2021年3月アーカイブ

鎮静薬としての自傷

自傷をするとすぐに、これらの子どもたちは落ち着きと安堵の期間を経験します。この安堵感がどれほど長く続くかは個人によっても、それぞれのエピソードによっても異なります。二、三分の短いものから数日に至る場合もあるでしょう。人はこれらの子どもたちと同じくらい絶望すると、たとえほんの短い安堵であれ、カラカラに乾ききった喉にごっくりと飲んだ冷たい水のように感じられます。

 

■頻度を増してゆく

  ルースはこの二年間、週に少なくとも三回自傷をしてきました。これから紹介する会話は、私たちの最初の面談で交わされたものです。

  「ルース、あなたは本当に混乱したときにリストカットをすると、いくらかでも気持ちのつらさが和らいで安堵感をえられるんですね。あなたはその安堵感を得るために、自傷の頻度をどんどん増やさなくてはならないことに気づいていますか?」

  ルースは答えます。

  「ええ、以前は一回自傷をすれば落ち着いた気分になったんです。でも今では、同じように感じるのに十回か十五回は切りつけなければなりません」

 

 

鎮静薬に依存する人々と同様、ルースは同じ結果を得るために容量を増やし続けなくてはいられない子どもたちの一人です。おそらく、この現象には生物学的基盤があることでしょう。自傷をするとその瞬間、身体は組織の損傷と痛みへの対処法としてある種の化学物質を放出します(それは実際、鎮静薬と近い物質です)。子どもによっては、身体がこれらの化学物質の最初の量に慣れてしまうことがあるようです。すると彼らは同じ安堵感に達するためにより頻繁に自傷を行う必要があります。

どのように、また、なぜ自傷が子どもによって安堵をもたらす場合と、そうでない場合があるのかは解明されていません。いずれにせよその安堵は、自傷した際に脳から放出される鎮静薬の様な化学物質から得られるものと思われます。私たちは皆、化学物質に対してそれぞれ異なる反応の仕方をします。例えばアルコールに対する耐性が低い人がいる一方、はるかに耐性が高い人もいます。その人の「第一選択」にはいくつもの因子が影響を与えますが、身体の化学的反応も重要な要因の一つです。

 

◎皆さんの子どもは感情的苦痛を和らげるために自傷をしていますか?

  1,子どもは、何度も自傷を行うにつれて、それをエスカレートさせていくようですか・

  2,子どもの自傷は依存的に思われますか?

  3,子どもが自傷をしたとき、複数の傷がありますか

 

 

次回は「自殺防止としての自傷」を紹介します。


「自傷行為救出ガイドブックー弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著



感情のバランスの回復

なぜ自傷をすると落ち着いた気持ちになれるのか、私たちには理解しがたいものがあります。しかし感情的に圧倒された一部の人々にとっては効果的なのです。重要なのは、皆さんの子どもが感情的にどれほど圧倒され、コントロールを失っているのかということを理解することです。こうした子どもたちの中には自分の苦しみを巧妙に隠している子どももいますが、彼らも内心では感情が渦を巻いて大混乱を起こしているのです。わが子がいつ感情的に高ぶっているのかを親が理解していないと、自傷は忽然と現れた衝動的な行動に見えることがあります。それは衝動的な場合もあるかもしれませんが、何の前触れもなく現れるものでないことは明らかです。

マリッサはある友人によって深く傷つけられたと感じていました。彼女はその友人が自分を昼休みのお喋りの仲間に入れてくれないと感じたのです。その日なお悪いことに、彼女は、自分ではよくできたと思っていた英語のテストでCを取ってしまったのです。家へ帰る途中で、彼女は助けを求めて親友のクリスティンに電話をしました。しかしクリスティンは忙しそうで直ぐに電話は切られてしまいました。

のちにマリッサの母親は、その晩のことを次のように語りました。

「マリッサが学校から帰宅したとき、何か変だということは何となくわかりました。いつもよりもちょっと口数が少なかったものですから。でも、疲れているのかもしれないと思っただけでした。どうしたの、と尋ねたのですが、娘はただ、平気よ、と言ったきり自分の部屋へ引っ込んでしまいました。夕食に降りてきたときには彼女はずいぶんと気分がよくなっていました。でも夕食の最中、私は彼女の袖に血がついているのに気づいたんです」

 

子どもたちが自分の苦悩を隠すとき、親はとりわけ難しい立場に置かれます。

親にしてみれば、より警戒するようになるのは当然の流れです。しかし当の子どもは通常、それを余計なお世話として、より一層隠し立てするようになります。加えて、青年期の子どもたちにはプライバシーを求めるのが自然の傾向です。一方、親にとってはただ傍観し、手をこまねいているのは非常に難しいのです。自分がこのようなジレンマに陥っていることに気づいた親は、有害な秘密という浅瀬と年齢相応のプライバシーという開水路の間の、霞がかった領海を抜けていかなければならないのです。

 

ほとんどの子どもたちは、強烈な感情を伴う「気が狂ってゆく」感覚を次のように表現します。「自分の皮膚を突き破って」感情の苦痛から逃れられたらいいのに、と彼らは望んでいるのです。「感情の炎の上にいるみたい。何もまともに考えられなくて、心の中はすっかりパニック。分別のつくことなんか何一つないわ、私はどうしてもこの恐ろしい感情を終わらせなくてはいけないの」。また、「感情統制不全と先生たちが読んでいる状態になると、私は本当に滅茶苦茶に混乱してしまいます。心の内側は激しい感情で圧倒されていて、外側では泣きわめいているんです」。

このように、これらの子どもたちは自分の感情を正確に分類することができないことが多いのです。彼らは自分の感情を内的感覚の強烈な津波として体験します。このように内面が大荒れとなっている瞬間に、子どもが体験していることを皆さんが明確に読み取ろうとすると、おそらく怒りと涙の入り混じった反応が返ってくるでしょう。問題は、これらの子どもたちが他の人々よりも実に深く、またより即座に感情を体験しているということです。彼らは、感情的な出来事から立ち直ることに困難を抱えています。自分の感情を調整する能力が欠けているため、溺れている人のように感情のパニックの中でもがき、自分を救出してくれるものを求めて手を伸ばしています。自傷は、頼りないものではありますが、彼らの内的混乱を解消してくれる救命手段の一つとなるのです。

 

次回は「鎮静薬としての自傷」を紹介します。

 

「自傷行為救出ガイドブックー弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

 

ADHDとうまくつきあおう

ADHDの症状には、自分の注意や行動をコントロールする脳の働き(実行機能)の偏りが関係していると考えられていますが、詳しい原因はまだわかっていません。

 

◎前頭前野の関連

実行機能は前頭前野とよばれる大脳の前側の部分で調節されます。ADHDの人は、前頭前野を含む脳の働きに偏りがあると考えられています。

◎神経伝達物質の関連

また、脳の神経伝達物質(脳内の神経細胞の間で情報をやりとりする物質)であるドーパミンやノルアドレナリンの働きがADHDの人では不足気味であることがわかっています。これらの神経伝達物質の機能が十分に発揮されないために、ADHDの症状である不注意や多動性があらわれるのではないかと考えられています。最近では、神経伝達物質の不足を改善し、情報伝達をスムーズにするお薬が登場しています。

 

ADHDの診断を受けることにより、問題が解決するわけではありません。しかし診断は、現在の困難の原因を見極め、自分の特性や状態に応じた適切な対策を検討していく第一歩となります。正しく向き合うための、いわば道標といえるでしょう。

ADHDも含めた発達障害では、「その人が持っている特性により、生活に支障をきたしているか」が問題です。言い換えれば、ADHDの特性はそのままでも、暮らし方を見直し、生活する上での支障がなくなれば、それはもう障害ととらえる必要はなくなるのです。

 

実際、ADHDの特性を持ちながら、社会で活躍している方は少なくありません。自分を知り得意なことを活かしましょう。得意なことを活かすことによって、苦手なことは、克服するのではなく、より楽になる工夫を見つけましょう。

 

ADHDを「治す」のではなく、「もともと持っている特性を活かして豊かに生きる」。その補助として医療を利用する。そんなイメージで、自分の特性と付き合っていく方法を見つけていくことが大切なのではないでしょうか。

 

「大人の発達障害  すべては自分の特性を知ることから」

日常生活における困りごと

ADHDの症状は、個人によっても違いますし、環境によってもあらわれ方が違います。「どうして自分はこうなのかな?」と思っていたことは、実はADHDの症状が原因かもしれません。ここでは、日常生活の場面ごとにおける、ADHDの症状のあらわれ方の例を紹介します。

 

シーン1職場や学校で

◎主に多動性が原因となって起こりやすいこと

  ・会議中あるいは仕事中(授業中あるいは勉強中)に落ち着かず、そわそわしてしまう

  ・貧乏ゆすりや机を指先でたたくなどの癖がやめられない

◎主に衝動性が原因となって起こりやすいこと

  ・会議中(授業中)に不用意な発言をしてしまう

  ・思ったことをすぐに言動に移してしまう

◎主に不注意が原因となって起こりやすいこと

  ・会議や仕事(授業や勉強)に集中できない

  ・仕事(課題)に必要なものをなくしてしまう、忘れてしまう

  ・仕事(課題)の締め切りに間に合わない

  ・仕事(課題)を最後まで終えることが難しい

  ・仕事(課題)でケアレスミスがよく見られる

 

シーン2家庭で

◎主に多動性が原因となって起こりやすいこと

  ・家事をしているときに、別のことに気を取られやすい

  ・おしゃべりに夢中になって家事を忘れてしまう

◎主に衝動性が原因となって起こりやすいこと

  ・衝動買いをしてしまう

  ・言いたいことを我慢してイライラしてしまう

◎主に不注意が原因となって起こりやすいこと

  ・部屋が片づけられない

  ・外出の準備がいつも間に合わない

  ・家事を効率よくこなせない

  ・お金の管理が苦手

 

シーン3人間関係

◎主に多動性が原因となって起こりやすいこと

  ・おしゃべりが始まると止らない

  ・自分のことばかりしゃべってしまう

◎主に衝動性が原因になって起こりやすいこと

  ・衝動的に、人を傷つけるような発言をしてしまう

  ・ささいなことでもつい叱責してしまう

◎主に不注意が原因となって起こりやすいこと

  ・約束の時間にいつも間に合わない

  ・約束を忘れてしまう

  ・人の話を集中して聞けない

 

次回は「ADHDとうまくつきあおう」をご紹介します。

 

「大人の発達障害  すべては自分の特性を知ることから」

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