ジャックは繊細な十六歳の少年です。自傷するようになって約十八カ月になります。彼は、友人が何か困っているときには非常に同情的で思いやりがあるのですが、その思いやりを自分自身に向けることができません。
「僕は、悲しく感じてしまう自分が大嫌いです。そのせいで僕は、こんな弱虫な気持ちになってしまいます。感情なんかまったくなければよかったのに。感情は僕に、僕自身を嫌いにさせるだけです。」
人生における青年期は、ただでさえ子どもたちを非常に混乱させます。しかし、自分が何を感じているのかわからない子どもたちにとって、人生の青年期はよりいっそう混乱させられるものなのです。自分の感情を正確に言葉で描写することができない子どもたちは、自分の行動を導くための重要な下準備がないままその場に取り残されてしまいます。代わりに、彼らは強力で混乱を呈する心の状態を経験します。それは耐えがたく感じられます。すると彼らは、例えば他人にそれを打ち明けるとか自分を落ち着かせるのに役立つ安全な方法を見つけるよりも、自分の心の状態をすぐに別の方向へ変えようと行動します。つまりこうした子どもたちは、感情的に動揺したときに助けを求めることや、自分を落ち着かせるのに役立つ方法を見つけること、もしくはその両方に非常に困難があるのです。次のペネロペの話が具体的にそれを示しています。
「昨夜、私は父とひどい喧嘩をしました。父があんなに馬鹿だとは思ってませんでした。私が動揺しているときに父は助けにならないということを、まだわかっていないのかしら?」ペネロペはそう言いました。
「父は、私が親友とインターネットで会話した後、自分の部屋で泣いているのを聞きつけました。親友が意地悪なことを言ったんです。父は、私がどんな気持ちなのか根掘り葉掘り聞き始めました。お前は怒っているのか、悲しいのか、それとも心配しているのか、というようにね。父が何とか助けになろう、優しくなろうとしてくれていたことは私にもわかるわ。でも私には自分の気持ちがわからなくて、父はそれをますます悪化させただけでした。父はどうしても私を悩ませるのをやめようとしなかったの。どうしたら私がその問題を解決できるかについて、ありとあらゆるアドバイスを与えようとするのよ。それで私は父に、黙っててよ!と金切り声をあげ始めました。とうとう父は本当に腹を立て、怒鳴り散らして部屋から出て行ってしまいました。私はすごく動揺して、自傷せずにはいられなかったの」
もしペネロペが自分の感情を同定でき、自分の感情の激しさを引き下げてくれる何らかの対処策を用意できていたなら、彼女が自傷を行う可能性はずっと低くなったでしょう。簡単で即時的な解決策としては、ジョギングに行く、何か陽気な音楽を聴く、風呂に入るといったことがあったでしょう。もちろんこのような方法では彼女の対人的問題は解決されないでしょうが、それでも彼女が自分の感情を統制し、自分はどうしたいのかを冷静に考え、もしかしたら父親に自分の気持ちを伝えることができるほど十分に落ち着くのにも役立ったかもしれません。
次回は「ネガティブな感情を調理する」を紹介します。
「自傷行為救出ガイドブック -弁証法的行動療法に基づく援助-」 マイケル・ホランダー著