2021年4月アーカイブ

  二つ以上の精神疾患が一人の人物に同時に存在することがあります。したがっ


て、自傷がほかの心理学的問題の一面であり、その問題は不安な思考への対処に


関係するもので、感情統制不全への対処とはそれほど関係ないことがあります。


【時々外傷後ストレス障害(PTSD)を持つ子どもたちがフラッシュバックと呼


ばれる侵入的な記憶を回避するために自傷を行うことがありますが、フラッシュ


バックにはほとんど必ず統制が困難な感情もしくは既にお話しした空虚感が伴い


ますので、ここでPTSDに別個に取り組むことはしません】。


ここでは主に、自傷と共存する可能性がある二つの精神疾患について簡単に説明し


ます。これらの子どもたちは一般的に弁証法的行動療法(DBT)以外の治療法を


必要とします。自傷が皆さんの子どもの問題に、どの程度合致するかを理解する


助けとなるよう、専門家による評価を受けることが非常に重要です。



ニナ:声が聞こえる


ニナは私の診察室に入ってくると、すぐに私の向かいの椅子に滑り込むように座り


ました。彼女の顔にはほとんど表情がなく、何を感じているのかまるでわかりませ


んでした。私はニナの緊張を解きほぐそうと、ちょっとした話をしようとしました


が、この努力に対しても一言返事を得られただけでした。


「あなたが自傷していることは理解しているよ。それについて23分、私と話をし


てくれるかな」


私は言いました。ニナはうなづいただけでした。


「私は自傷をするそれはそれはたくさんの子どもたちと話をしてきました。そして


彼らから学んだことがあります。それは、子どもたちの中には、激しくて圧倒され


るような感情に対処する方法としてわざと自傷する子どもがいるということ。


感覚が麻痺し、虚しさを感じるときに自傷をすることで感情が自分にとって耐えら


れるものになると話してくれた子もいる。最後に、自分の頭の中から聞こえる声が


自分にそうするように言うから自傷する子どもたちもいる。あなたは自分がそれら


のうち、どれに当てはまると思いますか?」


私は尋ねました。


「最後の」


ニナはそっと言いました。


  精神疾患(双極性障害、統合失調症、あるいは感情失調性障害)を抱える子供


たちの中には、幻聴を経験する子どもがいます。自傷するよう彼らに「命じる」声


です。心理学的問題はすべて生物学的要素と環境的要素(家族や社会など)の相互


作用が原因ですが、こうした状態はおそらく環境的影響よりも生物学的素因のほう


より基礎が置かれるものでしょう。しばしばその「声」は辛辣で批判的な性質を


持ち、子どもに罰として自分自身を傷つけるよう要求します。子どもの脳はこれら


の「声」を、耳に聞こえるほかの音声と全く同じ方法で処理します。これは非常に


驚くべきことです。その「声」は、これらの子どもたちにとって非常にリアルに感


じられ、彼らはその要求に従うよう強制されているように感じることがあります。


  抗精神病薬はいくつか厄介な副作用(体重の増加、思考速度の低下など)があ


り得ますが、このタイプの幻覚に対処する点では大きな効果が期待できます。子ど


もの意図的な自傷がこうした「命令幻聴」によるものではないかと疑われる場合、


まず最初にすべきことは、精神科医と薬物療法の適否について相談することと、


子どもに神経心理学的検査及び精密検査を受けさせることです。




次回は「ロビン:強迫性障害」を紹介します。


「自傷行為救出ガイドブックー弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

回避行動としての自傷

「私には到底できなかったんです」 モナは言いました。

「クラスの前で立ってスピーチをするなんて、私には無理でした。きっととんでもなくダメな子に見えたでしょうね。私はクラスの他の子たちとは違うのよ」

「そういう状況では、多くの人が実に不安になるものだよ」 私は答えました。

「人によっては、人前で話をするのが本当に大変なこともある」

「先生には、わからないと思う」 モナはゆっくりと言いました。

「あんな状況について考えるだけでもすごく緊張して、本当に死んでしまいたくなるほどですもの。私、前の晩にすごく怖くて緊張して、眠れなかった...なのに、誰も理解してないみたいでした」

「わかるよ。君は本当に滅茶苦茶で、抜き差しならないように感じていたのではないかな」

「その通りです。私は何かしなくてはいられなかった、そしてリストカットしか思いつかなかったんです。両親がそれを見つけて医師に電話をしました。その医師が両親に、私を病院に連れて行くように言ったんです。そりゃ、確かに痛かったけれど、授業でスピーチをしなければならないのと比べたら、まだマシだったわ」

 

自傷を行う子どもたちのうち、自分の手に負えないと感じる期待がかかる状況を回避する方法としてこのような行動を取る子どもは、全体のごく一部です。このような子どもたちにとって、目前に迫ったその出来事は、非常に不安に満ちています。自傷をするしか出口はないと感じてしまうほどです。こうした状況を回避する戦略として腹痛やその他の仮病を用いる子どもたちと、自傷をする子供たちを区別する違いは、彼らが感じる罪悪感と自己嫌悪の程度です。私たちは何かを避けるとき、たいてい軽度か中程度の罪悪感を経験します。自分がよくないことをしていると承知しながら、自分の過失を大目に見ることができるのです。一方、回避行動として自傷する子どもたちは明らかに異なります。彼らの回避行動は、自分は弱虫だという彼らの感覚を確証してしまうのです。回避は彼らの自己嫌悪のレベルを引き上げます。そして不安と相乗して、彼らを圧倒する感情的経験を生み出すのです。

 

「何かやらなければならないことがあると、私はそれに対して本当に神経質になり始めます。だから、神経質になることなんかないって自分自身に向かって言い聞かせ始めるの。それでも不安なままだから、結局、事態をもっと悪くさせるだけだと思うんです。私は負け犬だ、って自分自身に向かって言い出すのはそのときです」とモナは言います。

 

このような場合、自傷は子どもの不安を鎮める傍ら、その子どもが強い不安を抱いている状況を回避する戦略という役割を第一に担っています。皆さんの子どもがこのカテゴリーに該当すると思われる場合には、自傷のための治療に加えて、不安に対処するための治療を中心とするカウンセリングを受けると有効なことがあります。

 

次回は「不安にさせる思考への対処:精神疾患と強迫性障害」を紹介します。

「自傷行為救出ガイドブックー弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

 

「ときどき私は、私の存在や私がどんな人間かということを無視されているように思うことがあります。両親はまるで、私がそこに存在していないかのように私のことを話すんです。私はそれが大嫌い!私にだって感情があることをうちの親は知らないのかしら?」

リンジーは不満を訴えました。

「そういうとき、君は自分が目に見えない存在のように感じているだろうね」 私は言いました。

「ええ、ひどいのよ。私にはまるで何の意味もないみたい。両親にとってさえ大切じゃないみたいだわ」

彼女はむせび泣きながら言いました。

「あんなことするのはよくないって、私だってわかってます。でも私が自傷すると、両親はやっと私に気づいてくれるの。私を見てくれているように感じるし、私は再び、私が確かに存在していると感じられるようになる」

 

私たちはたいてい、自分が無視されたような感じ、まるで周りの人々が自分の存在に気づいていないように感じられる状況を一度か二度は経験してきています。それは強烈な感情を引き起こしうる不快な瞬間です。私たちの選択肢は、その状況から逃げるか、あるいは何か自分が着目されるようなことをするかです。しかし自分が目に見えない存在であると感じ、自傷する子どもたちの中には、通常、自分が関心の的となることや他の子どもたちが受けている関心を妬ましく感じることがない子どもたちがいます(注目されるために自傷をする子供は、五十人中わずか二人程度だということを覚えておいてください)。彼らはただ、自分が目に見えない存在となる感じ、虚空に消えて行ってしまうという感じを止めたいだけなのです。

自己中心的で、スポットライトを独り占めするためにドラマチックなステップを踏むというよりもむしろ、これらの子どもたちは家族の中で注目されていないと感じます。このような状況は概して、その子どもが家族の中で無視されているという感じを抱く場合に生じます。私の経験上、親は故意にその子どもを無視したわけではなく、うっかり見落としただけというケースもあるのですが。

しかし、生まれつき過敏なため、子どもはどんな親でも応えきれないほど過度な肯定を求めることがあります。私は、これらの子どもたちがしばしば自分の思考や感情を表現したがらないことに気づきました。彼らの親たちはたいてい、わが子が自分の思考や感情をはっきり表現できないために彼らをなかなか理解できず、耐えています。その結果、親はわが子に足りない部分を勝手に補い、子どもの表向きの人格を自分たちで作り出してしまいます。そして親はその後、現実の子どもに対するよりも自分たちが作り出した人格に対応するようになります。もちろん当の子どもは親の誤解を修正しませんから、それによって事態はますます複雑になってしまうのです。

 

「両親は私のことを知っているし理解していると言うわ。でも、両親が知っているのは、自分たちが私にどうなって欲しいかということであって、私が本当はどうなのかではないのよ」

リンジーは言葉を続けました。

「両親が私のことを話していると、ときどき見知らぬ他人のことを話しているように聞こえることがあるの。私が本当はどう感じているかを伝えることができたらいいんだけど。でもがっかりされるのかと思うと怖くてたまらなくって」

 

こうした青年期の子どもたちが、自分はうまくやっていけるだろうか、自分の親は自分の価値を認めてくれているのだろうか、と悩み始めるのは珍しいことではありません。彼らが自分の懸念を口に出して述べることは滅多になく、そのため親たちは通常、こうした心配を知らずにいます。親は子どもが自傷に及ぶようになって初めて自分が八方ふさがりの状況にあることに気づくのです。すなわち、もし親が十分な関心と慰めを持って子どもの行動に応じたら、子どもは自傷をより強化すると同時に、自傷は関心のすべてとなるものだという自分の見方をより正しいものとして駆り立てます。しかし、もし親が怒りをもって、あるいはより中立的な立場で反応したとしても、それは「見られて」いない、あるいは理解されていないという子どもの見方を裏付けてしまう可能性があるのです。このジレンマを抜け出す一つの出口は、親が辛抱強く興味を持った態度を取ることです。子どもに自分の定義を押し付けるのではなく、心を開き、子どもに興味を持ち続けてください。

 

◎皆さんの子どもは自分が「目に見えない存在」であるという感覚に対抗して自傷を行っているのでしょうか?

1,子どもは自分の思考や感情に多くの困難な状態を抱えていますか?

2,子どもはしばしば皆さんが予測するよりもずっと、寡黙でい続けますか?

3,子どもは頻繁に、自分が誤解されているというい感じを皆さんに訴えますか?

 

次回は「回避行動としての自傷」を紹介します。

「自傷行為救出ガイドブックー弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

生きていると実感するための自傷

「私はもう耐えられなかったの。心が死んだように感じたわ。そう、何も感じなくて、空っぽで」

ジルは訴えました。

「私は世界の一部を感じることをやめたんですーーー気味が悪かった。自分がゾンビになったような感じがしました」

「自傷するとそれはどう変わったの?」

私は尋ねました。

「よくわからないわ。でも、初めて自傷して血を見た途端、生きているってまた感じられたのよ」

 

  心の内側が死んだ、あるいは麻痺したように感じている人にとって、生活は喜びが欠けているように感じられます。まるで自分以外の人は皆、色のある世界に生きていて、自分だけが白黒の世界に生きているようです。ある意味それは感情統制不全というコインの一面にすぎません。すなわち、感情に圧倒される代わりに、これらの子どもたちは何も感じないのです。冷淡なのではなく、空っぽの状態になっているのです。この状態にある子どもたちにとって、自分の周りの世界は非現実的なものとなります。彼らは自分が人生の参加者ではなく傍観者であるように感じるのです。あたかも足に重りをつけているかのようで、一歩一歩進むのに大変な労力が求められます。圧倒されるような孤独感に襲われることもしばしばあります。大した価値のあるものは何もなく、そのため目標を保持することが難しくなるのです。

感情は私たちが自分自身と自分の周りの世界をどのように経験しているか知らせてくれる、きわめて重要な情報源です。この鏡を利用できない場合、私たちは、人生における多くの挑戦を切り抜ける方法として、未熟で衝動的な判断をしてしまいがちになります。こうした状況下では、私たちがベストでも自滅的で自己制限的な、最悪の場合には危険な行動を取る恐れがあります。

時間の長短に関わらず、このような状態を保ち続けることは困難です。いずれ限界がきて、この状態を変えるために何らかの努力をするようになります。その状態と戦っている子どもたちはたいてい即座に感情の麻痺を止める短絡的な手段を取り、それがしばしば多くの問題をもたらし、より深みにはまっていくことになります。見境なく性的関係をもったり、薬物やアルコールに頼ったりすることで、こうした無感覚状態を止めることはできますが、このような未熟な解決策でさえも何らかの計画と手段が必要です。ところが残念なことに、自傷は、すばやく内密に容易に行うことが可能なのです。内的な無感覚と感覚の麻痺状態を止めようともがき苦しんでいる子どもたちの多くは、この恐ろしい状態から解放されるには血を見る必要があると報告します。あたかも血液を見ることで、自分は生きていると確信できるかのようです。

内的な無感覚を止めるために自傷に依存する十代の子どもは、感情が麻痺した感覚と深い自己嫌悪の間でしばしば揺れ動いています。彼らの中には性的虐待の被害者が多くいます。

 

 

◎皆さんの子どもは、生きているという感覚を取り戻すために自傷を行っていますか?

  1,皆さんの子どもは退屈で虚しい状態の中でほぼ一日中過ごしているように思われますか?

  2,子どもは今までに、血を流したとたんに気分が改善したと主張したことがありますか?

  3,子どもは性的虐待を受けたことがありますか?このようなケースに該当しないかどうか、詳しい調査が必要ですか?

 

 

次回は「目に見えない存在という感覚に対抗するための自傷」を紹介します。

 

「自傷行為救出ガイドブックー弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

 

 

 

自殺防止としての自傷

「すごく落ち込んで絶望し、自殺がもっともな解決策のように感じられると自傷するようにしているの」

ブラッドは言いました。

「私は自分を殺したくないし、そのことを考え始めると本当に怖くなるわ。自傷はそれを和らげてくれます」

 

ブラッドのように、一種の自殺防止戦略として自傷することを選ぶ子どもも少数ながら存在します。彼らは自殺思考へのとらわれと感情の脆弱さを抱えて苦しんでいる子どもたちの一部で、自殺念慮を伴うことの多い強烈な恐怖と不安から逃れようとしています。自殺に対する不穏な執着心をどうにかして止めようともがく中で、彼らは意図的な自傷に頼るのです。

これらの子どもたちは、感情の調整異常と、自殺についての思考や感情の両方に対処しようとしてもがき苦しんでいます。彼らにはより高い自殺のリスクがあります。子どもの意図的な自傷について入念な評価を受けることは親にとって常に重要なことですが、このようなタイプの子どもたちは特に、治療の一環として継続的なリスク評価を受けることが決定的に重要です。

 

◎皆さんの子どもは自殺を思いとどまるための方法として自傷を行っていますか?

  1,子どもは今までに自殺について口にしたことがありますか・

  2,子どもは最近、何か喪失体験をしましたか?

  3,皆さんの近所で最近、自殺がありましたか・

 

 

次回は「生きていると実感するための自傷」を紹介します。

 

「自傷行為救出ガイドブックー弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

 

このアーカイブについて

このページには、2021年4月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2021年3月です。

次のアーカイブは2021年5月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

home

家族会掲示板(ゲストプック)

家族会 お知らせ・その他

本のページ