2021年9月アーカイブ

DBTは『これまでの治療と同じ』ではない

  DBTの効果を立証した最初の研究は1990年代初期に発表されました。治療プロトコルとして、一年間の個人心理療法と一年間のグループによるスキル訓練が設定されました。この研究はDBTと、私的なセラピストや精神保健センターでのより長期にわたる対話療法を受ける「これまで通りの治療」とを比較検証しました。研究者たちは、特に、これまで通りの治療を受けた人々と比較して、DBTを受けている人々は、意図的な自傷や自殺企図の比率がより低く、精神病院の入院日数も少なくないことを明らかにしました。

  これは特に青年期の子どもを治療するよう計画されたものではありませんでしたが、1990年代半ばに向けてアリス・ミラー、ジル・レイサス、そしてマーシャ・リネハンは、自殺傾向がある、または自傷する、あるいはその他様々な形態の危険行為を行う青年期の子どもを対象とした改造版DBTを開発しました。青年期の子どもは個人DBTで週に1回面接を受け、さらに親または保護者と一緒に週に1回、複数家族スキルグループに参加します。標準DBTでは一年間だった治療期間はわずか12週間へと短縮され、スキルグループには常に親か保護者が同伴することになりました。

  1998年に私たちは、DBTが最善の治療であると思われる青年期の子どもを対象に、マサチューセッツ州ケンブリッジの診察室で外来患者用集中的プログラムを開始しました。これらの青年期の子どもの多くは、自傷するか、あるいは自殺念慮、うつ状態、および摂食障害に苦しんでいるかのどちらか、もしくはその両方でした。彼らは週に五日、一日4時間のグループ治療に参加し、その時間にDBTスキルの全カリキュラムを教えられました。彼らはまた、DBTセラピストと週に1回か2回、個人治療しました。親は、子どものセラピストと週に1回面接することと、DBTスキルグループへの参加を通してプログラムに積極的にかかわりました。

  私たちのプログラムで成功を得た子どもたちは、2,3週間という短期間で「治癒」したわけではありませんでした。しかしながら、彼らは実際に顕著な進歩を遂げたのです。要約すると、青年期の子どもの抑うつ状態、不安、怒り、およびそのほかの心理的苦悩の経験が顕著に低下し、正常域内になりました。加えて、境界性パーソナリティー障害の症状と自傷的思考および行動が顕著な改善を示し、さらに感情調整スキル、自宅や社会的状況での機能の発達にも同様の改善が見られました。

  私の経験上、DBTによって子どもは心理的苦痛と抑うつが全体的に減少するだけでなく、3か月から6か月の間に自傷行動も劇的に減らすことができます。多くの場合、彼らは週1回の個人セッションとスキルグループセッションをさらに6か月から1年間続けます。追加治療は、彼らが自分の獲得したことを保持し、より標準的な10代の子どもらしい生活を自力で維持するのに役立ちます。

  中には、DBTが役に立たない子どもたちも、確かにいます。
  それは私が力量不足だったからか、あるいは子どもたちがあまりにも強固に不利な状況をもたらす人生経験を有していたからかのどちらかが原因です。しかし大部分において私が個人治療で面接してきたか、あるいは私たちのプログラムを最後までやり通してDBTスキルを学び、それらを日常生活の中で練習し、自傷の引き金となることを理解しようと取り組んだ何百人もの子供たちは、ポジティブな結果を示しています。私がセラピスト冥利に尽きると感じる瞬間の一つは、子どもたちが時折、数か月か数年後に訪ねてきて、自分の現状を私に報告してくれる時です。ここ10年にわたり、彼らのほとんどは自傷をやめています――しかも他のどの治療法よりも短期間で、です。


次回は「DBTセラピストの見つけ方」を紹介します。

「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

感情を調整する/苦悩に耐える

感情を調整する

  自傷する子どもたちは自分の感情的苦悩を調整するスキルを持っていません。DBTにおいて、彼らは、感情を混乱させる沸点の温度を引き下げ、ポジティブな感情的経験を増やすのに役立つ具体的なテクニックを学びます。感情調整スキルは基本的に三つの方向から感情制御不全に向けて取り組みます。第一に、子どもたちは生活の中で、感情がコミュニケーションの源として、自己承認の側面として、そして行動の前身として果たす価値を教わります。第二に、彼らは、ネガティブな感情に対して脆弱になる物事のあり方と、自分の生活をよりうまく管理することによってそれらに圧倒されずに済む方法を学びます。第三に、自分の感じ方を変えるのに役立つ、いくつかの具体的なスキルを学びます。


苦悩に耐える

  人生にはどうにもならない問題があることは、誰でも知っています。それらは交通渋滞に巻き込まれるといった程度のものもあれば、大切な人の死といった胸が張り裂けんばかりのものもあります。人生の出来事の中には、何であれ、苦痛なことがあります。したがって私たちは、これらの苦痛な時期を通り抜けるのに役立つスキルを必要とします。苦痛な時期に自傷する子どもたちは、しばしば衝動的行動あるいは対人的に有効でないことをすることで、この状況をさらに悪化させます。私たちがそうした瞬間を切り抜けるのをたすけるDBTのスキルは、苦悩耐性スキルです。これは二つのカテゴリーに分類されます。

  第一のカテゴリーは、私たちが自分の現在の状況を受け容れるのに必要なスキルです。事態をそのままに受け容れるというのは、その状況に屈するということでも、それを好きになるということでもありません。それはただ、事態がその瞬間に、あるがままに起こっていることを認めるという意味です。それと戦うのではありません。この一連のスキルは「現実受容の基本原則」と呼ばれます。
  第二のカテゴリーは「危機生存戦略」です。これは私たちがその瞬間をうまくやり過ごせるよう助けることを目指すものであり、問題解決に向けたものではありません。一時的に私たちの苦悩を減らすか、または私たちの気持ちを苦悩から逸らすためのスキルを提供するだけです。危機生存戦略には、風呂に入るといったように自分を慰めることをするか、あるいはセーターを編むことに没頭するといったように気持ちを紛らわせることが含まれます。苦悩耐性スキルは、自傷を行う子どもたちのことで頭を悩ませる中、親も学ぶべき最も重要な一連のスキルの一つであると考えます。


次回は「DBTは『これまでの治療と同じ』ではない」を紹介します。

「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著


成功のためのスキルの獲得

対人関係を有効に保つ

  自傷を行う十代の子どもは、対人関係に困難を抱えていることがしばしばです。彼らは、何とかうまく調和しようと懸命に努めることもありますが、実は、自分が他人とうまくやっていけるとは全く信じていません。彼らは拒絶を感じることにしばしば非常に神経質です。そのため、強すぎるほどしっかり対人関係にしがみつくことで、拒絶とそれに伴う見捨てられ感から自分を守ります。驚くまでもなく、これは逆効果となり、彼らは友人たちから「うっとうしい」と思われてしまうことがしばしばあります。中には、自分にはそれに取り組むためのスキルが全くないため、友人を作ることを考えただけで気力がなえてしまう子どももいます。悲しいことに、その結果、彼らはしばしば社会的に取り残されてしまうか、せいぜい青年期の子ども社会に、ほんのわずか仲間入りする程度となってしまいます。
  彼が対人関係有効性スキルを学べるよう支援することで彼らは、対人的状況で自分が何を目指しているのかを理解できるようになります。その点でカギとなる質問は、「この相互関係のためにあなたが優先させることは何ですか?」というものです。続く質問には次のものが含まれます:「あなたは何を求めていますか?」、「あなたは対人関係を修復しようとしていますか?」、「あなたが自尊心を手放さないように役立つよう境界設定をしていますか?」。
  これらの質問に答えたら、青年期の子どもは対人関係有効性スキルの使い方を学び、それを治療の中で練習し、その後、実生活の中でそれらを応用するように教えられます。こうして必要なものを身に着けると、彼らはしばしば、初めて、それまで慣れていた感情的緊張を感じることなく、対人関係を有効に保つことができるようになるのです。


  16歳のブランドンは、母親との一番最近の口論について話してくれました。以前は、彼と母親は頻繁に言い争うばかりで一向に解決しませんでした。ブランドンはどうしても謝ろうとしませんでしたし、母親はただ絶望し腹を立てているだけでした。その結果、親子間の緊張は何日も続くことがあり、彼の自傷の一因となることが多かったのです。
「土曜日に母と大喧嘩をしましたが、今回はいつもと違っていました」
  ブランドンは私に言いました。
「出て行ってしまう代わりに、僕は自分の新しいスキルを活用し、母の視点を理解してみようとしたんです。僕は謝りました。そうしたら、本当にうまくいきました!」


次回は「感情を調整する」を紹介します。

「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著
  人は感情的に圧倒されると、思考が収縮して視野が極端に狭くなりそれに集中してしまうか、または思考が拡散してまとまらなくなるかのどちらかになってしまいます。このように注意をコントロールできなくなることは未熟な決断を招き、しばしばこれらの子どもたちを悩ませる歪んだ思考の温床となります。DBTセラピストは、視野が集中しすぎ、または拡散的になりすぎた結果に生じる歪んだ思考を子どもが同定できるよう支援します。その後、適度に釣り合いの取れた見方で視野を維持するスキルを教えます。


子どもが自分の衝動をコントロールできるよう支援する
  感情的に圧倒されそうな恐ろしい感情は、自傷を行う子どもたちをしばしば衝動的にさせ、危険で無意味な行動へと走らせることがあります。その行動はつかの間の安らぎをもたらすことが目的です。彼らは、自分を駆り立てたものが何かを知らずに行動を起こすことが珍しくありません。個人DBTで青年期の子どもとセラピストは、その行動を導いたもの、行動そのもの、そしてその短期的、長期的結果に段階的に目を向けます。こうした段階的なプロセスは「行動連鎖分析」と呼ばれます。分析対象となる、問題行動を導いた思考あるいは行動が、この鎖を構成する輪の一つ一つにあたります。
  DBTセラピストは子どもに、いきなり結論に飛ぶのではなくむしろ「事実にだけ」集中するように教えるのです。子どもたちがDBTで学ぶスキルの多くは、衝動をコントロールするのにも役立ちます。



次回は「成功のためのスキルの獲得」を紹介します。

「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

感情統制不全に多角的に直接取り組む

  感情統制不全は子どもの生活のすべての側面に影響を及ぼします。認知プロセスを管理し、目標へ向けて取り組み、アイデンティティーの感覚を発達させる、というように。子どもは徐々に感情的に「流暢」になるにつれて、「現在の感情とは正反対の行動」から感情調整スキルへ戦略を変更したり、苦悩耐性スキルから「危機生存戦略」を用いて感情に耐える方法を学んだりして、自分の感情を巧みに管理していく十分な練習を積み、自傷に頼らなくてもよくなるでしょう。
  とりあえずここで私が述べたいのは、DBTが自傷に直接取って代わるものとして役立つ多数の異なるスキルを子どもに与えることで、感情統制不全を複数の方法で直接ターゲットにするということです。


自分は何者か、自分にとって正しいこととは何かを子どもが学ぶのを助ける
  一貫したアイデンティティー感覚の発達は、青年期の子どもの核心的課題の一つです。アイデンティティー感覚は、相互に作用する一連の複雑な要素の集合体です。それは、状況に関わらず自分の存在感を私たちが感じられるようにするものです。それは家族と一緒に自宅にいるときの自分から、仕事モードの自分へと変わることができるほど、十分に柔軟でなければなりません。また、私たちのアイデンティティ感覚には、論理的な基準、価値観、および個人的な向上心も含まれます。
  アイデンティティー感覚を発達させることは複雑な過程です。その過程で子どもは、様々な仮面を試し、しっくりこないものは捨てていきます。青年期初期から中期の子どもを持つ親ならば、この時期、子どもの洋服のスタイル、話し方のパターン、そして興味が目まぐるしいほどクルクルと変わることをご存じでしょう。この種の行動は、青年期の子どもが「自分」というものを定義し始めるのに役立ちます。このプロセスが生じるには、彼らがずらりと並んだ論理的、道徳的問題に関連して自分自身をどのように考え、感じるかに関心を集中できなければなりません。このような持続する内省のためには、青年期の子どもが明確な思考と感情的経験を融合させることが必要です。彼らは自分の感情を調整し、自分の思考と感情にマインドフルになり(「気づき」を持つこと)、自分の結論における賢明さを承認できる必要があるのです。
  感情統制不全を抱える青年期の子どもたちが、これらの課題に苦労するのは明らかでしょう。このような子どもは、「これが私であり、これが私にとって正しい」という境地に簡単には至らないでしょう。彼らは自分自身を承認することができないため、アイデンティティーを確立する出発点となる足場を見つけるのにもがき苦しみます。アイデンティティーの確立をうまく進めるには、感情統制が極端に困難となって混乱させ続けられないことが必要です――つまり自己を発見するためには、静かな、内省的な時間が必要なのです。
  DBTセラピストは、子どもが自分に関する一連の価値を理解するのを助けるとともに、自己承認に必要となるスキルを教えながら、芽生えつつある子どもの自己感覚を積極的に承認します。


次回は「子どもが適度に注意を払えるよう支援する」を紹介します。

「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

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