DBTでは、自傷を「生物社会学的理論」で説明しています。この理論についてはすでに紹介しましたが、子どもは生物的要素と環境(社会)の相互作用の結果として、自傷に至るある種の感情の激変に陥る傾向があります。皆さんの子どもの問題の源を理解することは、皆さんと子どもの双方が、どちらかが責任を取らなくてはならないという気持ちに駆られることなく、何がいけないのかを理解する助けになります。子どもは、「弱い」わkでも「何か欠陥がある」わけでもなく、ただフェラーリのように強力な感情的エンジンを搭載しているのです――それはプラスの側面を持っています。たとえば夢を追求し、大人になったら不正を正したいと求める情熱を子どもに植え付けることができます。この理論はまた、子どもが感情統制に困難を抱えているのは親の育て方が悪かったからではない、と皆さんを安心させてもくれるでしょう。
生物社会学的理論は弁証法と同様、DBTにとって重要な理論です。なぜならそれは何が問題なのかを説明するだけでなく、回復のための地図を提供してくれるかるかるからです。皆さんの子どもは、自分の強力な感情システムに対処するために必要なスキルを学ぶ必要があります。そして皆さんは、子どもが自分の感情を本物で、重要なものとしてとらえられるように助ける方法を見つける必要があります。DBTをよりよく理解するようになるにつれて、皆さんは自分と子どもの抱える困難をより包括的な視点からとらえるようになり、罪悪感が和らぐのを感じるでしょう。同様に、子どもは自分の問題が生まれつきな性質の欠点あるいは欠陥によるものではなく、感情統制不全による、理解可能な結果であるとわかるようになるでしょう。
ロベルト夫妻は二人ともコンピュータ・エンジニアです。15歳になる彼らの娘、レジーナは芸術に熱心なかわいい少女です。彼らは診察室を訪れました。レジーナはここ一年間自傷をしていました。両親が試みたことは何も役に立たなかったようでした。両親は娘を「過剰に感情的」で、明瞭な思考ができないのだ、と説明しました。ロベルト夫妻は困惑し、心配していました。
「私たちは非常に理性的な人間ですが、レジーナはまさしく感情の塊となってしまいます。そうなるともう理性で説き伏せることはできません。私たちは、自分たちがよい親ではないと考えてしまうのです」
父親が言いました。
「それが何よ」
レジーナが言いました。
「ちっともわかってないわ!パパたちが感情を持っていなくたって、私にはどうにもできやしない。私の両親はロボットなんです」
彼女は言いました。
「私たちにも感情はあるのよ」
母親が言いました。
「私たちはただ、感情が理性の妨げにならないようにしているだけよ」
「私は理性的じゃないって言うのね?
レジーナは好戦的に尋ねました。私は提案しました。
「おそらく、皆さんのそれぞれの感情の経験の仕方に違いがあるのではないかと思います。これらの違いは、お互いを理解するうえで抱えている問題になっているのかもしれません。皆さんそれぞれの違いを理解することが、問題を解決するうえでの重要な第一歩となるでしょう」
次回は「感情統制不全に多角的に直接取り組む」を紹介します。
「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著