「ジャックを失いそうなの!間違いないわ。あまりにつらくて耐えられないの。彼を失ったら生きていけないわ」
これはダナの姉がある晩十一時に電話に出たときにダナから聞いた話でした。そして午前一時と最後は午前四時にも。ダナは、日中に数回夫に対して大声を上げ、浮気をしていると責め、泣き、自殺すると脅迫してしまったので、夫を失いかけていると信じ込んでいました。姉のゲイルは、ジャックはダナを愛しているし、ダナを捨てたりはしないと言って、ダナを安心させようとしました。ほかの話題で気を紛らわそうともしました。妹を落ち着かせてくれそうなアドバイスは片っ端から伝えました。けれども、ダナは渦巻の中にぐるぐると落ち込んでいき、その渦は彼女をどんどん深い絶望へと引きずり込むのでした。ダナはどうやって脱出したらよいのかわからず、ゲイルが彼女を引っ張り出して解放してくれることを求め続けました。
ゲイルは疲れていました。その夜の睡眠不足のせいばかりではなく、前にも一通りこれを経験していたからです。周期的に、ほとんど警告なく何かがダナに火をつけ、彼女は激しい感情に支配されるモードに囚われ、残りの人生もずっとそのままだと確信してしまうのです。彼女は全く制御不能で絶望的だと感じて――そして行動して――しまいます。ある瞬間にはゲイルの助けを嘆願します。それからゲイルを罵倒し、ゲイルがどのような種類の支援を与えようとしても、全然心配してくれないと責めるのでした。その後、彼女は深みに落ちていき、彼女の唯一の選択肢はすべてを終わりにすることだ――決して何も変わらないし、もうどうにも我慢できない――と言うのでした。
もしあなたがBPDをもつ誰かを愛しているなら、このようにして障害が現れてくることにはとても慣れていることでしょう。感情調整不全はBPDの中核的な側面ですから。感情調整不全はBPDをもつ人の一定不変の常態ではありません。一定不変なのは感情的な脆弱性です。BPDをもつ人の大半は、相対的に感情が落ち着いた時期を経験します。しかしながら、しばしば感情の渦に巻き込まれ、そこに何日も、長ければ何週間もとどまってしまうかもしれません。そのサイクルが発生する理由を理解すれば、この主要なBPDの行動への対処が前より容易に思えるでしょう。
ダナのケースでは、ゲイルは何が妹の奈落への旅をスタートさせたのか知りません。実際、ダナにもわかっていませんでした。けれども、一度彼女がその暗い穴に落ちると、彼女の感情はどうにも蓄積し続けていくように思われて、そうなるとダナは、何であれ最初に感情に火をつけたもののせいではなく、その感情を止める能力がないように感じるせいで、ますます動揺してしまうのです。
私はこの現象を、渦巻き、あるいは流砂として考えます。それはあなたの愛する人を周期的に――たぶん、かなり頻繁に――罠にかけますが、その人の常態ではないからです。このレベルの情け容赦のない感情的な痛みは、実際のところ生き延びるのが難しいでしょう。大半は、時には効果的な行動により、時には調整不全な行動により、そして一番多いパターンとしては自己非承認に入り込むことにより、自分自身を渦から引き抜いて、許容可能な感情レベルに戻ります。
BPDをもつ人は、一度渦巻きが回転を始めると、しばしば何が自分の感情に火をつけたのかわかりません。BPDをもつ人を捕らえて離さない感情と行動の複雑な連鎖を解明することは、資格をもつ専門家の仕事なのです。あなたは感情への刺激となり得るものをすべて封じようと不毛の努力をして、抜き足差し足で歩き回り、疲れ果てているかもしれませんが、それでも渦巻きはその口を開いて、あなたの愛する人を飲み込んでしまうのです。あなた方のどちらにも我慢できないほど頻繁に。良い知らせは、あなた自身のリアクションを変更すれば、愛する人の中で燃え盛る感情の炎を静められるということです。
次回は「感情の渦巻きの解剖学 ◇あなたの愛する人の経験」を紹介します。
「境界性パーソナリティー障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著