2020年7月アーカイブ

感情を調整するための問題解決の活用

どの状況が強烈なネガティブな反応を引き起こしやすいかを理解すれば、私たちは誰でも、これらの状況を避けるか、もしくはその感情の激しさをより抑えるために問題解決スキルを用いることができます。たとえば、怒りっぽく批判的な義理の姉妹と一緒に過ごしていると自分がカッとなることがわかっているのなら、皆さんは彼女と会う時間を短くするか、または彼女が長々と説教をする可能性が低くなる公共の場所で会うようにすることによって、その問題を解決するかもしれません。

この戦略は自分の感情の強度をより低いレベルに維持する際には有効かもしれませんが、必ずしもすべての状況でそうできるとは限らないでしょう。ときに、実に気に障る出来事が起こることがあるものです。このようなとき、人は瞬間的に高まる自分の感情の温度を低くするために何らかの戦略を必要とします。そうした例の一つは、感情のタイムアウト(ある行動がそれ以上強化されないように、一定の時間、別の場所に移るなどして休止すること)を取ることです。たとえば、パーティの席で誰かが皆さんの感情を傷つけるコメントをしたとしましょう。皆さんはどうしますか? 最も簡単なのは、その場を立ち去り別の会話に没頭することです。このような戦略は皆さんにとって当たり前のことですが、感情的に傷つきやすい子どもにとっては、到底理解できないことなのです。

 

■ライザのドレス

ライザは親せきの家に泊まりに行ったときに経験した困難について話し始めます。

「私は、ジーナが何か私のドレスについて言ったことを覚えています。それがどんなことだったのかわからないけれど、それが私を怒らせたのだと思うわ。」

   彼女は説明します。

「私が覚えているのは、何だかぼうっとなって、たぶん少し悲しく感じたということだけ。私はしばらくの間ただそこに立ち尽くしていたわ。その後トイレに入って自傷したの」

 

ライザには決定的に重要な二つのスキルが欠けており、それが彼女の問題解決の妨げになっています。ライザは、①自分の感情を正確に分類し同定することができず、②自分の感情をもっとよく調整する方法を見つけられるほど十分に明確に考えることができなかったのです。

 

 

次回は「感情の観察と言葉による描写」を紹介します。

 

「自傷行為救出ガイドブック -弁証法的行動療法に基づく援助-」 マイケル・ホランダー著

 

先にも述べたように、自傷を行う子どもたちは論理的思考と推論を司る脳の部分に働きかけるのに他の人々よりも困難があります。研究者たちは、私たちが自分の感情を調整するときに脳がどのように作用するかについて研究を始めています。科学者たちは、ある問題を解決しようとしているときに活動している脳の活動の地図を作るためにfMRI(機能的核磁気共鳴画像法)を利用することができます。ここでは、感情調整についてわかっていることを簡単に説明します。

大部分の感情は脳の偏桃体と呼ばれる部位で起こります。そして状況に応じて、信号が偏桃体から前頭連合野へ送られます。ここは推論に関与する脳の部位です。ここで脳は、その問題について何をすべきかの評価を行うのです。私たちは、ある特定の感情を持たないようにすることはできません。しかし、自分がその感情を経験する強さと時間の長さを変えることならできます。人は自分の感情を調整するために、思考と論理を駆使して試行錯誤しながらいくつかの戦略を発達させてきたのです。

自分の感情に迅速な対応が求められる危険が目の前に迫っていると仮定しましょう。たとえば、腹ペコのライオンが今にも襲ってきそうだとします。この場合、恐怖という感情に私たちは迅速な対応をすること、すなわち自分の命を守るために走ることができるでしょう。私たちが自分の感情を調整するために利用できる方法やスキルはいくらでもあるのです。

どの感情調整戦略も、まずは自分の感情を正確に分類し、同定することから始まります。感情調整戦略はすべて、自分が感じることをありのままに受け容れ、承認することに基づいているのです。感情統制は、①その感情を自分から進んで持つこと、そして②その調整に取り組むこと、が関係します。自分の感情を受け容れることができない、あるいは受け容れようとしないとき、私たちはそれらをぐつぐつ煮込むか、効果のない行動へと衝動的に走るかのどちらかによって、必然的にその状況を悪化させてしまうのです。

 

 

次回は「感情を調整するための問題解決の活用」を紹介します。

 

「自傷行為救出ガイドブック -弁証法的行動療法に基づく援助-」 マイケル・ホランダー著

 

気分依存性

自分の感情を調整できれば、カッとなったり、落ち込んだりする気分を回避しやすくなります。この能力が欠けている子どもたちは気分に依存しやすい傾向があります。つまり、彼らが自分の責任をどれほど有効に果たせるか、ある出来事を彼らがどのように経験するかは、彼らの気分次第だということです。たとえば、彼らは気分が良いときにはきっと用事を済ませ、学校の宿題を終えることができるでしょう。あるいは長時間車に乗って祖父母の家へ行くのも楽しめるでしょう。ところが気分が悪いと、彼らは何一つとして成し遂げられず、楽しめる可能性もある出来事すら、ネガティブな感情によって台無しにされてしまう可能性があります。

子どもの行動が彼らの気分に依存している場合、皆さんは、子どもが抱えている問題は彼らが自分の感情を調整できないことに関係していることを理解しがたく感じるかもしれません。見た目には、気分に依存した行動と、やる気がないことや強情を張って従おうとしないことの間にあまり大きな違いはないからです。さらに悪いことには、そのときはそれがよい考えのように思えたという以外、子どもはしばしば自分の行動を説明できないことがあります。たとえば、学校をさぼってTVゲームをすることは、子どもにとってそのときにはよい考えのように思われたかもしれないのです。

子どもが気分に依存しているかどうかを判断するのを助けるために、次の質問について考えてみてください。

 

   皆さんの子どもは、気分が落ち込んだときに成し遂げられることと、比較的気分がよいときにできることとの間には、大きなギャップがありますか?

   皆さんの子どもは、自分の気分を抑えて、適切で効果的な解決策を選ぶことができますか? それとも安易な道を取りますか?

   皆さんの子どもは、面倒な仕事を片づけるために自分の感情を「手放す」ことができますか?

 

私たちは誰しも、比較的落ち着いた気分のときには自分の仕事を成し遂げるのをより容易に感じます。しかし気分に依存している子どもたちは、落ち着いているか動揺しているかによって、何であれ、それを成し遂げる自分の能力に大きな違いを経験するのです。彼らは生活上必要なことが滞ると、状況をますます悪化させてしまいます。そして嫌な気分をさらに増幅する可能性を高めてしまいます。

 

 

次回は「脳の中では何が起こっているのでしょうか?」を紹介します。

 

「自傷行為救出ガイドブック -弁証法的行動療法に基づく援助-」 マイケル・ホランダー著

 

事態を終結させるための感情調整

より落ち着いた気持ちになることへ向けて、あるいは課題を終了させる必要へと向けて歩んでいく道のりを踏み誤ってしまうと、「嫌な」気分が発達します。自分の感情の激しさを和らげ、そのような気分が生じないように回避するスキルを感情調整スキルと呼びます。十分に練習を積めば、誰でもこのスキルを習得できます。もし皆さんが、幼いころからずっと悲しみや怒りを感じた後、その気持ちを落ち着けるのに問題を抱えてきたならば、皆さんの子どもが感情調整に問題を抱えているかどうかを判断するために、次の質問について考えてみてください。

 

1、          皆さんの子どもは、引き金となった出来事が過ぎ去ってからも長々と嫌な気分に「はまって」、身動きできなくなっているようですか?

2、         皆さんの子どもは、動揺したとき、他のどんな大人の助けも拒み、皆さんの助けを「必要」としますか? しかし他のときには、皆さんが手を差し伸べても助けを拒みますか?

3、         皆さんの子どもにとって、悲しみや怒りを感じているときに新しい活動へと移ることは極めて難しいですか?

 

これらについて考えるとき、ある経験を思い出します。それは私が40代で、腕試しに自転車レースに挑戦してみたときのことでした。私は、私よりも少し年上でしたが、かつてオリンピック競技の選手だった男性と一緒にトレーニングする機会を得ました。実を言うと、私は週に彼よりも多くの時間と距離を走りこんでいました。しかし私はどうしても彼に遅れずについていくことができなかったのです。それは練習の問題ではなかったのです。彼はもともと私よりも自転車に優れていたのです。言い換えれば、彼は生まれつき、より優れていたのです。皆さんにとって比較的習得が容易だったことと、習得するのに苦労したことについて考えてみてください。そうすればここで私が何を言おうとしているのかお分かりいただけるでしょう。

もともと感情的反応性が高い人々は、自分の感情調整能力を発達させるためにより努力しなければならないのかもしれません。実際のところ確かなことはわかりません。感情調整をより容易に、あるいはより困難にする生得的因子があるのかもわかっていません。わかっていることは、自傷を行う子どもたちのほとんどは感情的反応性の最も高い一群の人であるということです。彼らは自分の感情を調整できないとき、早急に決断を下し、それによってもたらされる衝動的な行動の餌食となり、対人関係で無力となる可能性がより高くなるのです。

自分の感情を調整するために、子どもは論理的思考と推理力をコントロールする脳の部分を活性化する必要があります。それは子どもを自分の感情にふけるままにさせるのではなく、子どもがその感情的状況を再認識するのを助ける脳の部分です。

 

 

次回は「気分依存性」を紹介します。

 

「自傷行為救出ガイドブック -弁証法的行動療法に基づく援助-」 マイケル・ホランダー著

 

ネガティブな感情を調理する

心理学的には私たちの感情は非常に短時間しか続かず、その後自然に消えていくとされます。実際、自分の感情を長く持続させるためにはその感情を喚起することをし続けるか、その感情を生み出したことについて考え続けなければなりません。ネガティブな感情を持続させるような思考に興を添えるのは、通常、他人や自分自身についてのネガティブな考えです。すなわち、状況がいかに自分に不公平であるかという価値判断や、そもそもそのような感情を持つのは自分にどこか割ところがあるからだという思い、または、もしも自分がもっとよい人間ならばこのようには感じなかっただろうに、などという思いです。

たとえば、皆さんの上司が何か、皆さんに責任がないことで皆さんを責めようとしたら、きっと皆さんはある程度の怒りを覚えるでしょう。しかし、その上司の行動を考えるのをやめた途端、怒りの感情はすっと消えていきます。しかし皆さんがその状況にいつまでもこだわっていると、その怒りは長い間「ぐつぐつと煮えている」でしょう。自分の感情を十分に煮込むと、それらの感情は持続的な気分状態に変わります。たとえば、日記をつけることが自分の気持ちを落ち着かせるのに役立つ戦略となる子どももいますが、日記をつけるとかえって自分を困らせている事柄に意識を集中し続けてしまう子どももいるのです。結果、彼らはその問題について日記に書けば書くほど、ネガティブな気分を自分でますます生み出してしまうことになります。

 

ノーラに、感情的にカッとなった場合、自分を落ち着かせるのを助けるために自傷以外の方法はないのかと尋ねたとき、彼女はこう言いました。

「本当にありません。寝ようとしたり、ちょっと特別に薬を飲もうとすることもときにはあります。でもたいてい嫌な気分のまま、私をこんなひどい気分にさせた事柄にとりつかれて悩むばかりで。しばらくすると私は自分に我慢ができなくなって、誰であろうと私の前に現れた人に喧嘩を吹っかけてしまいがちになります」

自分を慰めたり、自分の感情を変えるためのツールを持たないために、ノーラは人に食ってかかることしかできないのです。

 

 

次回は「事態を終結させるための感情調整」を紹介します。

 

「自傷行為救出ガイドブック -弁証法的行動療法に基づく援助-」 マイケル・ホランダー著

 

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