二つ以上の精神疾患が一人の人物に同時に存在することがあります。したがっ
て、自傷がほかの心理学的問題の一面であり、その問題は不安な思考への対処に
関係するもので、感情統制不全への対処とはそれほど関係ないことがあります。
【時々外傷後ストレス障害(PTSD)を持つ子どもたちがフラッシュバックと呼
ばれる侵入的な記憶を回避するために自傷を行うことがありますが、フラッシュ
バックにはほとんど必ず統制が困難な感情もしくは既にお話しした空虚感が伴い
ますので、ここでPTSDに別個に取り組むことはしません】。
ここでは主に、自傷と共存する可能性がある二つの精神疾患について簡単に説明し
ます。これらの子どもたちは一般的に弁証法的行動療法(DBT)以外の治療法を
必要とします。自傷が皆さんの子どもの問題に、どの程度合致するかを理解する
助けとなるよう、専門家による評価を受けることが非常に重要です。
■ニナ:声が聞こえる
ニナは私の診察室に入ってくると、すぐに私の向かいの椅子に滑り込むように座り
ました。彼女の顔にはほとんど表情がなく、何を感じているのかまるでわかりませ
んでした。私はニナの緊張を解きほぐそうと、ちょっとした話をしようとしました
が、この努力に対しても一言返事を得られただけでした。
「あなたが自傷していることは理解しているよ。それについて2,3分、私と話をし
てくれるかな」
私は言いました。ニナはうなづいただけでした。
「私は自傷をするそれはそれはたくさんの子どもたちと話をしてきました。そして
彼らから学んだことがあります。それは、子どもたちの中には、激しくて圧倒され
るような感情に対処する方法としてわざと自傷する子どもがいるということ。
感覚が麻痺し、虚しさを感じるときに自傷をすることで感情が自分にとって耐えら
れるものになると話してくれた子もいる。最後に、自分の頭の中から聞こえる声が
自分にそうするように言うから自傷する子どもたちもいる。あなたは自分がそれら
のうち、どれに当てはまると思いますか?」
私は尋ねました。
「最後の」
ニナはそっと言いました。
精神疾患(双極性障害、統合失調症、あるいは感情失調性障害)を抱える子供
たちの中には、幻聴を経験する子どもがいます。自傷するよう彼らに「命じる」声
です。心理学的問題はすべて生物学的要素と環境的要素(家族や社会など)の相互
作用が原因ですが、こうした状態はおそらく環境的影響よりも生物学的素因のほう
により基礎が置かれるものでしょう。しばしばその「声」は辛辣で批判的な性質を
持ち、子どもに罰として自分自身を傷つけるよう要求します。子どもの脳はこれら
の「声」を、耳に聞こえるほかの音声と全く同じ方法で処理します。これは非常に
驚くべきことです。その「声」は、これらの子どもたちにとって非常にリアルに感
じられ、彼らはその要求に従うよう強制されているように感じることがあります。
抗精神病薬はいくつか厄介な副作用(体重の増加、思考速度の低下など)があ
り得ますが、このタイプの幻覚に対処する点では大きな効果が期待できます。子ど
もの意図的な自傷がこうした「命令幻聴」によるものではないかと疑われる場合、
まず最初にすべきことは、精神科医と薬物療法の適否について相談することと、
子どもに神経心理学的検査及び精密検査を受けさせることです。
次回は「ロビン:強迫性障害」を紹介します。
「自傷行為救出ガイドブックー弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著