2021年5月アーカイブ
皆さんの子どもが自傷を行っている場合、皆さんの最初のステップは、専門家
による精神医学的評価を得ることです。それは以下の理由によります。
◎ほかの心理学的問題を同定する
先に述べたように、自傷行動は幻聴や強迫性障害といったほかの心理学的問題
や精神疾患と一緒に生じることがあります。自傷を行う青年期の子どもたちは、気
分障害(うつ病など)からさまざまな形態の行為障害やパーソナリティ障害に至る
まで、幅広い診断カテゴリーに該当することが研究者たちによって明らかになりま
した。専門家による包括的な評価を受けることで、皆さんの子どもがほかの問題に
苦しんでいるのかどうかを判断するのに役立つことでしょう。
◎自傷が自殺思考につながることを防ぐ
第二に、自傷行動と自殺行動との間には明らかな関連があります。とはいえ、
私はこれまで述べてきた自殺についての論点を否定しようとしているわけではあり
ません。これまで説明してきたような方法で自傷を行う子供たちは自分の命を終え
てしまおうとしてこのような行動をとっているのではなく、彼らは、自傷を用いて
私が説明してきた機能の一つを実行することと、自分の命を終えようとすることを
ほぼ常に明確に区別します。包括的な評価を受けることで、皆さんの子どもが感情
を鎮めるために自傷を行っているのか、それとも自殺志向なのかを判断することが
できます。
子どもが自傷を止めるのを支援することが、子どもが将来自殺志向になるのを
防げる場合もあることも、皆さんは知っておいたほうがよいでしょう。私は、不必
要に不安を募らせようとするつもりはありませんが、自殺目的でない自傷(たとえ
ば、感情をコントロールするために用いられる意図的な自傷)が、自殺の試みと関
連することが、現在の研究ではわかっているのです。
1,自傷している期間が長くなればなるほど、その人が自殺を試みる可能性がより
高くなる。
2,自傷を行うときに痛みを感じない人は、痛みを感じる人々よりも自殺を試みる
可能性が高い。
3,複数の方法を用いて自傷を行う子どもは、単一の方法しか用いない子どもたち
よりも自殺を試みる可能性が高い。
これらの記述のどれかが皆さんの子どもに当てはまるように思われたなら、で
きるだけ早く専門家による介入を求めましょう。
次回も「包括的精神医学的評価の重要性」の続く部分をご紹介します。
「自傷行為救出ガイドブックー弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著
ロビンが診察室に入ってきたとき、最初に私が気付いたことは、彼女の両腕と
両脚にある赤い傷跡でした。彼女が自分の体を突き、その傷が癒えるのを許さずに
いたということはすぐに明らかになりました。2,3分やり取りをしたのち、私たち
は本題に入りました。
「私は、あなたの両腕と両脚の傷に気付かずにはいられなかったんだ。何があった
のかな?」
私は尋ねました。
「どうかしてますよね、自分でもわかっているんです、でもいったん突き始めると
止められないんです。絶対それを完璧にしなければならない、という考えが頭の中
に浮かびます。自分がしていることなのに、途方に暮れてしまうわ―― 浴室で鏡
を見ながら自分の体をついて、何時間も過ごすことがあります。自分がしているこ
とをコントロールできないと思うと、ゾッとします。」
「あなたは、それを絶対に、徹底的にやり遂げなければならない、という考えの奴
隷になっている感じがしますか?」
私は尋ねました。
「まさにその通りです!」
強迫性障害がある人は、ある考えに縛り付けられてしまい、しばしば強迫的で
反復的な行動を通してその考えを満足させなければなりません。その行動をとらな
いと、極度の恐怖と心配の感覚を生み出します。中には、強迫行動によって自分の
時間を何時間も取られ、宿題を終えられなかったり、その強迫行動が通常の社会生
活を送る妨げとなる恐れがある子供もいます。
強迫的あるいは儀式的行動の一種に、皮膚を突くことがあります。ロビンの説
明にもあったように、これらの子どもたちは一旦その儀式を始めると、それを成し
遂げるまで、自分の意思で止めることが極めて困難です。その儀式的行動を駆り立
てるものは、強力な恐怖感が伴う恐ろしい考えであることがしばしばです。例え
ば、もし自分がその行動を完遂しなければ、何か恐ろしいことが大切な人に起こる
に違いない、といったことです。
強迫性障害は、子どもと環境因子との相互作用によって引き起こされる心理学
的障害というよりも、むしろ生物学的基盤の病気です。子どもの自傷がこのパター
ンだと思われる場合には、認知行動療法と薬物療法の組み合わせが最善の治療コー
スとなるでしょう。
自傷が皆さんの子どもにどのように役立つのか、その役割を理解することは、
治療においてどの問題をターゲット行動とすべきか、苦痛な感情に対処し問題を解
決するために子どもに欠けているのはどのスキルかを皆さんと子どものセラピスト
が理解するのに役立つでしょう。治療の主な目標は子どもがそれらのスキルを獲得
し、自傷がその寄与的役割を果たさなくするようにすることです。
次回は「包括的精神医学的評価の重要性」をご紹介します。
「自傷行為救出ガイドブックー弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著