2021年7月アーカイブ

⑥愛する人に、その痛みを引き起こした問題が何であれ、それを解決する上でのt助けを望んでいるか質問しましょう。

  先に注意したように、最初にその人が助言を求めているかどうかを確かめずに、「これがあなたのすべきことです」と言うと、感情を静めるのではなく、高めてしまうでしょう。「質問する/査定する」は以前に紹介した5つのステップの反応の中でも重要なステップです。
とはいえ、はっきりした答えは得られないかもしれないと覚えておいてください。その人はこの種の相互作用に参加することを拒絶するかもしれません。感情が高ぶりすぎたままかもしれません。「私はどのように手助けできますか?」に対して、BPDをもつ人が「あなたには手助けなどできません。誰にもできることなんてないのです」のように答える時には、いつでも承認に戻るべきです。「たった今はそういうふうに感じられるのはわかります。わたしにもわたしが手助けできるかどうかは分かりません。でも私には、やってみようと気持ちが間違いなくあります」と言いましょう。あなたの愛する人に問題解決をさせないように。
一緒に少しブレインストーミングをしようと提案してもよいでしょう。けれども、その人のアイデアを生み出す力は深刻に損なわれていることを覚えておいてください。私たちは皆、感情的になっているときには、集中したり、ブレインストーミングをしたり、問題の解決法を選択したりする能力を失っているものです。感情への反応として、私たちの脳組織に神経化学的プロセスと変化が起こり、そのすべてが問題解決の能力を妨害するのです。ですから、もしあなたがブレインストーミングを試そうとし、愛する人がギブアップして「解決策なんてありません――私にできることはありません」と言う場合にも、その人が受動的あるいは非協力的になっていると結論しないようにしてください。多くの場合、その人は感情があまりに高ぶっているので、そのような精神状態では何の完結策も考えつかないということなのです。そのような場合にはいつでも、あとでまたやってみようと提案することができます。


次回は、あなたの愛する人が感情の渦にはまってしまっているときに、今までと違うやり方で行えること ~その7~ を紹介します。

「境界性パーソナリティー障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著
⑤次に、その人のコントロール能力に対する信念と希望を伝達しましょう。

  これは愛する人が今現在の状態にあるべきではない、と述べることではなく、その人自身の持っている感情を調整する能力を信じていると述べることです。これはあなたの愛する人のチアリーダー役をすることに他なりません。これは誠実に、そして気づきと共に行われなければなりません。もし愛する人に、その人にはこれができるとわかっている、前にやったことがあると伝え始めて、その人の感情が高まっているのに気付いた場合や、その人が「僕に何ができるかなんて、君にはわからないよ。僕にはできない。あらゆることを試してみたし、こんなに一生懸命努力することにはもう疲れたんだ」と言う場合には、ひとまず引いて、あなたの愛する人の現在の感情の承認に戻りましょう。

  その大変さを承認しながら、愛する人に、その人が似たように感じたのに切り抜けられたときのことを思い出させましょう。その人が「もうこのように感じることには我慢できない」と言うときには、「我慢できないように感じるのはわかります。でも、あなたは信じられないほどの力がある人で、私は前にあなたがこのような状態になったときに切り抜けるのを目にしました。あなたには今回も切り抜ける能力があるものと、私は全面的に信じています」と言いましょう。何か提案することは、あなたが愛する人の能力を信じていないために介入して干渉しているかのように思われかねませんから、関心を示す質問は、それに取って代わる素晴らしい代替案です。例えば、「ボブと破局したときのことを覚えていますか? その時、どうやって乗り越えましたか? あなたにとって大打撃だったことを私は知っていますが、あなたはそれを乗り越えました」のように言います。あるいは、「前に役に立ったことを今回もできますか?」と聞いてみるのもよいでしょう。



次回は、あなたの愛する人が感情の渦にはまってしまっているときに、今までと違うやり方で行えること ~その6~ を紹介します。

「境界性パーソナリティー障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著


④その人の、自分の感情をコントロールできないという感覚を承認しましょう。

  次のような言葉を使うとよいでしょう。
「自分の怒りはコントロール不可能だと感じますか?それは本当に不快なことでしょうね」
「私自身、コントロール不能であると感じるのは本当につらいことです」
「コントロールできないと感じるとき、私はつらいです」
「制御不能だと感じていますか?まるで怒りが今にもあなたを焼き尽くすかのようですか?それは苦しいに違いありません」。
最初に言うべきなのは、その人には自分の感情をコントロールできるということではなく、感情をコントロールすべきだということでもなく、本当は制御不能ではないのだということでもありません。最初にすべきなのは、その人が制御不能だと感じていることと、制御不能の状態は苦痛で恐ろしい状況であると理解していることを、愛する人に知らせるための言葉を発見することです。


次回は、あなたの愛する人が感情の渦にはまってしまっているときに、今までと違うやり方で行えること ~その5~ を紹介します。

「境界性パーソナリティー障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著
③その人の現在の感情について、何か承認できることを発見しましょう。

  もしあなたの愛する人が怒りを表現しているのであれば、その怒りが何か他の感情に対して二次的なものであると、あなたは気付いているかもしれません。愛する人に、その人の怒りは傷心、痛み、恥、その他の感情を隠蔽している、またはそれらからの逃避を可能にしているのだとは伝えないように。代わりに、怒りを承認し、それからほかの感情について少々読唇術を試みましょう。「あなたは仕事のことで本当に怒っていて、それなのに明日には仕事に戻る必要があるとわかっているので、つらいのですよね。彼女に受けた扱いでかなり傷ついているに違いないのだと思います。そうですか?」その人の人生がいかに苦痛に満ちたものであるかについての理解を伝達するように。


次回は、あなたの愛する人が感情の渦にはまってしまっているときに、今までと違うやり方で行えること ~その4~ をご紹介します。

「境界性パーソナリティー障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著
②非承認的な「~してはいけない」は避けましょう。

助けようとしているだけなのに、愛する人がますます動揺してしまうのであれば、感情の渦に捕らえられている人とのかかわりの規則に縛られているかどうか、自分自身に質問してください。

〇愛する人の感情的経験について、真の理解を表現しようとするまでは、何も言わないように。
  一般原則として、問題を解決しようとする前には、少なくとも承認的な言葉(「わかります」「これはあなたにとって本当に大事なのですね」)を二回は言いましょう。助言を与えること、その人の気を紛らわそうとすること、その人に「そんなに悪くない」と伝えることはすべて非承認的です。あなたの愛情と心配は彼らの耳には届きません。あなたの愛する人の耳に聞こえるのは、その人が今現在どれほどひどく痛みを経験しているかをあなたは理解していないということだけです。BPDをもたない人に対してなら、その人がそのように反応する理由がわからないと避難的にならずに言えば、その人は説明のためにあなたに率直に話してくれるでしょう。BPDをもつ人にとっては、これがしばしば感情を高めてしまうのです。

あなたの愛する人に変わることを求めようとしないように
  BPDをもつ人はなんであれ、「自力で何とかしなさい」のように聞こえかねないことには敏感です。あなたの言うことで、英語で言うと just という語(訳注:「とっとと」「つべこべ言わずに」「~だけのことだ」などのニュアンスを添える)を含むセリフはどれも、愛する人が変わることは(指を鳴らして合図すれば可能なほど)容易なはずだ、とあなたが信じているということを伝えてしまう可能性が高いのです。「とっととベッドから出なさい」「とにかく叫ぶのはやめなさい」「考え方を変えればいいだけのことでしょう」のようなことを言うのは避けましょう。

解決策があるのならば、差し控えないように・・・けれども、あなたの手助けが必要かどうか質問せずに事態を「修正しよう」としないように
  あなたからの助けに関心があるのかどうか質問をしないと、その人の感情の激しさを承認していないか、あるいはその人の無能さを承認しているかのような印象を与えかねません。質問のタイミングは、あなたが自分の感情を調整して、愛する人の感情を適切に承認した後です。

誠実に意図していないことは何も言わないように
  BPDをもつ人は愚かではありません。そして、他人が自分について考えていることに鋭敏な感覚をもっています。私は、自分ではまだ意識していなかったのに、自分がクライアントに対して怒っていることを本人に指摘された経験があります。この感受性のせいで、BPDをもつ人は確実に不誠実さを感知するのです。あなたの愛する人に話すとき、セラピストを演じてはいけません。あなた自身でいて、本気でないことは言わず、通常の会話では使わないような言葉は使わないようにしてください。

「私たちは~する必要がある」とは言わずに、「あなたにとって~することは役に立ちますか?」と言うように。
  一つの些細な言葉が、あなたの愛する人に多くを語り得るのです。感情がすでに高ぶっているとき、「私たち」ほど保護者然とした――それゆえに非承認的になる――言い方はありません(訳注:英語では親が幼い子供に話すときや医師が患者に話すときにわざと「私たち」という主語を立てた表現を用いる)。このような発言は、あなたとあなたの愛する人の両方に関して語る権利があなたにはあるということを想定しているのですから。


次回はあなたの愛する人が感情の渦にはまってしまっているときに、今までと違うやり方で行えること ~その3~ をご紹介します。

「境界性パーソナリティー障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

① どのような感情を自分が経験しているのか自分自身に質問し、その感情から反応しないことに焦点を合わせましょう。

  あなた自身の感情の調整は、常にBPD をもつ誰かに効果的に反応するための第一歩です。あなたの配偶者・きょうだい・親友が、自分の人生はよくならないという極度の悲しみや絶望と、あなたへの怒りの間を行ったり来たりしていると想定しましょう。攻撃をされて、感情的なリアクションをするのは、人間として当たり前のことです。加えて、あなたの愛する人が実際に感情をコントロールできなくなるかもしれず、その結末が悲惨なものになるかもしれないと考えることは恐怖です。事態を修復するために死に物狂いになったり、愛する人から手を引いたりする原因になるのは、このようなあなた自身の高ぶった感情です。前者は、すでに学んだように、あなたのパートナーの経験に注意を払いながら懸命に反応することを難しくします。これでは、承認されなかったとあなたの愛する人に感じさせるばかりで、そのひとはあなたをさらに攻撃するかもしれません。後者は、あなたのパートナーを見捨てられたように感じさせ、あなた方の関係を無傷に保つための建設的なことにはまったくつながりません。そこで、最初にすべきことは、あなた自身の感情の調整です。

  私が何を言おうとしても私への怒りを表明し続け、最後には爆発したクライアントに、私は沈黙しました。私自身の感情を調整して、次に何をするか決定するために沈黙したのです。私がしゃべるのをやめたとき、クライアントもまたしゃべるのをやめました。私と同様、沈黙したとき彼女の感情も収まり、数分後に私たちは前に進むことができました。
  もし愛する人の感情的爆発への反応方法について、自分自身がコントロールを失くしているとか、途方に暮れていると思ったならば、立ち止まって、自分が何を感じているかに注目してください。身体的感覚、思考、衝動に注目するのです。腹部が痛み、胸は締め付けられ、手は握りしめられ、額にはしわが寄り、しかめっ面をしていて、愛する人に対してあなたが抱いている考えをすべて今すぐ伝えたいという衝動を経験している、などの観察を足し合わせれば、あなたが経験している感情は怒りであると理解できるでしょう。

  あなたが取り乱していて、自分自身の経験を観察することさえままならなければ、沈黙を守って深呼吸することから始めましょう。愛する人に何が起きているかを考えるのではなく、あなたの注意のすべてをあなたがやっていることに向けましょう。それほど感情的でなくなった時には、愛する人を手助けすることができるでしょう。

  BPDをもつ人は、周りの環境から規制を受けます。あなたも周りの環境に含まれるのです。環境が落ち着かせてくれるんのであれば、彼らは落ち着くのです。単独でよりも、助けてもらえる関係の中での方が技能を発揮できるでしょう。良い知らせは、あなたがあなた自身の感情を調整する――BPDをもつ人に自分の感情をコントロールしろと命じるのとは全く異なります――だけで、BPDをもつ人の感情調整を助けられるということです。

  但し書き:冷静になろうとしているときには、子どもに語り掛けるような調子でBPDをもつ人に話しかけてしまいがちです。これは二つの点で問題です。第一に、BPDをもつ人が自分は見下されたようだと知覚すると、すでに興奮している感情が激化するでしょう。上からの目線で話されることは、私たち皆に強いリアクションを引き起こします。第二に、このような話し方は、あなたの愛する人がひ弱ではないときにも、壊れ物扱いするのに等しいかもしれません。これはその人の感情に対する非承認であり、その人が無能であるというメッセージを送ってしまいます。


次回は「あなたの愛する人が感情の渦にはまってしまっているときに、今までと違うやり方で行えること ~その2~」をご紹介します。

「境界性パーソナリティー障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

  典型的には、愛する誰かが感情の渦巻きの中に吸い込まれていくのを目にしている人たちは、二つのモードのうちの一つに入り込みます。「修正する」モード、もしくは「守る」モードです。私たちは皆、飛び込んでいって、愛する人たちにとって機能していないことを修正したがる傾向にあります。愛する人が感情的苦悩を経験しているのを目にするときには、その衝動はさらに高まります。あなたは、何であれ、あなたの愛する人を傷つけているものを「修正しよう」として、怪力無双の英雄ヘラクレス並の努力をしてきたことでしょう。それではなぜ、あなたのあらゆる努力は失敗するように――あるいは事態を悪化させるように――思われるのでしょうか?
  あなたはたぶん相手の人を「励ます」試みがことごとく失敗するのを見てきているでしょう。善意と愛情から多くの安心させるような言葉やポジティブな提案を与えたときに、愛する人から強烈な怒りが放射されるのを感じ、まったく混乱して立ち尽くしてしまったことがあるのではないでしょうか? BPDをもつ人は自分がどれほど痛みを感じているか理解していないとして、あなたに腹を立てますし、また、ひどく感情的になっていることと問題を自分自身で解決できないことから、自分自身にも腹を立てます。BPDをもつ人にとっては、痛みの経験を承認しない反応はどれも非同情的なものです。ですから、問題解決を手伝おうとする試みは、その問題があなたの愛する人にどれほど多くの痛みを引き起こしているかということに対する非承認になります。問題を解決できると安心させようとする試みは、これまで自力で解決できていないために感じている恥や罪責感に対する非承認になってしまいます。まずは最優先でその人の感情的経験を承認することが不可欠です。

  極度に感情的なとき、BPDをもつ人が他の人から知らせてほしいのは、自分の痛みのレベルが理解可能であるということですが、それとは反対のことを経験してきています。自らの感情に怯えていて、それと同時に、過剰反応していると伝えられることには甚だしく敏感です。全面的に制御不能と感じていて、一方、制御する必要があるのだと伝えられることには非常に敏感なのです。自分自身への希望が持てず、あなたもその人に希望を持っていないのではないかと恐れています。自分自身の感情の中で溺れ、自分自身がもがく様を見ているのです。

  守るモードについては、どうにも機能しませんし、途中であなたは消耗してしまいます。30歳のステイシーは両親と暮らしている時に、何回も上司に「キレて」しまったので、救急隊の配車係としての仕事を失いかけていることに気づきました。彼女は配車作業中に聞いた話に多大な感情的反応をしていて、一回の通報でわいた感情が後続の通報に集中する能力に影響しがちでした。職場で報告書に書かれ、解雇警告を与えられた後、彼女は自室に引きこもって何日も出てきませんでした。彼女の両親はどう反応してよいかわかりませんでした。二人は彼女をそっとしておこうとしましたが、彼女はますます失望しているようでした。両親が仕事について彼女と話そうとしないので、彼女は動揺していました。とうとう両親は、彼女と「話をしよう」としました。ステイシーの両親は彼女にとてもとても優しくしようと努力しました。ステイシーのリアクションはエスカレートし、自分を子ども扱いしているとして両親を責めました。

  ひとたび愛する人の問題を修正しようとあらゆることを試みても、その人の感情を落ち着かせることはできず、それどころかいっそう悪化させてしまうかもしれないと認識すると、あなたは自然とただあなたの愛する人のために、ストレスがなく、平穏で、対立的でない環境を作ろうと決意するかもしれません。これは、どの家族でも対処しなければならない困難な課題--病人の世話、金銭的な問題への対処、対人的な葛藤の解決、不安定な未来への準備--のすべてをあなたが引き受けるという意味かもしれません。これをやろうとすれば、私たちの中で最強の人々でさえも、身体的、金銭的、感情的資源が枯渇してしまいます。

  けれども、思い出してください。感情の引き金となり、大渦巻きの旋回を開始させるのは、愛する人の人生に起きる出来事だけではありません。愛する人を、その人自身の痛みの経験から守ることはできません。そして、ある出来事があなたの愛する人をどのように感じさせるのかわからなければ、その人を煩わせないことからその人を守ることに多大な労力を注ぎ、一方で、結局はその人の心を極度にかき乱す出来事にその人をうっかりさらしてしまうかもしれないのです。あなたの愛する人は事実を誤解する傾向があるかもしれません。あなたやBPDをもたない他の人に感情的痛みを引き起こすような影響を削り取るようにその人の人生を演出するということでは、その望ましくない傾向をあまり変えることはできないのです。それは暗闇を怖がる子どものために照明をつけたままにしておくようなものです。家具が造る影が怯えた子供にとってどう見えるかは、いまだにコントロールできないままであり、その子は暗闇が脅威ではないことを決して学ぶことができません。

  愛する人の痛みを追い払えないとき、最終的にあなたは引き下がるか、飛び込んでいって万事を改善しようと試みるかのどちらかになります。引き下がれば、それはあなたの愛する人がもっと破れかぶれになって絶望を感じる原因になるでしょう。万事修正しようと試みれば、あなたの愛する人が無力だと感じて絶望する原因になるでしょう。苦痛な感情の引き金となるあらゆることからパートナーを守ろうとする試みは、あなたを疲弊させ、どうにも効果がありません。では代わりに何をすればよいのでしょうか?


次回は「あなたの愛する人が感情の渦にはまってしまっているときに、今までと違うやり方で行えること」をご紹介します。

「境界性パーソナリティー障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著

  何かBPDをもつ人にとって苦痛なことが発生します。痛みはずっと続いていきます。制御不能にして、制止不能に見えます。この痛みの経験は圧倒的なものとなります。これが、BPDをもつ人が失望する時です。それが続くにつれて、絶望が広がっていきます。絶望している時には、あなたのパートナー、あるいは親、子ども、きょうだいは、現状からの脱出口を見つけられず、痛み以外には何もない未来を目にしているのです。

  感情的脆弱性の渦巻きはしばしば、あなたの愛する人が愛する人が有害だ、恐ろしい、混乱を生じさせる、あるいは苦悩をもたらすと思うような、ある出来事と共にスタートします。あなたがぜひ理解する必要があるのは、BPDをもっていない人の心の中では静まって折り合いがつくであろう感情が、あなたの愛する人の中ではえ永続化してしまうということです。その渦は他の感情や行動をも引き入れ、一連の長い行動になってしまいます。その一連の行動の最後にくるのは、痛みをなくすための破れかぶれの試みとして、何かしら衝動的行動をしてしまうというものです。アルコールに頼ったりやけ食いをして下剤を使うなど。
  そのよう行動は、別の不快な感情とともに当人がリアクションをする原因になります。その感情とは多くの場合、恥と罪責感です。感情をコントロールすることができないことに加え、自分の行為をコントロールすることもできません。


  よくあるもう一つの二次的感情は怒りです。BPDをもついとこがあなたの家に夕食を食べにくることになっているとしましょう。ところが彼は着替えてやってくるだけの元気が出ません。あなたは彼の電話をし、どこにいるのか聞きます。彼はあなたの家にいないことに恥と罪責感を感じますし、すでにとても悲しく、孤独に感じていたのです。いまや怒りの感情がとても激しく沸いてきます。この怒りは強力でエネルギーに満ちているので、恥、罪責感、悲しみ、孤独を封鎖する安全弁として役に立ちます。そうなると彼は怒りからあなたに嚙みついてきて、その行動がまた彼に恥と罪責感を感じさせます。彼の感情はエスカレートしていきます。渦は前にも増して急旋回し、その下向きの引力はそれまで以上に強力になります。彼はますます制御不能に感じ、そのせいでもっともっと感情的になってしまうのです。

  この複雑さはあなたの愛する人が感情の渦の中に何日も、悪くすると何週間も囚われているままになる理由の一つなのです。
しかしながら渦巻きをスタートさせ継続させるのは、出来事や感情だけではありません。記憶もまた同じことをします。BPDをもつ人には、苦痛についての活発な記憶があります。BPDをもつ人は苦痛の出来事の記念日や記憶に焦点を当てがちです。BPDをもつ人の脳は感情に対してネガティブな連想を形成します。その感情は多くの場合、過度に強烈であり、それゆえきわめて控えめに言っても不快なものです。これらの感情は受け入れ不可能で、ネガティブな連想の原因になり、こうして一つのネガティブな感情の経験が別のネガティブな感情に火をつけるのです。

  感情は感情が大好きです。ネガティブな感情はネガティブな感情が大好きです。bpdをもつ人は痛みを吸い取るスポンジのようなものです。ネガティブなものはなんでも吸収してしまいますし、自分の人生の悲劇から逃げ出す方法など存在しないと感じています。感情はたまりにたまり、そのネガティブな感情の蓄積の結果としても最終状態は、絶望です。絶望はあなたの愛するひととあなたの敵です。自殺のリスクは絶望と怒りの増大と共に高まります。それは、「どれほどひどく傷ついているか見せてやる」というための一つの方法なのです。



次回は「あなたのリアクション――そして、それがどこにつながるのか」を紹介します。

「境界性パーソナリティー障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著



このアーカイブについて

このページには、2021年7月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2021年6月です。

次のアーカイブは2021年8月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

home

家族会掲示板(ゲストプック)

家族会 お知らせ・その他

本のページ