあげましょう。
3、それから何か気晴らしを提供して力になれるかどうか質問しましょう。その人の感情の引き金となるようなことを含まない何かをしましょう。
けれども、あなたの愛する人があなたからの助けを受け入れる状態になく、その人の役に立ちそうなことを何も提案できない場合はどうなるでしょうか? 可能であれば、そのままにしておきましょう。感情的に敏感な人たちの感情的リアクションが際限なく見えても、それ以上のきっかけが出現しなければ終わりになることを思い出してください。このような瞬間にあなたができるのは、忘れるべきだ、過剰反応している、無作法だ、などと伝えて、さらなる非承認を行わないようにすることだけです。
適切な反応への鍵は、査定です。その人の内的経験についての質問をして、愛する人の言っていることをふるいにかけたり価値判断したりせずに、その答えを聞くのです。
変化はあなたの愛する人にとって苦痛であるだろう、ということを知る
BPDの強烈な感情のあり方は、重症の火傷を負っているようなものと考えてください。自分自身の動きが激痛を与えるばかりでなく、誰かが近くを通るときの空気の力でさえも痛みの原因になり、その痛みは際限なく続きます。BPDをもつ人の感情も、巨大で、長く、実に長く続く感情的反応を抱えているのです。
最も有効な治療は、しばしば長期の痛みを引き起こします。弁証法的行動療法は、おそらく長年にわたり苦痛を緩和してきた手段(アルコール、薬物、自傷、自殺企図、無防備な性行為、八つ当たりなど)を断念するように求めます。その代わりに、弁証法的行動療法は感情の調整の課題をこなすために必要となる技能を授けるのですが、これは「長旅」となる可能性があり、非常に多くの苦痛の原因となってきた感情を経験しなければなりません。しかし、簡単とは言えませんが、弁証法的行動療法の提案を使えば、事態は改善するでしょう。
次回は「まとめると」を紹介します。
「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著