承認は私たちの生活に広く行き渡っています。レストランにつながっている駐車場に車を停めたなら、駐車場の係員がチケットをくれて、駐車料金の割引を受けられるようにレストランでそのチケットを「承認」してもらうように伝えるということはよくあることです。レストランの従業員がそのチケットにスタンプを押すとき、その従業員は実際あなたがレストランに行ったと述べているわけです。基本的にはこれが弁証法的行動療法の承認の機能であり、他者の経験のある側面を本物であると認めているのです。
ビル・スワン教授の理論によれば、私たちは皆、「自己構成概念」をもっています。自己構成概念とは、私たちが自分自身をどう見るかということです。いくつかの基本的な自己構成概念があります。自分は何者であるか、人生でどこに向かっているか、何が私たちにとって難しいか、何が簡単かなどです。BPDをもつ人の自己構成概念は多くの場合、制御不能、多くの感情的苦痛を経験する、感情的苦痛を許容できない、他の人にできることができない、自分が何者であるかという感覚がない、というものです。本質的に、先に論じた調整不全の五つの領域が現れています。自らの自己構成概念がネガティブであっても、人々にそれを正しいと認めて欲しい、あるいは承認して欲しいと期待するのが人の本性というものです。私たちは自らの自分自身についての信念に異議を唱えない人に引き寄せられます。
あなたの愛する人が自分は無価値で愛情を受けるに値しないという考えを含むアイデンティティを持っていて、あなたが常にその人に、愛情から、そんなことはない、無価値でも愛情を受けるに値しないわけでもないと伝えると、その人はもっと感情的になるかもしれません。そして実際にその人を無価値であるかのように扱い、時には価値がない奴だととあからさまに言うような暴力的な薬物中毒者との関係に走るかもしれません。その人は、その人への対応の仕方がその人の持っている、自分が何者か、自分の中核とは何であるか、についての感覚と一致する人々に引かれているのです。
時々私たちの社会では「承認する」という語を「同意する」という意味で用いますが、私が「承認」という語で意味しているのは少し違うことです。私が意味しているのは、あなたにとって真に理解可能な行動(思考、フィーリング、行為を含む)の一部分を発見して、それが理解可能であると相手に伝達するということです。あなたはその行動に必ずしも同意してなくてもよいのです。理解可能でなければ承認はしません。
何か承認できることを発見するというのは、本当に困難な場合があります。体重32kgで自分は太っていると言う人のことを考えてみてください。その人が自分は太った人間であるという自己構成概念をもっていることはたぶん真実です。しかしながら、その人が太っていると同意するのでは、承認できないことを承認することになるでしょう。幸運にも、私たちが承認できることがあります。私たちの誰にでも、自分の体重とは無関係に、太っていると感じる日があります。または昨晩食べ過ぎて、体重が増えると心配している日があります。これらの側面を言葉にすること ー 「太ったと感じているのはわかるよ」「お腹が張るのって不快よね」「体重を増やすことが必要だとわかっているときでも、そうすることが心配なことは理解できるよ」 ー が承認になります。その人の言うことはもっともであり、理解可能だと伝達するのです。
あなたは愛する人の「無価値で愛されるに値しない」という自己構成概念に同意しないでしょうが、それはその人の現実なのです。あなたがその人の自己構成概念に反対する、「無価値ではないし、愛されるに値する」という言葉を使って反応したら、何が起きるでしょうか? たぶんその人はもっと動揺してしまうでしょう。あなたはその人を大切に思っているので、「その通りです。あなたは無価値で、愛されるに値しません」とは言いたくありません。承認を使うなら、あなたは次のように言うことから始めるでしょう。「ねえ、君が自分のことを無価値で愛されるに値しないと見ていることはわかるよ、事実はというと、これまでにしたいくつかがそういうふうに感じさせているんだ。人生での失敗のせいで、自分自身に対する感じ方が悪くなってしまったことはわかるよ。でも、僕はきみについて、こういうことを知っているよ......」。ここで、あなたは本当に言いたいことをすべて言えるようになります。その人が基本的にはきちんとした人間であることや、誰もが愛を受ける価値があること等々についてです。最初はその人の自己の経験を承認し、それからあなたが言いたかったことに移っているのがわかりますか? 承認というのは、薬の服用を助けるオブラートのようなものです。感情の覚醒を抑え、台詞の残りの部分が言えるようなやり方で、その人の経験についての理解と認識を伝達するのです。人々の自己構成概念の一部は、時間や経験とともに変化する可能性があります。望むのは、あなたの愛する人が異なる行動によって人生を構築するにつれて、自分の無価値性についての信念も変化することです。
次回は「承認の代わりにやってはいけないこと」を紹介します。
「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著